まつたけ秘帖

徒然なるままmy daily & cinema,TV drama,カープ日記

楽聖は美青年がお好き

2023-08-28 | フランス、ベルギー映画
 「ベートーヴェンの甥」
 19世紀前半のウィーン。世界的音楽家ベートーヴェンは、亡き弟の息子カールを大切に養育していた。実母ヨハンナから引き離され会うことさえ許されず、自分に異常なまでに執着する伯父にカールは追い詰められ…
 誰もが知ってるベートーヴェンですが、彼が生み出した音楽ほどにはその生涯や人柄は知られていないのでは。この映画はベートーヴェンの晩年を描いているのですが、こんな困った爺さんだったなんて驚き呆れるばかりでした。とにかく甥っこのカールへの執着が異常!まずカールの母ヨハンナへの敵意や警戒心が尋常ではなく、毒婦・淫売呼ばわりしてカールに会うことを禁じたり妨害したり。カールの行く先々に付いて来たり追いかけたり、周囲に尾行や監視をさせたり。カールが女とヤってる最中に乱入して大騒ぎしたり。ぶっちゃけストーカー。恥も外聞もない老いらくの狂態は、エキセントリックすぎてほとんどコメディ。何だか岡田あーみん先生の「お父さんは心配性」の光太郎パパとカブって笑えました。

 でも何であんなに甥に執着してたんでしょう。美青年に恋焦がれる老人、なんて悲痛で耽美な二人でもなかったし。甥に恋する伯父、みたいな禁断な関係ではなく、弟の忘れ形見を立派に育てねばならない、そのためには自分が正しいと信じてるやり方で若者をコントロール、でもそれができないので慌てふためいてる独善的で偏狭な年寄り、みたいなベートーヴェンでした。世界的な音楽家として名声を得て、楽聖とまで讃えられたベートーヴェンも、そこらにいる迷惑高齢者と同じだったなんて、ちょっと親近感を覚えてしまいました。

 ベートーヴェン爺さん、でも決してカールに対して高圧的でも威圧的でもなく、元気いっぱいな迷惑行為の後は哀れな弱い老人になって、カールに謝ったりご機嫌をとったり。そんな卑屈さも年寄りらしい狡猾さに見えました。結局はすごく寂しい、かまってちゃんな老人だったんだろうな~。でももしカールが冷たい美青年ではなく、心根の優しいブサイクだったら、ひょっとしたらベートーヴェンもあそこまでデスパレートに執着しなかったのでは、とも思いました。必要以上に苦しんだり悲しんだりしようとするドMさは、天才的な芸術家の特性でしょうか。

 カールに魅力がなかったのが残念。何を考えてるのか読めない、いや、何も考えてないアホの子みたいでした。何をされても文句を言うわけでも抗議、反抗するわけでもなく、平然としてるかブスっとしてるか。話を面白くするため、盛った創作でいいのでもっと魔性の美青年っぽいキャラにしてほしかったです。演じてた俳優も、美青年だけど繊細さを欠いたふてぶてしい感じ、ウドの大木な味気ない演技で、まったく惹きつけるものがありませんでした。ベートーヴェン役の俳優さんは、遠藤太津朗似?耳がよく聞こえないベートーヴェン、都合の悪い話になると筒?メガホン?みたいな器具を耳に当てて、え?は?何つった?をお約束のように繰り返すのも何か滑稽でした。

 カールの母ヨハンナ役は、突然の訃報がファンを悲しませたばかりのジェーン・バーキン。お元気とばかり思ってたので、ほんと驚きました。この映画の時は39歳ぐらい。まだ若くて美しいので、てっきりカールの年上の恋人役かと思ってました。時代劇コスチュームもジェーンが着ると、何だかモダンなおしゃれさが。少女のようなほっそりした体つき、か細い声は娘のシャルロット・ゲンズブールとよく似てます。カールと恋人関係になる女優エレノール役はナタリー・バイ。彼女もまだ若くて美しい!世慣れた大人の女を華やかに軽やかに演じてました。豪華な女優共演ですが、二人が一緒のシーンは一瞬だけで、二人とも出番はそんなに多くないのが残念。
 セットではなく本物の屋敷や教会、街で撮影されたのでしょうか。19世紀のヨーロッパの雰囲気がよく出ていていました。衣装も優雅で美しかったです。クラシック音楽には無知でも、さすがに聞いたことがある曲が演奏される音楽会のシーンも印象的。台詞は英語。舞台はウィーンで、オーストリア人役を英語でドイツ人やフランス人の役者が演じる。珍しくないことですが、やはりちょっと違和感は否めませんでした。
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永遠の佳人

2023-08-18 | フランス、ベルギー映画
 残暑お見舞い申し上げます!
 お盆も終わりましたが、暑さはまだまだ続きますね~…やってらんない毎日、どう生きるかなんて大きなお世話よハヤオ先生!なんて八つ当たりしながら、涼しい秋を待ちわびてます…
 
 夏のマイリトルガーデンは、もう無惨なほどに草花が死に絶えてしまってますが、クルクマは元気に鮮やかに咲いてます。春に初めて球根を植えてから、待てど暮らせど芽が出てこなかったので、土の中で球根が腐っちゃったのかなとガッカリしてたのですが、知らぬ間に発芽しててグイグイ急成長してビツクリ。この猛暑と日照り、あまり水やりもできないのに、ケロっと咲いてる強さに感嘆。可愛いけど強い、そんなクルクマのように生きてる人に憧れます。私も夏の暑さのような精神的肉体的疲労に負けたくないです。

 「サン・スーシの女」
 人権擁護委員会の会長マックスは、会見相手であるパラグアイ大使を射殺。逮捕されたマックスは妻のリナに、秘めていた少年時代の話を語り始める。ナチス政権下のドイツで父を殺されたマックスは、父の友人であるミシェルとエルサ夫妻に助けられる。ナチスの魔の手が迫る中、ミシェルはエルサとマックスをパリへと逃すが…
 ロミー・シュナイダーの遺作。この作品でもロミーは、過酷な運命に翻弄される悲しみのヒロインを演じています。この最後の出演作でロミーがいっそう悲痛に哀切に見えたのは、彼女がこの作品の撮影に入る前に最愛のひとり息子を悲惨な事故で失くした、という悲劇を私たちが知ってるからでしょうか。降板することなく演じきったロミーに、ただもう畏怖あるのみです。推察するに、気が狂ったり自殺したりしないためには、もう演技に没頭するしかなかったのでは。でもそんなロミーの壮絶な苦悩や悲しみは、彼女の演技と美貌に深みや豊かさを与える。不幸さえ演技に昇華させてしまう、まさに女優の業。今そんな女優、いないですよね~。私生活が幸せな女優さんたちの美しさや演技って、たいてい表面的で無難。きれい、かわいい、それだけ、で終わってしまう。観る者の胸を衝く演技、心に残る美しさで多くの映画ファンを魅了したロミー、ああこれが真の大女優なんだ…と、この最後の出演作でも思わせてくれます。

 エルサとリナ、二役を演じてるロミーは当時42歳、まさに散る寸前の牡丹を思わせる熟女の美しさ。優しそうだけど、決してナヨナヨしたか弱い美女ではなく、意志が強く毅然としてるところも、ロミーの魅力。劇中、不安と心痛からどんどん窶れて衰えていく容色が、痛ましくて凄絶。マックス少年役の子役と一緒のシーンが多かったのですが、撮影中のロミーの胸中はいかばかりだったのか。亡くなった息子さんとマックスが重なって、さぞや辛かったことでしょう。レストランでヴァイオリンを弾くマックスをエルサが優しく見つめるシーンの、万感の想いあふれるロミーの微笑みと潤む瞳の、悲しい美しさきたら!

 「追想」や「離愁」そしてこの遺作で、ロミーといえばナチスに翻弄される悲劇のヒロイン、というイメージ。ドイツ人のロミーが故国の過ちを描いたフランス映画で渾身の演技を見せ続けたことは、なかなか感慨深いものがあります。ドイツ語の台詞もあるロミー。「ルートヴィヒ」は彼女がドイツ語で演じたバージョンが観たかったです。

 エルサはハリウッド映画や邦画では、あまり見ないタイプのヒロイン。夫への愛が強すぎ深すぎて、マックスのことは二の次三の次なんですよ。夫のことで頭がいっぱいで、マックスをほったらしにしたり、ちょっとウザがって冷たい態度をとったり。母親というより年上の女、みたいな振る舞いをするエルサ。マックスもエルサに対しては、母を慕うというより美しい大人の女性への憧憬を抱いてる、みたいな感じも甘美でした。二人のベタベタしい疑似母子関係ではない愛の形が、まさにフランス映画って感じでした。

 それにしても。ほんとにこんなことがあったとは信じられない、信じたくないナチスの悪魔な所業。道ですれ違っただけで、野良犬のようにマックスの父を笑いながら撃ち殺したり、子どもの足を木に叩きつけて一生治らない障害を負わせたり。ナチスを演じる俳優さんたちも、仕事とはいえイヤだろうな~。「地獄に堕ちた勇者ども」で優雅で冷酷なナチス高官を演じたヘルムート・グリームが、今回は逆にナチスと戦うミシェル役を好演してます。老人になったマックス役は、ロミーとは怪作「地獄の貴婦人」でも共演してた名優ミシェル・ピコリ。少年マックスを演じた男の子が、賢そうで可愛かったです。ラストで駆け出し時代のジャン・レノが、ネオナチの若者役でチョコっと出てます。当然ですが若い!
 
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君に薔薇薔薇という感じ!

2023-08-03 | フランス、ベルギー映画
 「苦い涙」
 映画監督のピーターは、親友の大女優シドニーが連れてきた青年アミールに一目で恋し、自宅兼オフィスであるアパルトマンで彼と同棲を始め、彼を映画に起用してスターに育てる。しかし、しだいにアミールの言動は冷めたものとなり、彼の不実さはピーターを深く傷つけるが…
 ほぼ一年に一作というハイペースさで新作を発表しているフランソワ・オゾン監督が、ドイツの鬼才ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー監督の「ペトラ・フォン・カントの苦い涙」をリメイク。オゾン監督の旧作「焼け石に水」も、ファスビンダー監督の作品がオリジナルだとか。主人公とその若い愛人を、女性から男性に変えるという挑戦的な、いや、オゾン監督が思い切り手腕を発揮できる設定に変えてのリメイク、とも言える今作。オリジナルのペトラは、イタくてキツい中年女の醜態狂態にただもう居心地が悪い思いをするだけでしたが、オゾン版は思ってた以上にオゾンテイスト、オゾン色に染められた軽妙な毒気のあるブラックコメディに仕上がっていました。

 男女逆転以外は、台詞も展開もほぼオリジナルと同じなのですが、男と女、そして監督が違うと、ここまで別作品になってしまうものなのですね。中年が若者に溺れて理性も分別も失う、その物狂おしさはペトラもピーターも同じなのですが、女だと気持ち悪い、男だと何か滑稽になっちゃう。ペトラはひたすら気色悪かったけど、ピーターはいちいちクスっと笑えてしまった。

 とにかく身も心も若い男にZOKKON命になったピーターが、みっともなくて笑えます。恥もプライドもなくなっちゃう年の差恋愛のイタさと怖さ。若くて美しい、だたそれだけで屈服、卑屈になってしまう気持ちは、私のようなおっさんには理解はできます。若者と親密になりたい、対等な関係を構築したいと、つい願ったり期待しちゃったり奮闘しちゃったりするけど、そんなの無理なんです。そんなのわかってるのに、まざまざとそれを思い知らされて怒りや屈辱、自己嫌悪にや虚しさにまみれても、ぶざまに若い男を狂おしく求めてしまうピーターが、同じおっさんとしてはイタタタタでした。

 年の差恋愛がうまくいかないのは、やっぱ相手に対する軽蔑と自分本位な打算のせいだと、ピーターとアミールを見ていて痛感しました。アミールのほうは露骨にピーターを利用してるしバカにしてるし、愛してないことを隠してもないのがむしろ清々しくもあった。ピーターだって、アミールを可愛がれば懐くはずのペット扱いしてるみたいで、内心ではアミールを下等人間だと思ってるのは明白でした。そういう恋愛の不毛さや不純さを、シニカルなコメディタッチで描いてるところが、さすがオゾン監督です。

 笑えるシーンはいっぱいあるのですが、いちばんツボだったのはやっぱ終盤のカオスな全員集合でしょうか。はじめはみんな友好を装いながらも、サラっとチクっと皮肉やイヤミ、当てこすりを投げ合ったり。ぷっつんしたピーターが、隠してた本音をみんなにブチまけるくだりは、「8人の女たち」を彷彿とさせた洒脱な辛辣さ、毒々しさでした。演出、脚色、衣装、映像、すべてにおいて男性監督にも女性監督にも創り出せない、才気あるゲイだけが描けるハイセンスな喜劇になってました。 

 キャストもみんな好演。ピーター役は「グレース・オブ・ゴッド 告発の時」など、オゾン監督のお気に俳優ドゥニ・メノーシェ。鬼顔&巨漢、怖い悪人な風貌だけど、デリケートな役も似合うところが不思議な俳優。グレース・オブ・ゴッドでも思ったけど、すごいおしゃれなんですよね彼。さすがフランス人。女々しい演技も何か可愛かったです。初めて会ったばかりのアミールに、鼻の下伸ばしてデレデレな顔が笑えた。あと、房事後にベッドから出てきて見せた着ぐるみみたいな全裸も笑撃的でした。アミール役のハリル・ガルビアは、中年男をメロメロにするほどの美青年には見えないのですが、親しみやすい可愛い顔はしてます。ちょっとタッキー(滝沢秀明氏)を濃ゆくした感じの顔に見えた(わしだけ?)。

 この映画でいちばん楽しみだったのは、私のシネマ女神さまである大女優イザベル・アジャーニを、久々に大きなスクリーンで見ることでした。アジャ様も御年68、でも高齢者感は微塵もありません。まだまだお美しい。フツーの美人とはレベチな美しさ。凡百の女優にはない華も失ってません。心配(&ちょっと期待)してたほど妖婆化してなくて、安堵+ちょっぴり残念でも、顔の筋肉がほとんど動いてないのが怖かった。濃ゆいメイクの美貌には、年齢不詳の妖しさが備わっていて、今後は美魔女ならぬ美妖女な役で活路を開けそう。シドニーもノーテンキなふりして、かなり妖しい本性の女だったし。ちょっと自虐的な設定や台詞が笑える、アジャ様の軽やかなコミカル演技も楽しかったです。出番が多くないのが残念。ピーターの母役は、ファスビンダー監督のミューズで、アミールに当たる役をオリジナル作で演じたハンナ・シグラ。すっかりお婆さんになりましたね~。でもオリジナルの頃の美しさの名残はあります。アジャ様とはカルロス・サウラ監督の1982年の映画「アントニエッタ」でも共演してましたね。二人とも美しさが絶頂期の頃でした。

 ↑41年前!のイザベル・アジャーニ&ハンナ・シグラ
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剥ぎとられた美貌!

2023-07-20 | フランス、ベルギー映画
 夏のホラー映画祭③
 「顔のない眼」
 高名な外科医ジェネシェ博士は、交通事故で顔に重傷を負った娘クリスティアーヌのために、助手のルイーズと共に誘拐した娘たちの顔の皮膚を剥ぎ、クリスティアーヌに植皮手術を施していた…
 1960年のフランス映画。美女の顔の皮を剥ぎ取って移植するという、ゲロゲロ(死語)な設定のホラーなのですが、美しいモノクロ撮影や、神秘的な森の奥深くにある洋館、不気味なマスクを被った可憐なヒロインなど、クラシカルでゴシックな雰囲気の怪奇映画になってました。わたなべまさこ先生とか高階良子先生が描きそうな少女漫画みたいでした。

 顔皮剥ぎの手術シーンは、思ってた以上にエグくてウゲゲ。あんな植皮手術が成功するわけがなく、惨劇のラストへと向かってしまうのですが。博士も愛娘のためというより、自分の医学的野心にとり憑かれて悪魔に魂を売ってしまった感じ。モルモットにされるクリスティアーヌと、動物実験のために集められた犬たちが哀れでした。そのモルモットたちによって無惨な最期を遂げる博士、まさに皮肉すぎる因果応報な末路でした。

 残虐な悪魔の植皮手術より怖かったのは、博士とルイーズが美女たちを誘拐する手口。ルイーズがターゲットの娘たちに近づき、言葉巧みに誘って博士の待つ館へと連れて行くのですが。誘ってくるのが男ではなく、裕福そうな年上の女性なので、つい気を許して油断しますよね~。同性だからって、迂闊に誘いに乗ってはダメだと痛感。車に乗った熟女が若い女性たちを物色し、誘拐して殺す…ルイーズが、富山・長野連続女性誘拐殺人事件の宮崎知子とカブって戦慄。

 博士とルイーズが、サイコホラー映画でよくある狂った快楽殺人鬼などではなく、大真面目に狂気の凶行に及んでいるのが返って怖いです。ルイーズ役のアリダ・ヴァリが恐い!その冷酷な鬼顔は、怪奇映画にぴったり。博士のために何の躊躇も恐れもなく美女を狩り、顔皮剥ぎを手伝い死体を遺棄するルイーズ。その冷ややかな無表情、凍り付いたような目が鬼畜の行為の最中、歓びで微かに震えるように見えることがあって、女って愛に狂うと何でもできちゃうんだなとゾっとしました。
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熟女作家が溺れたイケメン

2023-06-12 | フランス、ベルギー映画
 「年下のひと」
 19世紀半ばのフランス。子どもたちを連れ夫のもとからパリへと出奔した女流作家ジョルジュ・サンドは、批評家から酷評され傷ついた自分を励ましてくれた劇作家のアルフレッド・ミュッセと親しくなり、やがて恋人関係となる。二人はイタリアで暮らし始めるが…
 ジュリエット・ビノシュとブノワ・マジメルが、実生活を彷彿とさせるA・CHI・CHI・A・CHI by 郷ひろみ な恋人同士を演じた時代劇です。1999年、24年前!の映画なので、当然ながら二人とも若い!特にブノワ!当時24歳!その美青年ぶりはもはや伝説な「ピアニスト」よりさらに前の作品。その美しさ、可愛さとイキのよさときたら!でっぷり、じゃない、すっかり貫禄も恰幅も備えた現在の熟年ブノワとは、文字通り別人!その若々しい表情や一挙手一投足に観入ってしまいます。

 現在の彼との最大の違いは、やっぱ体型でしょうか。若き日のブノワは、とにかくスマート。細いけどガリガリ貧相ではなく、引き締まったしなやか肢体です。肌もピチピチツルツルな美白!今のブノワも素敵だけど、往年のファンは美しかった頃の彼に格別な想いを抱いてるので、この映画の彼を見たらこちらまで若返るような気分、そして甘い喪失感も覚えることでしょう。ブノワもだけど、私も年とったよな~…という感慨も。

 この映画のブノワ、若くて美しいだけでなく、他の出演作に比べて笑顔と活発な演技が多く、明るくておちゃめ。少年のような闊達さ。前半はかなりコミカルでもあります。若い頃にもっとラブコメにも出てほしかったと思いました。中盤、イタリアに移ってからは、美しく才能ある芸術家のご多分に漏れず、ミュッセも身勝手で破滅的な本性をあらわし始めるのですが、そんなブノワもとにかく可愛い!ウソやろ~!何やっとん!と呆れ果て、もう付き合いきれん~!と疲れ果てても、ミュッセを見捨てられないジョルジュ。可愛いブノワだから納得もできたが、ミュッセ役がもし演技が上手いだけの俳優だったら、最低のダメ男クズ男として不愉快になるだけだったでしょう。天然な人たらしイケメンほど厄介な生き物はありませんね。

 ブノワasのミュッセの暴れっぷり、やらかしっぷりもとにかく可愛いんですよ。熱病になって錯乱するシーンと、嫉妬に狂ってジョルジュの首を絞めるシーンがイカレててトレビアン。ほんとなら迷惑なだけのDVストーカー男なんだけど、「流浪の月」の横浜流星といい、ヤバさも魅力になるのがイケメンマジック。

 コスチュームプレイも似合う若き日のブノワ。衣装が上品かつおしゃれ。特に薄いピンクのジャケットが可愛いかったわ。ビノシュとのラブシーンは、10分に1回あると言っていいほど頻繁。とても仕事とは思えず、ほとんど公私混同。でも露骨で生々しいシーンは全然なくて、ブノワも、脱ぎっぷりのいいビノシュでさえほとんど脱いでません。

 ジュリエット・ビノシュは当時34歳、ブノワほど現在とのギャップはありません。何でこんな美人でもない野暮ったい女に、映画でも私生活でもいい男たちが次々とハマっちゃうの?と、かつては不可解だったモテ女っぷりも今なら理解できる私。サイボーグみたいな人工的美女にはない、おんなの生臭さが男にとっては強烈なフェロモンになってるのでしょう。女ざかりのモチモチした白い肌も、若い女にはない色香が。
 ジョルジュ・サンドに関しては、ほとんど無知だった私。奔放な恋愛遍歴や創作意欲など、ちょっと瀬戸内寂聴先生とカブったのは私だけ?恋に夢中になっても子供たちと別れることもなく、元夫や元カレたちとも友好関係、名声も得るジョルジュ。自由を愛する働く女性にとっては、理想的な人生にも見えました。古都ヴェネツィアの風景が趣深かったです。ラストシーン、ジョルジュが歩くパリの晩秋の並木道も美しかったです。

 ↑ 恋人同士だった頃の二人

 ↑ 現在の二人。何と四半世紀を経ての再共演!その新作“La passion de Dodin Bouffant”は今年のカンヌ映画祭でお披露目され、二人の仲良しぶりも話題に。別れた後も友好関係だったようですね。大人の関係!素敵!


 
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アマン 美しき間男

2023-04-30 | フランス、ベルギー映画
 「純愛不倫」
 ドラッグ売人の恋人シモンが顧客を死なせてしまい、リザは彼と一緒に逃走しようとする。しかしシモンは失踪、傷心のリザは裕福な実業家レオと結婚する。数年後、レオと滞在中のマダガスカルのリゾートで、リザはシモンと再会するが…

 日本では劇場ではなく配信公開となったピエール・ニネ主演作を、ようやく観ることができました。ひどい邦題やっぱニネっちとは、大きなスクリーンで会いたいですね~。この作品では珍しく、かなりのクズ男を演じてるニネっち。まっとうに生きられないヤクの売人、捨てた女と元サヤとなり、彼女の隠れヒモになって生活の面倒を見てもらい、あげくは彼女の亭主を殺そうとする最低な間男役!なんだけど、全然そんな風には見えないところがニネっちマジックです。「パーフェクトマン」でも盗作や殺人を犯してしまう男役でしたが、ニネっちのほうが悪いのに、彼を追い詰める周囲のほうが悪人に見えてしまうんですよね~。ニネっちがあまりにも優しそう、人が善さそうで、汚らしさとか下卑たところがないから。悪い男ではなく、根は善人だけど愚かさや運の悪さで堕ちてしまうダメ男。そんな役も魅力的に演じられるニネっちです。

 それにしてもニネっち、ほんと美しいわ~。ちょっとイケメンレベルの俳優やアイドルを見狎れてるので、たまにニネっちを見るとその落差に衝撃さえ覚えてしまいます。瞳と声の美しさといったら。キラキラと澄んだ瞳は、どん詰まりな濁った人生のシモン役には似つかわしくないほど。低くて甘い声、あんなの耳元で囁かれたら逆らえなくなりますよ。クズ男にハマるリザも相当なダメ女なのですが、確かにニネっちみたいな男だと、一緒にいてろくなことにはならないと知りつつ離れられなくなるのも理解できます。自分のものじゃなくなるには、あまりにも惜しい男。

 ニネっちの甘く情熱的なラブシーンも見もの。キスや愛撫など、実際のニネっちもセックスが上手なんだろうなと思わせてくれます。脱ぐのが大好きなニネっち、今回も自慢の肉体美をたっぷり披露してます。細いけど筋肉質で美白なカラダ。フランス男には珍しく胸毛とか全然ない、日本の女子にとっては好ましい清潔感のある裸です。シンプルなセーターや革ジャン、ポロシャツなど、何を着てもエレガントなところもニネっちらしいです。

 ヒロインのリザ役は、佳作「アマンダと僕」や、タハール・ラヒム主演のTVシリーズ「ザ・サーペント」などのステイシー・マーティン。かわいこぶりっことは対極にあるようなブスっと不機嫌な表情とか、夫も愛人も手放さないけど悪い?!と開き直ってるような図太い感じが魅力的。ニネっちとはモデル同士のようなカッコいいカップルぶりでした。彼女も脱ぎっぷりがよい。
 レオ役は、昨年の「愛する人に伝える言葉」に続き新作の“Pacifiction”で2年連続セザール賞の主演男優賞を受賞し、今やフランス映画界の重鎮的な存在となったブノワ・マジメル。

 すっかり貫禄がつき恰幅もよくなったブノワ。美青年だった彼が、女房を若い男に寝取られる中年役なんて。隔世の念を禁じ得ませんが、年齢とともに備えたシブさと哀愁は、まさに酸いも甘いも知る大人の男の魅力。すごい頼もしい感じも素敵。レオが妻の不倫を知っても冷静で、間男に対しても大人の対応をするのがちょっと物足りなかった。せっかくのブノワとニネっちの競演なので、もっと火花バチバチ対決してほしかったです。若い美男子へ劣等感とか嫉妬とか抱くほどの老醜の境地には達しておらず、まだバリバリ現役男なブノワなので、レオ役はもっと爺俳優のほうが合ってたかも。可哀想な寝取られ亭主として殺されるのかなと思いきや、若造なんかにやられん!と見事に返り討ちをくらわすブノワでした。

↑ 二人とも、どこの組の若頭?!マフィア映画でも共演してほしい二人ですね

 ↑ 新作いっぱいある働き者なニネっち。イザベル・アジャーニ共演の“Mascarade”の日本公開が待ち遠しいです。最新作は新たに映画化されるモンテ・クリスト伯!ニネっちの時代劇、楽しみすぎる!
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なりすまし熟女にご用心!

2023-03-29 | フランス、ベルギー映画
 お松のフランス大女優映画祭⑤
 「私の知らないわたしの素顔」
 年下の恋人ルドに捨てられた大学教授のクレアは、若い女になりすましルドのルームメイトであるアレックスにSNSを通して近づく。いつしかアレックスとネット上で親密な関係になるクレアだったが、アレックスは彼女と会うことを熱望し始め…
 ジュリエット・ビノシュ主演の映画、久々に観たような。最近はコリン・ファース主演のTVミニシリーズ「ザ・ステアケース」でも、男にのめりこむ中年女のイタい必死さを好演してましたが、このフランス映画ではさらにイタかった。おばさんになったJBさんって妙に生々しくて、饐えたような女の性が観る者の胸をザワつかせるような役や演技が多い。アカデミー賞を受賞し、母国フランスのみならず英語圏の映画でも活躍する大物国際女優である彼女が、何でここまでするのと畏怖するやら呆れるやら。今回も、もう若くない全裸を堂々とさらし、あられもなく若い男たちを激しく求めたり。テレフォンセックスや車内自慰シーンとか、よくやるわ~な性演やホルモンバランス異常っぽい表情など、ほとんどホラーでした。

 裸もセックスシーンも、正直痛ましいだけなのですが、若い頃から不変な女優魂はあっぱれ。年齢を重ねても守りに入らず、どんどん恐れ知らずになっていくジュリエット・ビノシュとかケイト・ウィンスレットみたいな女優こそ、私にとっては真のアクトレスなんです。いい年してキレイカワイイに固執する、演技に深みや成熟が出ない女優は女優と見なしたくないです。同時に、おケイさんやJBが苦手な人が多いことも理解できます。二人とも常に現実的で生臭い女で、好感や共感なんかまったく求めてませんからね~。むしろその真逆、男をドン引きさせ、女には居心地の悪さを覚えさせる役ばかり選んでるような気がします。作り物、飾り物じゃないリアルな役を彼女たちは求めているのでしょう。そんなの求めてない!な映画ファンにとっては、気持ち悪いだけのおばさん

 それにしても。若い女になりすまし、嬉々として色気づく中年女のあさましさときたら。フランスって熟女がモテモテな熟女天国だと思ってたけど、そうでもなかったようです。どこの国ももてはやされるのは若い女のほうで、若くない女は蔑ろにされる。そんな屈辱や欲求不満から、クレアと同じようなことをして悦んでる女性って、実際にもたくさんいろんだろうな~。ピンクな会話や嘘、ごまかしも、かなりの想像力や演技力が必要でしんどそう。そこまでして男と知り合ったりセックスしたいものなのでしょうか。私なんかもう、仕事や自分のことでいっぱいいっぱい。SNSで誰かと親密になりたいと思う余裕も気力もありません。ましてや別人になりすましてまで。若さにこだわってたクレアでしたが、ありのままの自分を受け入れてもらえないのなら、もう独りでいいじゃんなんて思う私は、ほんと身も心も冷たく乾いてる人間なんだろうな~。

 アレックス役は、ピエール・ニネのマブダチ?フランソワ・シヴィル。おバカなイメージが強い彼ですが、よく見ればイケメンなんですよね。おバカじゃない役の彼、初めて見たかも。ナイーヴで情熱的な若者役のシヴィルくんもなかなかよかったけど、やっぱアホな子の彼のほうが好きかも。ルド役のギヨーム・グイも好きな俳優。シヴィルもグイもお尻出して、熟女相手のおつとめ頑張ってました。
 フランス大女優映画祭、お目汚しMeci !次回は春のBL映画祭開催(^^♪
 
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美青年の白い体を…

2023-03-27 | フランス、ベルギー映画
 gooブログ、ちょっと男優や女優の裸の画像をのせただけで、すぐに通報されて停止になってしまいます別に卑猥な画像をUPしてるわけじゃないのに…映画もブログも、過度なポリコレで表現が制約されすぎてしまい、優等生だけ、無難なだけの世界になっていってるのがつまんないです。美しい男優女優の裸体を卑猥なものとして見なすことのほうが、よほどそれらをイヤらしい目で見てると思うのだけど…

 お松のフランス大女優映画祭④
 「これが私の肉体」
 映画の主役にスカウトされたブルジョアの大学生アントワーヌは、主役を演じるはずだった青年ルカが不可解な投身自殺をしていたことを知る。映画監督のルイーズにアントワーヌは心惹かれるが、彼女はルカと親密な関係にあった…
 アントワーヌ役は、これが実質の映画初主演となったルイ・ガレル。現在39歳のガレル氏、アメリカ映画「ストーリー・オブ・マイライフ」での好演も記憶に新しい。映画監督としても最新作が高く評価されているなど、フランス映画界の才人として活躍中。若い頃よりアラフォーな今の彼のほうが、断然いいと思います。若かりしガレル氏は、確かに美形なんだけど、かなり独特というか特異というか、ちょっと不気味な顔なんですよね~。すごい美白肌!韓国アイドルみたいなメイクばっちりな人工的なものではなく、ナチュラルホワイトなんだけどきれいすぎて気持ち悪い。この初主演作の時は18歳!さすがにまだ顔は少年っぽくて、たまにすごくあどけなく見える時があり、初々しくはあります。

 まだ20歳にもなってないのに、人生も女も知り尽くして飽きてるかのような、あの冷めた倦怠感はいったい。日本の20代のアイドルや俳優に比べると、大人っぽすぎるルイです。「ドリーマーズ」や「ジョルジュ・バタイユ ママン」など、まさにフランスの全裸王子な脱ぎっぷりを誇ったルイですが、この初主演作でもガールフレンドとのエッチシーンなどで、前も後ろも一切隠さない姿に。有名監督を父にもつルイですが、日本の2世タレントには絶対不可能なすっぽんぽん演技です。18歳の少年をあそこまで脱がせるとか、今だと問題になるのでは。

 暗くて大胆だけど、ガツガツした気合いとか力みなどは一切なく、どこか優雅で高貴な雰囲気をまとっているのもルイの魅力でしょうか。どんなにイケメン、どんなに演技が上手でも、貴族やブルジョアの役には無理がある俳優が多い中、ルイのお坊ちゃまぶりはすごく自然です。なにげないけど洗練された彼のファッションも、さすがパリジャンなおしゃれさ。スラっとした長身もカッコいいです。
 ルイーズ役は、エルメスの高級バッグの名の由来にもなった、いい女といえば彼女な時代があったジェーン・バーキン。

 厳密に言えばフランス女優ではないジェーンですが、彼女をイギリス人、イギリス女優と見てる映画ファンって、ほとんどいないのでは。美女ではないけど、無造作で飾らない感じが素敵です。顔も、ひょろっと少年っぽい体型も、娘のシャルロット・ゲンズブールにやっぱ何となく似てますね。かぼそくて少し高めの声が可愛いです。優しくしたり冷たくしたり、息子のような年下の男を翻弄する熟女をミステリアスに、ちょっと神経症っぽく演じてます。年の差恋愛ドラマなのかな?と思いきや、そんな展開にはならず、アントワーヌとルイーズの関係がよくわからずじまい。ルカがなぜ自殺したのかも謎。そういうアバウトで曖昧な内容は、いかにもフランス映画です。映画製作の裏側とか、もっと面白く描いてほしかったかも。アントワーヌの恋人役、メラニー・ロランも若い!可愛い!彼女も脱ぎっぷりよすぎ!アントワーヌの祖母役で、「ピアニスト」などの名女優アニー・ジラルドが、ちょこっとだけ出てます。ボケてる(フリしてる?)意地悪ばあさんぶりが笑えた。アントワーヌの幼い妹たちが、結構な悪ガキなのも笑えた。

 ↑ パパのフィリップ・ガレル監督作「救いの接吻」のルイ、当時6歳!可愛い!
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変なおじさん!脳内どろドロン

2023-03-05 | フランス、ベルギー映画
 お松のフランス大女優映画祭③
 「真夜中のミラージュ」
 アル中の中年男ロベールは、列車のコンパートメントで出会った女ドナシェンヌと関係を持つ。ドナシェンヌについて列車を降り、嫌がる彼女の家まで押し掛けたロベールは、そこに次々と現れる人々と奇妙な騒動を起こすが…
 60・70年代に日本で絶大な人気を誇ったアラン・ドロンですが、美男の代名詞と言われたその美貌や、出演した巨匠や名匠の秀作佳作は称賛されても、彼の演技が高く評価されることはそんなになかったようです。美しい俳優や女優が否応なくたどる道、加齢とともに衰退する美貌とキャリア…あの人は今なスターになりかけていた80年代のドロン氏が、セザール賞の主演男優賞を受賞し再注目され、俳優としても再評価された作品です。そう聞くと、さぞかしシリアスな役と熱演を?と思うし、映画ポスターや邦題は大人のラブサスペンス?だと思わせるものですが、ノンノンノン!そんなんじゃ全然ありませんでした!不条理コメディ?いい意味で予想も期待も裏切る珍作、怪作でした!

 「バルスーズ」のベルトラン・ブリエ監督作と知り、納得の珍妙さでした。とにかく独特、ていうか意味不明でシュールです。これは現実の世界なのか、そうでないのか、定かではない不可思議な展開と場面に、観客は困惑させられます。わけわからん~だけど、何か笑えます。人生と愛の危機に瀕した中年男の魂の彷徨、混沌とした深層心理の世界だと思うのだけど、そんな小難しさでウンザリさせるお高くとまった映画ではなく、酔っ払いのドンチャン騒ぎを見ているような愉快奇怪な映画でした。この映画の台詞や内容を理解できる人を尊敬、そして心配します

 かつて一世を風靡した稀代の美男、アラン・ドロンのうらぶれた姿、イカレっぷりは往年のファンにはショックかもしれませんが、確かにキャリア最高の演技と言われてるだけはあるインパクトです。その名の通りドロンとした、視線が定まってない目。若い女を追っかけ回すストーカーおやじで、意味不明な言動を繰り返し時に大暴れするなど、完全にヤバい人。ファンが愛するイメージをブチ壊すリスキーな役ですが、そんな悲壮感はまったくなくて、変なおじさんをノリノリで演じてるドロン氏です。インタビューによると、若い頃からコメディに出たかったけど、ファンが喜ばないから断念することが多かったとか。そんなドロン氏のコメディへの意欲が、この映画で炸裂してます。まさに中年の狂い咲き!

 ストーカーおやじ、変なおじさんだけど、どこかトボけてて可愛いドロン氏です。滑稽なシーン満載ですが、私が特に笑えて好きなのは、崩れた本棚の下敷きになっちゃってるシーン。ほとんどコントでした。初老に近いけど、やっぱ美男なドロン氏。くたびれたスーツも似合ってて、小粋に見えてしまう。ドロン氏みたいな見た目はダンディなイケオジでなければ、確実に通報される役ですし。
 ドナシェンヌ役は、大好きな素敵女優ナタリー・バイ。

 当時35歳ぐらいのナタリーおばさま、さすがに若い!美人っていうより、いい女。常に無表情で冷ややか、時に激しくプッツン、おじさんにトゲトゲしいドSな女を、クールにミステリアスに演じてます。冷たい役でも、優しそうで柔らかな感じがするところが好きです。80年代の髪型も、いま見るとカッコいい。ラストでソファに座ってるナタリーおばさまの美脚!まさにザ・女優な足でした。
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熟女の遍歴

2023-02-17 | フランス、ベルギー映画
 お松のフランス大女優映画祭①
 「ジョーンについて」
 出版社の社長ジョーンは、ダブリンで暮らしていた若い頃の恋人ドグと偶然再会する。ドグと別れた後ひそかに彼との子を産んで育てたジョーンのもとに、その息子ナタンが訪ねてきて…
 ジェシカ・チャステインやニコール・キッドマン、ケイト・ブランシェットといった当代一のトップ女優たちがリスペクトする、女優が憧れる女優イザベル・ユペール。そのキャリアと年齢の重ね方は、まさに女優としては理想的。アンチエイジングな枯れたエレガンス、軽快でクールな演技は、アラ還にしてますます魅力を増し、世界各国の才ある映画監督から今なお引っ張りだこなユペりんです。彼女を唯一無二な女優にしているのは、やはりあのシレっとスットボケたところでしょうか。重苦しい宿業や心の闇を抱いた役でもそんな風には全然見えず、木で鼻を括っているような演技や風情が独特すぎるけど、いかにも特異でしょ?個性的でしょ?な押しつけがましさや自意識過剰さは微塵もないところも、彼女をオンリーワンな女優にしています。

 この作品のユペりんも、いつもと同じでクールでニヒル、そしてシレっとしてます。冒頭、カメラ目線で観客に自分語りを始めるジョーン、その半生は結構ヘヴィで波乱万丈なんだけど、ちっとも苦労や悲しみを滲ませても漂わせてもおらず、実は傷ついてます疲れてますと同情を媚びることもなく、肩をすくめて淡々と平然とした感じなのがユペりんらしいヒロインでした。フツーの女優なら、運命に翻弄され傷ついた悲しい女、または運命に抗う強い女、みたいないかにも映画的なヒロインとして熱演するだろうジョーン役ですが、イザベル・ユペールはそんなありきたりなことはしません。男との恋に破れようと、未婚の母になろうと、母親に捨てられようと、サラっと受け流してシレっと生きてるジョーンもまた、イザベル・ユペールの個性と魅力を活かすために創造されたヒロインでした。

 恋人や息子への、ジョーンのベタベタしない冷淡な優しさが、大人の女って感じで素敵でした。あんな風に軽く突き放した感じで、でも大事に思ってることは相手に伝わる接し方ができたらなあ。いつでも誰にでもドライで軽やかなジョーンがカッコいいのですが、実はヤバい人だったということが終盤になって判明。長い月日が経っても克服できない悲しみで、ある意味狂気に陥っていたジョーン。え?!な事実に驚きつつ、やっぱりねとも。イザベル・ユペールがフツーの女であるわけがなく、期待通り(笑)イカレ女だったので安堵もそういった狂気も、悲しみと決別して新たな一歩を踏み出す姿も、やっぱ特段に劇的な言動も変化も見せずサラっとシレっとしてるのが、これぞイザベル・ユペール!でした。
 ジョーンの恋人であるドイツ人の作家とか、ジョーンの母親とかがエキセントリックな珍キャラで笑えた。日本人の空手家カズオと日本に出奔する母ちゃんの、北斎の絵もどきにタコとセックスしてる痴態や、何ちゃって日本人な扮装や日本語の台詞は、日本をリスペクト?それともディスってる?ジョーンの息子ナタン役は、オゾン監督の「グレース・オブ・ゴッド 告発の時」でセザール賞を受賞したスワン・アルロー。相変わらず個性的な顔。ナタンは実は…なトリッキーな設定を、上手に伏線とかで描いてないので、ラストの事実判明が唐突で反則っぽくなってしまったのが残念。ダブリンやパリ、フランスの田舎など、ジョーンの人生に合わせたかのように、それぞれに色彩や温度感が違う映像も美しかったです。ジョーンの田舎にある家、あんなところに住んでみたいわ~。イザベル・ユペールの、ナチュラルでフェミニンな趣味の高いファッションもトレビアン。中盤のちょっとパンクでファンキーな衣装や髪型もカッコいい!
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