まつたけ秘帖

徒然なるままmy daily & cinema,TV drama,カープ日記

オルゴールに秘めた罪!

2024-12-15 | 北米映画 00~07
 「ミュージックボックス」
 ハンガリー移民の父ミシュカが突然ナチスの戦犯として告発され、娘で弁護士のアンは動揺しながらも父の無実を信じ、父の弁護人となって法廷で戦う決意をするが…
 「関心領域」でもうナチスものはオナカイッパイ、しばらくナチス関連の映画やドラマは遠慮したい、と思っていたのですが。ナチスって避けるのが難しいんですよね~ほんと映画やドラマにとっては、ナチスって恰好のネタなんでしょうね。面白そうな作品にはナチスが絡むことが多い。この映画も、ナチスの残虐非道さを描いています。「」や「戒厳令」など政治サスペンス映画の巨匠、ギリシャ出身のコスタ・ガブラス監督がアメリカで撮ったアメリカ映画です。

 それにしても。ナチスの罪を描いた映画やドラマを観るたびに、戦慄と暗澹で心が痛めつけられてしまいます。こんなことが本当に…と信じられない、信じたくない。人間が人間にすることじゃない。人間やめないとできないおぞましさです。この映画では、直接的な残酷シーンはないのですが、非人間的な残忍さが明るみにされる被害者の証言…もう聞いてて吐き気が残虐行為も怖かったけど、獣にも劣る行為を公然と平然としてた連中が、戦後も罪を問われず逃げ生き延びて、のうのうと幸せな人生を歩んでた事実にもゾっとします。そんな元ナチスたちの強運さ、生命力とメンタルには畏怖さえしてしまう。元ナチスを溶け込ませたアメリカ社会のユルい寛容さにも。

 ドイツ人がドイツ人を、ハンガリー人がハンガリー人を虐殺、同じ国民を陥れるよう殺すよう仕向けたという悲劇も、ナチスの大きすぎる罪ですね。ナチスを批難し糾弾する人と同じぐらい、今でもナチスに賛同し援助する親ナチがいることも怖すぎる。ナチスの被害者同様に、ナチスの子孫にも同情を禁じ得ません。自分の父や祖父が、あんな忌まわしいことをしていていたナチスだったら。想像しただけで自分自身をも呪わしくなってしまいます。父は無実と信じながらも、疑惑を払拭できず苦悩するアンが悲痛でした。終盤、質屋で発見されるオルゴール(ミュージックボックス)に隠されていた真実で、衝撃的かつ絶望的などんでん返し。因果と正義の重さに心が沈みます。ナチスが遺した負の遺産は、永劫の生き地獄。ライトで痛快な法廷ドラマが好きな人にも観てほしい映画かも。

 主人公の弁護士アン役は、2度のアカデミー賞に輝く80年代のハリウッドを代表する名女優ジェシカ・ラング。この映画でオスカーにノミネートされたのも納得の、彼女の迫真かつデリケートな演技が素晴らしいです。法廷に立つ時の威厳と風格は、まさに大女優にしかないオーラ。日本のキレイカワイイ女優がやってる女弁護士の学芸会さを、あらためて思い知らされました。検察側の証人を攻める時の冷酷さは、まさに鬼女そのもの。圧巻だったのは、おぞましい証言を聞いている時の表情です。無表情なのですが、内面の揺らぎと慄きが伝わってくるスゴい顔。キレイカワイイ女優さんたちでは決して表現できない、女性として人間として心が切り裂かれるような懊悩が、ナチスの罪同様に重く悲痛でした。女優として最盛期にあった頃なので、とても美しくもあるジェシカさん。オンナオンナしてない、硬質の美しさが弁護士役に合ってました。
 ナチス支配下のハンガリーのことも勉強になりました。ハンガリーロケも興味深かったです。脚本は、あの「氷の微笑」など俗悪サスペンスの名手だったジョー・エスターハス。実際にもハンガリー出身だとか。重いテーマをエンタメにできる業腹な商魂逞しさに敬服。
コメント (2)
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