まつたけ秘帖

徒然なるままmy daily & cinema,TV drama,カープ日記

球根と男根

2018-10-12 | 北米映画 15~21
 「チューリップ・フィーバー 肖像画に秘めた愛」
 絵画とチューリップの球根への投資に人々が熱中していた17世紀のオランダ、アムステルダム。孤児のソフィアは豪商の老人コルネリアスと結婚し、裕福で安定した生活を手に入れるが、後継ぎを熱望する年の離れた夫との房事に虚しさを覚えていた。そんな中、肖像画を描かせるためコルネリアスが雇った若い画家ヤンと、ソフィアは恋に落ちてしまい…
 情熱的で破滅的な運命の恋とか、情欲に溺れる禁断の不倫とか、大人が楽しめる恋愛映画って、すっかり廃れてしまってる今日この頃。過激さとか官能とかいった言葉はだんだん死語と化し、ポリティカルコレクトネス的に無難な漫画映画やTVドラマの延長映画しか観られなくなってます。そんな現状にウンザリしてる私にとって、この映画は内容的にかなり期待できそうでした。時代劇も大好きなので、すごく楽しみにしてたのですが…

 思ってたような内容ではなく、ガッカリしたというより当惑しました。話も登場人物たちも、え?何なの?はあ?だったので。とにかく、ヒロインのソフィアをはじめ、出てくる連中がどいつもこいつもゲスいんですよ。愛や恋に狂うのではなく、体裁や保身、性欲や金儲けに狂奔、デスパレートに右往左往する姿が醜くもドタバタと滑稽で、ほとんどコメディだった。笑えるシーンが結構多く、コルネリアスとソフィアの夜の子づくりルーティーンとか、侍女のマリアが身ごもった赤ん坊を自分が産んだことにしようと目論み、妊娠したフリしてコルネリアスを騙すソフィアの、マリアとの必死なごまかし猿芝居とか、もはやコントでした。いっそ昔のイタリア映画みたいな艶笑喜劇にすればよかったのに、中途半端に美しく悲しいノリにしようともしてたので、何ともまとまりのない雑な印象が残ってしまいました。

 登場人物が、みんな自分勝手で強欲でズルくてセコい、というのはトホホな反面、面白くはありました。ソフィアなんか全然悲劇のヒロインではなく、かなり狡猾で不敵な女でしたし。コルネリアスとは金目当て、ヤンとはセックス目当て。二人への嘘と裏切りには、愛などどこにもありませんでした。フェイク妊娠といい不倫といい、ラストの駆け落ち計画といい、なかなかの悪女っぷりでした。つまんないいい子ちゃんヒロインなんかよりは魅力的でしたが。みんなゲスいだけでなく、すごいバカで呆れます。ソフィアとヤンの脳内&下半身お花畑バカップルも相当なものでしたが、筆頭バカはもちろん稚拙な嘘や演技に騙されまくりな寝盗られ老夫のコルネリアスで、みんなからごまかされたり隠されたりの繰り返しもまた、笑いを狙ってるとしか思えぬコントでした。ヤンもマリアの恋人ウィレムも、ノータリンなうっかり八兵衛。いくら若いとはいえ、もうちょっと落ち着いて上手に立ち回れよ~。

 決死の駆け落ち作戦も、かなり強引で雑だったし、そんなことしなくても他にもっと方法があるだろ~と失笑。駆け落ちしないと破滅、な状況でもなかったのが盛り上がりや説得力に欠ける敗因だったかも。コルネリアスが見た目も醜悪で残虐なサイコ爺だとか、ヤンが捕まったら死刑になるとか、そんな理由がほしかったかも。ゲスでアホなキャラばかりだったせいで、まったく情感とか切なさとか耽美とかありませんでした。描きようによっては、源氏物語の浮舟とか、三島由紀夫の「春の雪」の聡子のような、美しく悲しい運命のヒロインになり得たソフィアなのに。ラストも、悲恋のはずがソフィアのしたたかさ、図太さを思い知らされたようで、ハッピーエンドみたいでした。

 ソフィア役は、「リリーのすべて」でオスカーを受賞したアリシア・ヴィキャンデル。清楚で可憐だけど、めちゃくちゃ芯は強そう。可愛いけど地味で、ぶりっこじゃないところが好きです。ラブシーンでは大胆な全裸も披露。色気は全然なく、まるで少女のような裸体が痛々しかったです。ヤン役のデイン・ハーンは、ちょっと若い頃のレオナルド・ディカプリオ似?彼も少年みたいで、ヴィキャ子とは高校生カップルみたいでした。デインよりも、ウィレム役の男子が私好みのイケメンでした。誰?かと思ったら、後で知ってビツクリ!ジャック・オコンネルだった!黒髪のロンゲで、ちょっと大人っぽくなってたので、全然気づかんかった。コルネリアス役は、2度のオスカーに輝く名優クリストフ・ヴァルツ。非情そうだけどひょうひょうとしてるいつものヴァルツ氏でした。修道院の院長役で、泣く子も黙る大女優ジュディ・デンチも出演してます。
 オランダが舞台の時代劇、というのが珍しく、目に新鮮でした。イギリスやフランスとは違う衣装が面白かったです。チューリップの球根売買が、今の株みたいなマネーゲームになってた当時の社会も興味深かったです。この映画を観た後、ホームセンターでチューリップの球根を買いました。一個30円でした。一個の値段が家を建てるのと同じぐらいだった映画とはえらい違いですね。
コメント (2)
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