まつたけ秘帖

徒然なるままmy daily & cinema,TV drama,カープ日記

追憶の日焼けあと

2023-06-22 | イギリス、アイルランド映画
 「aftersun アフターサン」
 もうすぐ11歳になるソフィは、別れて暮らす父カラムとトルコのリゾートにやって来る。二人は仲良く夏休みを楽しむが…
 追憶映画ってたくさんありますが、そのほとんどは甘ったるいノスタルジーや湿っぽいお涙ちょうだいもの。でもこの作品は、そんな類ではありませんでした。想定外の独特な作風でした。若い女性が幼かった頃にパパとすごしたひと夏を思い出して…な内容は、結構ありきたりなのですが、その描き方と父娘の関係性がなかなか斬新でした。

 まず、父娘についての説明がほとんどないんですよ。パパはどういう人なのか、こんな若い男に11歳の娘がいる事情とか、ママとなぜ別れたのかとか、パパが何でギブスしてるかとか、情報はまったくなし。見ず知らずの他人のホームビデオを観てる感じ。二人のバックボーンについては、観客の想像に委ねられています。最近の映画やドラマって余計な台詞やシーンで説明過多なので、こういう意味不明じゃない程度の謎や曖昧さは、返って心地よかったです。

 父娘が仲良くリゾート滞在を楽しんでる、しばらくはただそれだけみたいな流れなので、始めは何なのこれと戸惑いました。危うく眠ってしまいそうになりましたが、中盤あたりから何となく不穏な、何か引っかかる言動や場面が目に入ってくるようになり、眠りは妨げられました。特に事件とか恐ろしい秘密が判明なんてことは全然なくて、ずっと父娘は仲良しで楽しそうなままなのですが、パパが何かおかしい…?

 兄妹と間違えられるのも頷けるほど若くて、優しく明るい素敵なパパなんだけど、ときどき観客を当惑させ不安にさせるようなこと、表情をするんですよ。まず、娘を置いて独りで絨毯を買いに行ったこと。ソフィは気にもせず若いイギリス人の観光客たちと仲良しになって遊んでたけど、このパパ大丈夫なの?と思った。今度は夜に、ソフィがカラオケに申し込んでたことに腹を立てて、また置き去りにしてどっかに行っちゃったり。ソフィは夜道を独り歩いてホテルに戻り(途中で男に襲われて!?かとヒヤっとなるシーンあり)しかもカギがなくて部屋に入れず、という完全にアウトなダメ親父っぷりに戦慄。

 波が激しい真っ暗な真夜中の海に入っていったり、ベランダの手すりに上がって飛ぼうとしたりetc.何の説明もないけど、パパがかなり情緒不安定な男であることがだんだん明るみになってきて、それがサスペンスでもありました。少年のように無邪気で可愛いんだけど、大人になりきれない、現実と折り合えない未熟さと傷つきやすさを抱えて絶望している…そんな姿が痛ましく悲しく、見ていて切なくなりました。

 そんな可愛くイタいパパを責めることもなく、何事もないように接するソフィのほうが大人のようでした。なので見た目が幼くても、若いパパとあまりにも親密にしてるとまるで恋人同士にも見えたり。とても父と娘とは思えぬような危うさ。11歳の女の子って、フツーならあんな風に父親とイチャイチャしないでしょ。父親と二人きりで旅行とか、しかも同室とか、日焼け止め塗ってもらうとか、想像しただけでゾっとします

 明るいんだけど、幸せそうなんだけど…淡い陽光に滲むような、透き通った水に浮かぶような痛みと苦しみが、観終わってから胸を衝く…そんな映画でした。劇中時おりサブリミナルに挿入される、現在の(と思しき)ソフィが見つめる明滅するディスコシーンも印象的なのですが、そこに繋がるラストも謎めいていて、いろいろ考察してしまいます。私なりに、カラムって実は…とか、カラムはきっとあの後…と、その時は不思議に思ったシーンや言動の意味を解釈して(説明は一切ないので、あくまで推察ですが)切なくなってしまいました。

 カラム役で今年のアカデミー賞主演男優賞にノミネートされた、アイルランドの若手俳優ポール・メスカルが素晴らしいの一言!早くも今年のmy best俳優(彼か、「イニシェリン島の精霊」のコリン・ファレルか迷う~)かも!イケメンとか美男子ではないけど、素朴で飾り気のない男らしい風貌に好感。笑顔が可愛い!かと思えば、不意に見せる鬱々しいメンヘラ顔が怖くもあって。屈強で健康そうな肉体とアンバランスな不安定さ、ガラス細工の心の表現力が高度でハンパない!まだ27歳って!神木隆之介より年下!日本のアラサー俳優も、もうちょっと頑張ってよ!ガタイのよさも魅力のポール。ムキムキマッチョではないけど、ガッチリムッチリした肉体(特にデカくてキレイなお尻!)は私好み。印象的なシーンはたくさんあるのですが、ホテルの部屋で裸で慟哭してる後ろ姿は特に圧巻でした。体を張った熱演!じゃない、演技巧いだろ?な小賢しいわざとらしさもない、ナチュラルだけど強烈に訴えるものがある演技は、ポールの稀有な才能と将来性を確信させるものでした。ソフィ役のフランキー・コリオも演技とは思えぬ自然さで驚嘆。シャーロット・ウェルズ監督の才気にも感嘆。トルコのリゾート地も目に楽しかったです。私も泥風呂に入ったり素敵な絨毯を買いたい!

 ↑ アカデミー賞授賞式ではやたらと姿がカメラに抜かれてて、その若さとフレッシュさが目を惹いたポール。リドリー・スコット監督の「グラディエーター」続編の主演に抜擢されるなど、ハリウッドでテッペン獲りそうな勢い!

コメント (2)
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