南相馬市在住のルポライター、奥村岳志氏の web magazine:『福島 フクシマ FUKUSHIMA』に掲載されていた記事を、紹介させていただきます。
付け加える言葉がみつかりません。
これが現実だということを、あらためて、頭と心に刻み込もうと思います。
本当に、こんな状態を抱えている国の総理大臣が、その元凶となっている原発を売り込みに行ったり、
安全を私が保証するとか、コントロール下にあるとか、子どもでも恥ずかしくて言えないようなウソを言ったり、
なのにそれを、追及したり非難したりする、まとまった報道もなく、毎日がただただ過ぎていってしまっています。
なんとかして、気づいてもらいたいと思う者たちは、まるで巨大なモグラ叩きの機械の前に立ち、
次から次へと、暗い穴からチラット飛び出すモグラの頭を、慌てて叩くのが精一杯。
叩かれたモグラは、イテテ、などとふざけた声で言い、何事もなかったかのように、元の、仲間のいる穴蔵に戻ってしまいます。
こういうことが続いていく社会は、やはりとても病んでいます。
我々は、モグラ叩きゲーム機の前に立って、ビニール製の、さほどダメージを与えることもできない金槌を持って構えているだけでなく、
モグラ叩き機のネジを外し、解体し、穴蔵にもぐっているモグラを手掴かみで引きずり出し、お天道の下で徹底的に叩かなければなりません。
↓以下、転載はじめ(太文字や色かえでの強調は、わたし個人の考えで行いました)
汚染水より深刻 使用済み核燃料の取り出し
収束作業の現場から
東京電力福島第一原発事故の、収束作業の現場で働く、草野光男さん(仮名 50代 いわき市)からお話を聞いた。
草野さんは、事故以前から、福島第一原発をはじめ、全国の原発で、長らく働いてきた。
草野さんは、汚染水問題などに関する、国や東電の公式発表と、現場で作業する者の、意識のかい離を指摘する。
とくに、4号機プールで、11月中旬から始まる使用済み核燃料の取り出し作業について、その危険性を訴え、
「クレーン操作に、日本の運命がかかっている」と話す。
また、避難住民が多く暮らすいわき市で、地域の中で生じている軋轢について、「かつての戦争のときと同じだ」と憂う。
(インタビューは、9月中旬、いわき市内)
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オリンピック騒ぎに、暗澹たる気持ち
――まず、安倍首相が、国際オリンピック委員会で、「状況はコントロールされている」「汚染水は完全にブロックされている」と発言した件から伺います。
草野:
私の周りでは、その話は話題にもなってないですね。
多少でも、現場でやっている人間なら、あんなの大嘘だってわかっていますから。
――7年後のオリンピック開催については? とくに、福島で、原発に直接かかわっている立場からすると。
草野:
個人的には、嬉しいことは何もないですね。
全然、関係のないことだから。
オリンピックで、日当があがるわけでもないですし。
むしろ、日当は下がる一方ですから。
国としては、全体が、オリンピックにシフトしていきますね。
だから、福島はなかったものにしたい、と思っているでしょう。
放射能汚染はないし、もう福島も終わったということにして、後は、住民を帰してしまえば、それで終わりということでしょう。
オリンピックが7年後、その前に、全部帰すことが目標ですね。
そうしたら、安全宣言ができるわけだし、その先、健康被害とか出てくるかも知れないけれど、そういうことは全部、隠蔽ということになるのでしょう。
――オリンピックへの集中で、東北三県で、作業員の不足も心配されます。
草野:
東京に持っていかないと、困るわけでしょう。
そっちの期限の方が、決まっているわけだから。
だから、「構ってられないんだよ、東北なんかに。あとは、おまえらで勝手にやれよ」という感じでしょうね。
オリンピックの騒ぎを見ていると、暗澹たる気持ちになりますね。この国というのは。
コントロールされているのは情報
――では、1F〔東電福島第一原発〕の状況について伺います。
草野:
1Fの危なさは、作業員には、何のアナウンスもされてないですね。
だから、一見、平穏無事。
作業現場まで、バスに乗って行くんですが、そのバスの中に、1号機から4号機まで、それぞれどういう状況か、ということを書いたものが貼ってあります。
そこには、「全部大丈夫です」「4号機のプールは、コンクリートで固めているから、倒れる心配はありません」とありますね。
――それは、ある種の安全神話、ということでしょうか?
草野:
そう、その通りですね。
「コントロールされている」と安倍首相が言いましたが、それは、情報がコントロールされている、という意味だったんですね。
――汚染水の情報も、コントロールされていましたね。
草野:
私の見方だけど、東京電力の方は、政府に泣きを入れていたと思うんです。
「情報を抑えるのも、汚染水を抑えるのも、これ以上無理」と。
でも、政府は、
「ちょっと待て。選挙控えているんだ。選挙終わったら何とかすっから」と。
まあ、本当は、最初から漏れているんですけどね。
だって、コンクリートなんか、ガタガタに亀裂が入っているわけですから。
だけど、今、いちばんの優先事項は、オリンピックのため、アベノミックスのために、安全神話で情報をコントロールすることなんです。
人間の命なんか、どうでもいい、という考え方があるとしか思えません。
今がチャンス、とゼネコンが主役
――いま、草野さんはどういう作業を?
草野:
私の仕事は、地震や津波でやられた機器を、点検し修理することです。
大きな定期定検は、正常に稼働しているのを止めてやるものですが、それではなく、個々のモノの点検を常時やっています。
事故後も、それは変わりません。
全面マスク着用だけど、線量はそんなに高くありません。
でも、除染してないので、埃で内部被ばくするから、全面マスク着用になっています。
――汚染水対策や、建屋内の作業などは?
草野:
私たちは、その辺には、全然、関わっていません。
はっきり言って、今、主役はゼネコンなんです、事故後は。
私たちみたいに、事故前から作業に入っていて、ある程度、原子力の知識のある人間は、あまり入れたくないようなんです。
それでなのか、重要な部署には行っていません。
そういうわけで、ゼネコンがほとんどやっている状況です。
1Fのところにビルができて、そこに、ゼネコンさんの看板が、デカデカとあります。
「がんばってます」みたいな感じでね。
――原発が稼働していたときは、ゼネコンは関係ないですね。
草野:
稼働していたときは、ゼネコンは関係ないです。
事故が起こって、ゼネコンにとっては、今がチャンスなんですね。
だから、今、立場的には、ゼネコンの方が上です。
私たちは、ゼネコンの回りで、余っている細々とした仕事をもらっている、という感じです。
もともと原子力に関わってきた者は、蚊帳の外に置かれていますね。
全国の原発に入っていて、ノウハウを持っているアトックス〔原発保守管理が専門の会社。本社・東京〕なんかも、
入退管理とか、そういう小っちゃい仕事しか任せられていません。
やっていることは、雑用です。
アトックスは、自前のホールボディカウンターも持ってるくらい、いろいろ技術力はあります。
だから、活躍していると思われるけど、でも雑用です。
今なんか、仕事なくて、下請けにまで仕事が回らない状態ですよ。
前に私がいた会社の人たちも、全国の原発の仕事に回っています。
浜岡に行ったり、柏崎に行ったりです。
――どういうことでしょうか?
草野:
ひとつは、今言ったように、原発のことをわかっている人間は、入れたくないという感じがかなりあります。
それから、昔からの原発関係の会社に比べて、ゼネコンの方が請負の単価が安い、という事情はあるでしょうね。
ゼネコンにとっては、おいしい仕事です。
降りて来た金を、黙って自分たちのところで回せばいいわけだから。
要するに、公共事業ですから。
名前は収束作業だとか言っていますが、単なる公共事業だ、と思っているんですよ、彼らは。
以前に、大成や鹿島の下で仕事したことがあるから、あの人たちのやり方はわかります。
スーパーゼネコンなんて、名前は格好いいけど、ただのどんぶり勘定の会社です。
田舎のその辺の会社と変わりません。
それから、もうひとつ言えば、当初で、みんな線量を使い切っているんで、現場に入れない、ということも大きいと思います。
私の会社でも、班長クラスは、線量が制限いっぱいいっぱい〔※〕なんで、誰も、線量の高い現場に入れないんです。
だから、他の仕事をするしかないんです。
〔※電離則では、年間50ミリシーベルト以下、かつ5年間で100ミリシーベルト以下。
また、東電の管理基準で、年間20ミリシーベルト以下だが、下請け会社の基準は、それに準じてまちまち〕
――それは、いずれにせよ、収束作業の現場として、かなり深刻なことでは?
草野:
そう、かなり深刻ですね。
一般の建設現場で働くような人たちが、会社としても、作業員としても、入ってきて、とりあえずやっているということですからね。
東電はただの管理会社
――ゼネコンが主役ということですが、そうすると、東京電力は何を?記者発表をしているのは、いつも東京電力ですが。
草野:
もともと東京電力には、何の技術もありません。
東京電力は、ただの管理会社なんです。
書類を見てハンコを押すだけ。
だから、管理監督なら、誰でもできます。
東京電力の服さえ着ていれば。
これまで、現場を何とか支えてきたのは、各メーカーの技術屋さんと、現場の下請けでなんです。
今、こういう状況になって、東京電力に何を訊いたって、「いや、あー、うーん」という感じですよ。
もともと、現場を知らないわけだから、何の発想も出てきません。
そういう人たちに、「なんとかしろ」と言っても、どだい無理なんです。
結局、作業の質は、現場の人間が、どこまで真剣に仕事をやるか、にかかっているわけです。
東電の態度は「復旧」
――事故の前と後で、東京電力の態度に変化はありますか?
草野:
何も変わっていませんね。
事故が起きた、という点だけが違うだけで、後は全くいっしょです。
強いて言えば、事故直後の3~4カ月ぐらいでしょうか、東電さんが、ちょっとペコペコしていたのは。
でも、そういうのは、すぐに「収束」して、もうとっくに元の横柄な態度に「復旧」しています。
――みんながそうですか?
草野:
電力さんでも、心ある人はいますよ。
でも、そういう人はみんな、変な場所に回されてしまいます。
私も知っている、東京電力の担当者の人も、作業員にも良くしてくれたし、一所懸命だったし。
でも、今は雑用をやっています。
線量を食うと倦怠感
――給料や待遇はどうですか?
草野:
一日で1万1千円です。
うちはまだいい方で、もっと下の方になると、5次、6次とか、7次、8次とかもいるから、そうすると5~6千円ですね。
――それはもう、福島の最低賃金ですね。危険手当とかは?
草野:
周りで知ってる限り、もらってないですね。
収束宣言〔2011年12月〕の前から、危険手当という名目はなかったです。
――全面マスクという現場に行く場合でも?
草野:
関係ないですね。
だから、他の仕事をした方がいいんじゃないか、と私も考えましたよ。
除染にいっちゃおうかなあとか。
そっちで1万5千円もらえるなら。
全面マスクして、1万1千円は、やってられないなと思いますよ。
でも、なんで除染に行かなかったかというと、除染では、放射線管理が杜撰(ずさん)ですからね。
そうすると、ゆくゆく、すごい損をしてしまいます。
たとえ1万5千円だとしても、相当の内部被ばくをしているわけだから、除染をやった人は、そのうちバタバタ行きますよ。
サージカルマスクをしても、あんなものでは効果は知れてますね。
だいたい、暑くてマスクなんかしていらないですし。
結局、除染の現場は、管理されていないから、証拠が残らないわけです。
私の場合、病気とかなんかあったときのために、証拠を残しておこうと思って、原発に残っているようなものですから。
――ホールボディカウンターの数値は?
草野:
毎月、ホールボディカウンターを受けていますが、マックスでだいたい6000cpm〔※〕です。
事故前だったら、6000なんて大変な騒ぎですね。
事故前は800cpmぐらいでした。
でも、今、6000という数字が出ているからと言って、何にも問題にはなりません。
東電さんがやっているのは、「自分らは、ちゃんとやっていますよ」という、いわばパフォーマンスです。
作業員の健康を守るため、ではなくてね。
企業を守るため、ただそれだけでしょう。
現場作業員は、使い捨てですから。
〔※〕〔cpm=カウント・パー・ミニット 1分あたりの放射線計測回数〕
――ご自身の健康状態については?
草野:
個人的な感想ですけど、ある程度、線量を浴びた日は、つらい。
だるいし、倦怠感が出ます。
それから、この間、内臓をやられています。
医者は、酒だと言いますがね。
因果関係を、証明はできないですから。
労災は自己責任
――被ばくの問題以外に、現場作業での労災は?
草野:
そんなもの、昔から、現場でケガをしても、「自分の家でやったことにしてくれ」ということです。
労災なんか、まず出てこないですよ。
よっぽど、救急車を呼んだとかということにでもならない限り。
――中小の事故は無数にあるが、全部、隠ぺいと。
草野:
隠ぺいというより、出ちゃうと大変なので、会社なり、本人なりが、自分から、「家で転んだ」という風に被ってしまうんです。
自己規制、自己責任ということですね。
労災になると、労基〔労働基準監督署〕が入るでしょう。
1週間とか1カ月とか、現場が止まってしまいますね。
そうなると迷惑がかかるから、「家で転んだ」ということに自分でするんです。
ひどい話ですけど。
収束作業はまだ始まっていないような状況
――収束作業の全体の状況を伺います。汚染水対策というのは、前に進むというより、後退を強いられているような事態では?
草野:
そうですね、いわば負け戦です。
――そうすると、現場は必死、という感じですか?
草野:
いや、それが、現場は意外と必死ではないんです。
まともに考えると、もう目も当てられないですから、日々をたんたんと過ごすしかないわけです。
――溶融した核燃料の取り出し開始を、前倒しにするという、工程表の発表〔今年6月〕もありましたが。
草野:
あれは工程表ではなくて、全くの希望ですから。
工程表と呼べる代物ではありません。
収束作業は、実質的には、まだ、始まってないという状況でしょう。
燃料が溶けたり、再臨界したりしないように、冷やすしかないわけです。
それ以外は何もできない状態です。
だから、周りを片づけたり、環境を整える作業をしているしかないのです。
ところが、そうしていたら、汚染水が管理できなくなって、水で冷やすというやり方自体が、限界にきていしまったわけです。
それから、溶けた核燃料を取り出すという話ですが、それ自体、ほとんど無理ではないでしょうか。
鉛で固めてしまう方がまだいいのではないか、と私は思っています。
――展望を描けるような状態ではないと。
草野:
厳しいですね。
深刻に考えていたら、やっていけないんで、与えられた仕事をこなすしかないですが。
――作業員の被ばくが問題です。
草野:
そう、例えば、タンク一個をばらすのに、一週間かかっていますね、急いでも。
組み立てるときより、はるかに時間がかかっています。
それは、ものすごく汚染しているからです。
作業そのものが難しいのではなく、線量の問題があるわけです。
他所から見ている人は、「汚染水、許せない」「早くやれ」と言いますが、実際にやっているのは、東電ではなくて、作業員なのです。
それが原発というものです、昔から。
格好いいのは、中操〔※〕だけです。
よく資料映像などで、原発はこんなにハイテクでクリーンなんだと、中操の様子を見せたりしますが。
でも、あの裏に行ったら、配線一本一本、配管の一つひとつを、一所懸命つないでいる作業員がいるのです。
もう、究極のアナログ、肉体労働ですよ、原発は。
〔※中央操作室 原発を運転する中心部。中央制御室とも〕
4号機のクレーン操作に、日本の運命が
――4号機のプールにある、使用済み核燃料の取り出しを、11月中旬から開始するとしていますが。
〔4号機プールには、使用済み核燃料1331体と未使用の核燃料202体が保管されている。
そこに、広島型原爆で、約1万4000発分の放射性物質(セシウム137換算)が含まれているという。
東京電力は、2014年末まで、作業は続くとしている。
その後、2015年9月頃から、隣りの3号機プールの、使用済み核燃料の取り出しを目指すとしている〕
草野:
これは、リスクのある作業です。
汚染水のレベルではないですよ。
汚染水はまだ、流れているだけですから。
それ自身が、すぐに何かを起こすわけではない。
海に溜まっていくだけです。
それはそれで、のちのち深刻な問題なのですが。
だけど、4号機プールの使用済み核燃料は、そもそも事故のとき、アメリカをはじめ、全世界が震撼していた問題です。
福島だけじゃなくて、東京が飛ぶかもしれないと、本気で危惧されたものです。
だから、失敗が許されないのです。
――汚染水タンクの問題が明るみに出るまでは、やはり安全神話があって、そういう、基本的なレベルでの、破綻や失敗はないだろうと思われていましたが。
草野:
4号機の作業で、タンクのときと同じレベルの人為的なミスや、技術上の問題が起こったとき、
汚染水のように、「漏れてました」という具合では済まされませんね。
起こることは、そういう比ではないですから。
水の中でキャスク〔特殊な容器〕に入れて、密閉して釣り出すというのですが、果たしてうまく行くでしょうか。
プールはガレキで埋まっているし、燃料集合体だって、壊れているかもしれません。
水の中にあるうちは、まだいいのです。
遮蔽効果があるからですね。
釣り上げて、外に出したときが危険です。
例えば、この間のように、クレーンが倒れたりするわけですよ〔※〕。
そういうことが起こって、核燃料が露出してしまったら……もう、近くにいる人間は、即死するぐらいの線量です。
一気に、命の危険にさらされます。
〔※9月5日に発生。3号機のクレーンのアームが、中央付近から折れ曲がった事故〕
――さらに、地震や津波の再来や、竜巻の襲来、ということも考えられますね。
草野:
そう。
地震や何かで、冷却システムが故障したり、プールにヒビが入って水がなくなるということだって、可能性としてはあります。
もし、水がなくなったら、核燃料がむき出しになって、温度がどんどん上がり、大量の放射性物質が、まき散らされてしまいます。
そうなったら、作業員も、もう、現場から退避せざるを得なくなります。
あるいは、決死隊になってしまいます。
それが、チェルノブイリで起こったことでしょう。
東京まで避難になります。
――使用済み核燃料の取り出し作業が、1~4号機全部で、10年ぐらい続くとしていますが。
草野:
気の遠くなる作業です。
その間、一回の失敗もないなんて、この間起こっていることを見ていたら、難しいでしょう。
また、10年の間、地震も津波も竜巻もない、という保証もありません。
(事故後の4号機プール内の画像)
――作業員の確保の問題もあります。
草野:
そうですね。
個人的には、これだけのクレーン作業を扱える技術者が、集まるだろうかと思っています。
遠隔操作はできないでしょう。
この間のプールのガレキ撤去作業で、1日の被ばくが、2ミリシーベルトとかいっていますね。
すごい被ばくです。
線量の高いところに、クレーンで行かなければなりません。
作業時間が限られます。
そうすると、ものすごい人数がかかるわけです。
しかも、技術がないといけません。
だから、作業員の確保というところで、限界にぶつかるかも知れない、と私は思っています。
――深刻な危機と、隣り合わせで進むわけですね。
草野:
そうですよ。
だから、オリンピックだとかと言って、浮かれている場合ではないわけです。
4号機で、釣り上げて一本ダメにしたら、もうそれで終わりになってしまう。
クレーンの操作に、日本の運命がかかっている。
そう言っても過言ではありません。
その間に、地震が来ないことを、神に祈るしかないのです。非科学的ですけど。
でも、皆さん、祈りませんね。
アベノミックスで、景気がよくなるかどうか、なんてことしか話題にしていないですね。
――何が必要でしょうか?
草野:
不発弾を処理するとき、半径何メートルって、住民を避難させてからやるでしょう。
せめて、子どもを避難させるとか。
そこから行けば、すべての答えが出ると思うんですが。
でも、そんなことは、誰も言わないですね。
とにかく、子どもはいったん逃げてほしいです。
私は、最後までいるつもりです。
どのくらいまで見届けられるか、というのはありますけど。
被災地で見える住民の分断
――ところで、いわき市にいると、いろいろな問題が見えてくると思いますが。
草野:
そうですね、まず、国民をバラバラにする政策ですね。
――具体的にはどういうことですか?
草野:
例えば、東電の賠償をもらっている人と、もらっていない人との差がすごいです。
避難区域で、東電関係の会社をやってた社長さんなんか、売上げの何十%がもらえて、さらにあれやこれやで、すごい額になっていると言います。
そういう人たちは、被害を受けても、余裕綽々です。
でも、他方で、何にも知らないお年寄りなどは、賠償の請求の仕方もわからない、という状態です。
農家の人たちだって、途方に暮れている状態です。
でも、外から見たら、全部、同じように賠償をもらっている、と見られています。
いわきでは、たしかに新車が増えているし、道も混みますね。
2万4千人ぐらいでしょうか、避難してきている人は。
ゴミの分別の仕方とかわかんなくて、そういう事細かなことから、いわき市民との間で、軋轢が生まれています。
――しかし、本当に文句を言わなければならない相手は、そこではないと。
草野:
そうなんです。
そういう風にしたのは誰なんだ、ということが問題なのですが、それをみんな、忘れているわけです。
身内で争っている場合ではないでしょう。
どうしてこうなってんだ。
こういう状況にさせたのは誰なのか。
そういう東電を、野放しにしている国ってなんなのって。
そこを見失っているように思います。
――参院選では、福島でも、多くの人が自民党に投票しました。
草野:
個人的な見方だけど、未だに、面倒を見てもらっている、という感覚があるのではないでしょうか。
被害者なんだけど、賠償なり、復興なりで、面倒を見てもらっている、という感覚です。
もともと、自民党が原発をやってきたことは分かっているはずなのに、目先のことしか見えていないんです。
――政治の次元ではなく、もう少し根本的なところで、変化が必要だということですね。
草野:
簡単には変わらないでしょうね。
変われるなら、こんなに原発は出来てなかったでしょうから。
原発を持って来れば、豊かになるとか、若い人が戻るとか言ってきましたが、結局この様です。
なのに、未だに、原発がダメなら、次は何をもってくるかといった発想になってしまう。
再生可能エネルギーを持ってきたとしても、その発想のままでは変わらないんです。
そういう発想をしているうちは、田舎はダメでしょうね。
儲けを持っていくのは結局、ゼネコンや大企業であり、都会なのですから。
――建設過程で、一時的に景気がよくなるだけですね。
草野:
そう、終わったら何もありません。
原発ができたときも、お蔭で出稼ぎがなくなった、と言っていました。
たしかに、仕事があるときはいいけれども、仕事がないときは、結局、みんな、全国の原発を回っているのです。
私も、1年のうち、半分も家にいませんでした。
定検、定検で回っていますから。
これは、形を変えた出稼ぎではないのでしょうかね。
――原発問題を考えるとき、都会と地方という問題に、目を向ける必要があるということですね。
草野:
都会の人は、原発がいいとか悪いとかということを、一刀両断できますね。
単に、電力を消費している側ですから。
しがらみもないでしょう。
だから、反対するのも簡単です。
でも、福島など、原発のある地域では、そうは行かないのです。
その感覚というのは、なかなか説明しても分かってもらえないのですが、そこが、一番の問題なのです。
家族や親戚の中に、東電の社員はいるし、下請けの社員もいる。
高校で成績いいのは東電で、悪い奴は下請けで。
じいちゃん、ばあちゃんも、畑や漁のないときは、原発に働きに行く。
そういう具合ですから。
本当に恐ろしいですね。
原発による丸抱えです。
田舎の弱みに付け込んでいる、という感じですね。
あの時代といっしょ
――「復興に向かっているんだから、健康被害だとか、東電の責任とか、国の責任とか、そういうことは言うな」という空気もありますね。
草野:
私の友だちが、子どもいるから心配で、ある施設に行って、
「放射性物質の検査はどうなっているんですか」って聞いたら、その施設の検査が十分でなかったらしいのです。
そこで、その人が、フェイスブックにそのことを書いたのですが、
そうしたら、「そんなこと言ってんじゃねえ」と、メッセージが送られて来て、脅された、という話がありました。
いじめの構造と一緒で、声の大きい連中の仲間に混ざらないと、自分に被害が及ぶ、という恐怖感があります。
だから、とりあえず、強い方に混ざっておくということになります。
それがいやだったら、もう何も言わないでおくしかありません。
疑問や危機感をもっている人に、ものを言わせない力が働いている、と思います。
あの時代といっしょですよ。
かつて戦争のとき、戦争反対と言えなかったでしょう。
終わってから、「自分は、反対だった」と言った人は、それなりにいましたが、それでは遅かったわけです。
いま、それと同じ状況じゃないですかね。
本当に恐ろしい。
ああ、この構造って、変わってないなと思います。(了)
付け加える言葉がみつかりません。
これが現実だということを、あらためて、頭と心に刻み込もうと思います。
本当に、こんな状態を抱えている国の総理大臣が、その元凶となっている原発を売り込みに行ったり、
安全を私が保証するとか、コントロール下にあるとか、子どもでも恥ずかしくて言えないようなウソを言ったり、
なのにそれを、追及したり非難したりする、まとまった報道もなく、毎日がただただ過ぎていってしまっています。
なんとかして、気づいてもらいたいと思う者たちは、まるで巨大なモグラ叩きの機械の前に立ち、
次から次へと、暗い穴からチラット飛び出すモグラの頭を、慌てて叩くのが精一杯。
叩かれたモグラは、イテテ、などとふざけた声で言い、何事もなかったかのように、元の、仲間のいる穴蔵に戻ってしまいます。
こういうことが続いていく社会は、やはりとても病んでいます。
我々は、モグラ叩きゲーム機の前に立って、ビニール製の、さほどダメージを与えることもできない金槌を持って構えているだけでなく、
モグラ叩き機のネジを外し、解体し、穴蔵にもぐっているモグラを手掴かみで引きずり出し、お天道の下で徹底的に叩かなければなりません。
↓以下、転載はじめ(太文字や色かえでの強調は、わたし個人の考えで行いました)
汚染水より深刻 使用済み核燃料の取り出し
収束作業の現場から
東京電力福島第一原発事故の、収束作業の現場で働く、草野光男さん(仮名 50代 いわき市)からお話を聞いた。
草野さんは、事故以前から、福島第一原発をはじめ、全国の原発で、長らく働いてきた。
草野さんは、汚染水問題などに関する、国や東電の公式発表と、現場で作業する者の、意識のかい離を指摘する。
とくに、4号機プールで、11月中旬から始まる使用済み核燃料の取り出し作業について、その危険性を訴え、
「クレーン操作に、日本の運命がかかっている」と話す。
また、避難住民が多く暮らすいわき市で、地域の中で生じている軋轢について、「かつての戦争のときと同じだ」と憂う。
(インタビューは、9月中旬、いわき市内)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
オリンピック騒ぎに、暗澹たる気持ち
――まず、安倍首相が、国際オリンピック委員会で、「状況はコントロールされている」「汚染水は完全にブロックされている」と発言した件から伺います。
草野:
私の周りでは、その話は話題にもなってないですね。
多少でも、現場でやっている人間なら、あんなの大嘘だってわかっていますから。
――7年後のオリンピック開催については? とくに、福島で、原発に直接かかわっている立場からすると。
草野:
個人的には、嬉しいことは何もないですね。
全然、関係のないことだから。
オリンピックで、日当があがるわけでもないですし。
むしろ、日当は下がる一方ですから。
国としては、全体が、オリンピックにシフトしていきますね。
だから、福島はなかったものにしたい、と思っているでしょう。
放射能汚染はないし、もう福島も終わったということにして、後は、住民を帰してしまえば、それで終わりということでしょう。
オリンピックが7年後、その前に、全部帰すことが目標ですね。
そうしたら、安全宣言ができるわけだし、その先、健康被害とか出てくるかも知れないけれど、そういうことは全部、隠蔽ということになるのでしょう。
――オリンピックへの集中で、東北三県で、作業員の不足も心配されます。
草野:
東京に持っていかないと、困るわけでしょう。
そっちの期限の方が、決まっているわけだから。
だから、「構ってられないんだよ、東北なんかに。あとは、おまえらで勝手にやれよ」という感じでしょうね。
オリンピックの騒ぎを見ていると、暗澹たる気持ちになりますね。この国というのは。
コントロールされているのは情報
――では、1F〔東電福島第一原発〕の状況について伺います。
草野:
1Fの危なさは、作業員には、何のアナウンスもされてないですね。
だから、一見、平穏無事。
作業現場まで、バスに乗って行くんですが、そのバスの中に、1号機から4号機まで、それぞれどういう状況か、ということを書いたものが貼ってあります。
そこには、「全部大丈夫です」「4号機のプールは、コンクリートで固めているから、倒れる心配はありません」とありますね。
――それは、ある種の安全神話、ということでしょうか?
草野:
そう、その通りですね。
「コントロールされている」と安倍首相が言いましたが、それは、情報がコントロールされている、という意味だったんですね。
――汚染水の情報も、コントロールされていましたね。
草野:
私の見方だけど、東京電力の方は、政府に泣きを入れていたと思うんです。
「情報を抑えるのも、汚染水を抑えるのも、これ以上無理」と。
でも、政府は、
「ちょっと待て。選挙控えているんだ。選挙終わったら何とかすっから」と。
まあ、本当は、最初から漏れているんですけどね。
だって、コンクリートなんか、ガタガタに亀裂が入っているわけですから。
だけど、今、いちばんの優先事項は、オリンピックのため、アベノミックスのために、安全神話で情報をコントロールすることなんです。
人間の命なんか、どうでもいい、という考え方があるとしか思えません。
今がチャンス、とゼネコンが主役
――いま、草野さんはどういう作業を?
草野:
私の仕事は、地震や津波でやられた機器を、点検し修理することです。
大きな定期定検は、正常に稼働しているのを止めてやるものですが、それではなく、個々のモノの点検を常時やっています。
事故後も、それは変わりません。
全面マスク着用だけど、線量はそんなに高くありません。
でも、除染してないので、埃で内部被ばくするから、全面マスク着用になっています。
――汚染水対策や、建屋内の作業などは?
草野:
私たちは、その辺には、全然、関わっていません。
はっきり言って、今、主役はゼネコンなんです、事故後は。
私たちみたいに、事故前から作業に入っていて、ある程度、原子力の知識のある人間は、あまり入れたくないようなんです。
それでなのか、重要な部署には行っていません。
そういうわけで、ゼネコンがほとんどやっている状況です。
1Fのところにビルができて、そこに、ゼネコンさんの看板が、デカデカとあります。
「がんばってます」みたいな感じでね。
――原発が稼働していたときは、ゼネコンは関係ないですね。
草野:
稼働していたときは、ゼネコンは関係ないです。
事故が起こって、ゼネコンにとっては、今がチャンスなんですね。
だから、今、立場的には、ゼネコンの方が上です。
私たちは、ゼネコンの回りで、余っている細々とした仕事をもらっている、という感じです。
もともと原子力に関わってきた者は、蚊帳の外に置かれていますね。
全国の原発に入っていて、ノウハウを持っているアトックス〔原発保守管理が専門の会社。本社・東京〕なんかも、
入退管理とか、そういう小っちゃい仕事しか任せられていません。
やっていることは、雑用です。
アトックスは、自前のホールボディカウンターも持ってるくらい、いろいろ技術力はあります。
だから、活躍していると思われるけど、でも雑用です。
今なんか、仕事なくて、下請けにまで仕事が回らない状態ですよ。
前に私がいた会社の人たちも、全国の原発の仕事に回っています。
浜岡に行ったり、柏崎に行ったりです。
――どういうことでしょうか?
草野:
ひとつは、今言ったように、原発のことをわかっている人間は、入れたくないという感じがかなりあります。
それから、昔からの原発関係の会社に比べて、ゼネコンの方が請負の単価が安い、という事情はあるでしょうね。
ゼネコンにとっては、おいしい仕事です。
降りて来た金を、黙って自分たちのところで回せばいいわけだから。
要するに、公共事業ですから。
名前は収束作業だとか言っていますが、単なる公共事業だ、と思っているんですよ、彼らは。
以前に、大成や鹿島の下で仕事したことがあるから、あの人たちのやり方はわかります。
スーパーゼネコンなんて、名前は格好いいけど、ただのどんぶり勘定の会社です。
田舎のその辺の会社と変わりません。
それから、もうひとつ言えば、当初で、みんな線量を使い切っているんで、現場に入れない、ということも大きいと思います。
私の会社でも、班長クラスは、線量が制限いっぱいいっぱい〔※〕なんで、誰も、線量の高い現場に入れないんです。
だから、他の仕事をするしかないんです。
〔※電離則では、年間50ミリシーベルト以下、かつ5年間で100ミリシーベルト以下。
また、東電の管理基準で、年間20ミリシーベルト以下だが、下請け会社の基準は、それに準じてまちまち〕
――それは、いずれにせよ、収束作業の現場として、かなり深刻なことでは?
草野:
そう、かなり深刻ですね。
一般の建設現場で働くような人たちが、会社としても、作業員としても、入ってきて、とりあえずやっているということですからね。
東電はただの管理会社
――ゼネコンが主役ということですが、そうすると、東京電力は何を?記者発表をしているのは、いつも東京電力ですが。
草野:
もともと東京電力には、何の技術もありません。
東京電力は、ただの管理会社なんです。
書類を見てハンコを押すだけ。
だから、管理監督なら、誰でもできます。
東京電力の服さえ着ていれば。
これまで、現場を何とか支えてきたのは、各メーカーの技術屋さんと、現場の下請けでなんです。
今、こういう状況になって、東京電力に何を訊いたって、「いや、あー、うーん」という感じですよ。
もともと、現場を知らないわけだから、何の発想も出てきません。
そういう人たちに、「なんとかしろ」と言っても、どだい無理なんです。
結局、作業の質は、現場の人間が、どこまで真剣に仕事をやるか、にかかっているわけです。
東電の態度は「復旧」
――事故の前と後で、東京電力の態度に変化はありますか?
草野:
何も変わっていませんね。
事故が起きた、という点だけが違うだけで、後は全くいっしょです。
強いて言えば、事故直後の3~4カ月ぐらいでしょうか、東電さんが、ちょっとペコペコしていたのは。
でも、そういうのは、すぐに「収束」して、もうとっくに元の横柄な態度に「復旧」しています。
――みんながそうですか?
草野:
電力さんでも、心ある人はいますよ。
でも、そういう人はみんな、変な場所に回されてしまいます。
私も知っている、東京電力の担当者の人も、作業員にも良くしてくれたし、一所懸命だったし。
でも、今は雑用をやっています。
線量を食うと倦怠感
――給料や待遇はどうですか?
草野:
一日で1万1千円です。
うちはまだいい方で、もっと下の方になると、5次、6次とか、7次、8次とかもいるから、そうすると5~6千円ですね。
――それはもう、福島の最低賃金ですね。危険手当とかは?
草野:
周りで知ってる限り、もらってないですね。
収束宣言〔2011年12月〕の前から、危険手当という名目はなかったです。
――全面マスクという現場に行く場合でも?
草野:
関係ないですね。
だから、他の仕事をした方がいいんじゃないか、と私も考えましたよ。
除染にいっちゃおうかなあとか。
そっちで1万5千円もらえるなら。
全面マスクして、1万1千円は、やってられないなと思いますよ。
でも、なんで除染に行かなかったかというと、除染では、放射線管理が杜撰(ずさん)ですからね。
そうすると、ゆくゆく、すごい損をしてしまいます。
たとえ1万5千円だとしても、相当の内部被ばくをしているわけだから、除染をやった人は、そのうちバタバタ行きますよ。
サージカルマスクをしても、あんなものでは効果は知れてますね。
だいたい、暑くてマスクなんかしていらないですし。
結局、除染の現場は、管理されていないから、証拠が残らないわけです。
私の場合、病気とかなんかあったときのために、証拠を残しておこうと思って、原発に残っているようなものですから。
――ホールボディカウンターの数値は?
草野:
毎月、ホールボディカウンターを受けていますが、マックスでだいたい6000cpm〔※〕です。
事故前だったら、6000なんて大変な騒ぎですね。
事故前は800cpmぐらいでした。
でも、今、6000という数字が出ているからと言って、何にも問題にはなりません。
東電さんがやっているのは、「自分らは、ちゃんとやっていますよ」という、いわばパフォーマンスです。
作業員の健康を守るため、ではなくてね。
企業を守るため、ただそれだけでしょう。
現場作業員は、使い捨てですから。
〔※〕〔cpm=カウント・パー・ミニット 1分あたりの放射線計測回数〕
――ご自身の健康状態については?
草野:
個人的な感想ですけど、ある程度、線量を浴びた日は、つらい。
だるいし、倦怠感が出ます。
それから、この間、内臓をやられています。
医者は、酒だと言いますがね。
因果関係を、証明はできないですから。
労災は自己責任
――被ばくの問題以外に、現場作業での労災は?
草野:
そんなもの、昔から、現場でケガをしても、「自分の家でやったことにしてくれ」ということです。
労災なんか、まず出てこないですよ。
よっぽど、救急車を呼んだとかということにでもならない限り。
――中小の事故は無数にあるが、全部、隠ぺいと。
草野:
隠ぺいというより、出ちゃうと大変なので、会社なり、本人なりが、自分から、「家で転んだ」という風に被ってしまうんです。
自己規制、自己責任ということですね。
労災になると、労基〔労働基準監督署〕が入るでしょう。
1週間とか1カ月とか、現場が止まってしまいますね。
そうなると迷惑がかかるから、「家で転んだ」ということに自分でするんです。
ひどい話ですけど。
収束作業はまだ始まっていないような状況
――収束作業の全体の状況を伺います。汚染水対策というのは、前に進むというより、後退を強いられているような事態では?
草野:
そうですね、いわば負け戦です。
――そうすると、現場は必死、という感じですか?
草野:
いや、それが、現場は意外と必死ではないんです。
まともに考えると、もう目も当てられないですから、日々をたんたんと過ごすしかないわけです。
――溶融した核燃料の取り出し開始を、前倒しにするという、工程表の発表〔今年6月〕もありましたが。
草野:
あれは工程表ではなくて、全くの希望ですから。
工程表と呼べる代物ではありません。
収束作業は、実質的には、まだ、始まってないという状況でしょう。
燃料が溶けたり、再臨界したりしないように、冷やすしかないわけです。
それ以外は何もできない状態です。
だから、周りを片づけたり、環境を整える作業をしているしかないのです。
ところが、そうしていたら、汚染水が管理できなくなって、水で冷やすというやり方自体が、限界にきていしまったわけです。
それから、溶けた核燃料を取り出すという話ですが、それ自体、ほとんど無理ではないでしょうか。
鉛で固めてしまう方がまだいいのではないか、と私は思っています。
――展望を描けるような状態ではないと。
草野:
厳しいですね。
深刻に考えていたら、やっていけないんで、与えられた仕事をこなすしかないですが。
――作業員の被ばくが問題です。
草野:
そう、例えば、タンク一個をばらすのに、一週間かかっていますね、急いでも。
組み立てるときより、はるかに時間がかかっています。
それは、ものすごく汚染しているからです。
作業そのものが難しいのではなく、線量の問題があるわけです。
他所から見ている人は、「汚染水、許せない」「早くやれ」と言いますが、実際にやっているのは、東電ではなくて、作業員なのです。
それが原発というものです、昔から。
格好いいのは、中操〔※〕だけです。
よく資料映像などで、原発はこんなにハイテクでクリーンなんだと、中操の様子を見せたりしますが。
でも、あの裏に行ったら、配線一本一本、配管の一つひとつを、一所懸命つないでいる作業員がいるのです。
もう、究極のアナログ、肉体労働ですよ、原発は。
〔※中央操作室 原発を運転する中心部。中央制御室とも〕
4号機のクレーン操作に、日本の運命が
――4号機のプールにある、使用済み核燃料の取り出しを、11月中旬から開始するとしていますが。
〔4号機プールには、使用済み核燃料1331体と未使用の核燃料202体が保管されている。
そこに、広島型原爆で、約1万4000発分の放射性物質(セシウム137換算)が含まれているという。
東京電力は、2014年末まで、作業は続くとしている。
その後、2015年9月頃から、隣りの3号機プールの、使用済み核燃料の取り出しを目指すとしている〕
草野:
これは、リスクのある作業です。
汚染水のレベルではないですよ。
汚染水はまだ、流れているだけですから。
それ自身が、すぐに何かを起こすわけではない。
海に溜まっていくだけです。
それはそれで、のちのち深刻な問題なのですが。
だけど、4号機プールの使用済み核燃料は、そもそも事故のとき、アメリカをはじめ、全世界が震撼していた問題です。
福島だけじゃなくて、東京が飛ぶかもしれないと、本気で危惧されたものです。
だから、失敗が許されないのです。
――汚染水タンクの問題が明るみに出るまでは、やはり安全神話があって、そういう、基本的なレベルでの、破綻や失敗はないだろうと思われていましたが。
草野:
4号機の作業で、タンクのときと同じレベルの人為的なミスや、技術上の問題が起こったとき、
汚染水のように、「漏れてました」という具合では済まされませんね。
起こることは、そういう比ではないですから。
水の中でキャスク〔特殊な容器〕に入れて、密閉して釣り出すというのですが、果たしてうまく行くでしょうか。
プールはガレキで埋まっているし、燃料集合体だって、壊れているかもしれません。
水の中にあるうちは、まだいいのです。
遮蔽効果があるからですね。
釣り上げて、外に出したときが危険です。
例えば、この間のように、クレーンが倒れたりするわけですよ〔※〕。
そういうことが起こって、核燃料が露出してしまったら……もう、近くにいる人間は、即死するぐらいの線量です。
一気に、命の危険にさらされます。
〔※9月5日に発生。3号機のクレーンのアームが、中央付近から折れ曲がった事故〕
――さらに、地震や津波の再来や、竜巻の襲来、ということも考えられますね。
草野:
そう。
地震や何かで、冷却システムが故障したり、プールにヒビが入って水がなくなるということだって、可能性としてはあります。
もし、水がなくなったら、核燃料がむき出しになって、温度がどんどん上がり、大量の放射性物質が、まき散らされてしまいます。
そうなったら、作業員も、もう、現場から退避せざるを得なくなります。
あるいは、決死隊になってしまいます。
それが、チェルノブイリで起こったことでしょう。
東京まで避難になります。
――使用済み核燃料の取り出し作業が、1~4号機全部で、10年ぐらい続くとしていますが。
草野:
気の遠くなる作業です。
その間、一回の失敗もないなんて、この間起こっていることを見ていたら、難しいでしょう。
また、10年の間、地震も津波も竜巻もない、という保証もありません。
(事故後の4号機プール内の画像)
――作業員の確保の問題もあります。
草野:
そうですね。
個人的には、これだけのクレーン作業を扱える技術者が、集まるだろうかと思っています。
遠隔操作はできないでしょう。
この間のプールのガレキ撤去作業で、1日の被ばくが、2ミリシーベルトとかいっていますね。
すごい被ばくです。
線量の高いところに、クレーンで行かなければなりません。
作業時間が限られます。
そうすると、ものすごい人数がかかるわけです。
しかも、技術がないといけません。
だから、作業員の確保というところで、限界にぶつかるかも知れない、と私は思っています。
――深刻な危機と、隣り合わせで進むわけですね。
草野:
そうですよ。
だから、オリンピックだとかと言って、浮かれている場合ではないわけです。
4号機で、釣り上げて一本ダメにしたら、もうそれで終わりになってしまう。
クレーンの操作に、日本の運命がかかっている。
そう言っても過言ではありません。
その間に、地震が来ないことを、神に祈るしかないのです。非科学的ですけど。
でも、皆さん、祈りませんね。
アベノミックスで、景気がよくなるかどうか、なんてことしか話題にしていないですね。
――何が必要でしょうか?
草野:
不発弾を処理するとき、半径何メートルって、住民を避難させてからやるでしょう。
せめて、子どもを避難させるとか。
そこから行けば、すべての答えが出ると思うんですが。
でも、そんなことは、誰も言わないですね。
とにかく、子どもはいったん逃げてほしいです。
私は、最後までいるつもりです。
どのくらいまで見届けられるか、というのはありますけど。
被災地で見える住民の分断
――ところで、いわき市にいると、いろいろな問題が見えてくると思いますが。
草野:
そうですね、まず、国民をバラバラにする政策ですね。
――具体的にはどういうことですか?
草野:
例えば、東電の賠償をもらっている人と、もらっていない人との差がすごいです。
避難区域で、東電関係の会社をやってた社長さんなんか、売上げの何十%がもらえて、さらにあれやこれやで、すごい額になっていると言います。
そういう人たちは、被害を受けても、余裕綽々です。
でも、他方で、何にも知らないお年寄りなどは、賠償の請求の仕方もわからない、という状態です。
農家の人たちだって、途方に暮れている状態です。
でも、外から見たら、全部、同じように賠償をもらっている、と見られています。
いわきでは、たしかに新車が増えているし、道も混みますね。
2万4千人ぐらいでしょうか、避難してきている人は。
ゴミの分別の仕方とかわかんなくて、そういう事細かなことから、いわき市民との間で、軋轢が生まれています。
――しかし、本当に文句を言わなければならない相手は、そこではないと。
草野:
そうなんです。
そういう風にしたのは誰なんだ、ということが問題なのですが、それをみんな、忘れているわけです。
身内で争っている場合ではないでしょう。
どうしてこうなってんだ。
こういう状況にさせたのは誰なのか。
そういう東電を、野放しにしている国ってなんなのって。
そこを見失っているように思います。
――参院選では、福島でも、多くの人が自民党に投票しました。
草野:
個人的な見方だけど、未だに、面倒を見てもらっている、という感覚があるのではないでしょうか。
被害者なんだけど、賠償なり、復興なりで、面倒を見てもらっている、という感覚です。
もともと、自民党が原発をやってきたことは分かっているはずなのに、目先のことしか見えていないんです。
――政治の次元ではなく、もう少し根本的なところで、変化が必要だということですね。
草野:
簡単には変わらないでしょうね。
変われるなら、こんなに原発は出来てなかったでしょうから。
原発を持って来れば、豊かになるとか、若い人が戻るとか言ってきましたが、結局この様です。
なのに、未だに、原発がダメなら、次は何をもってくるかといった発想になってしまう。
再生可能エネルギーを持ってきたとしても、その発想のままでは変わらないんです。
そういう発想をしているうちは、田舎はダメでしょうね。
儲けを持っていくのは結局、ゼネコンや大企業であり、都会なのですから。
――建設過程で、一時的に景気がよくなるだけですね。
草野:
そう、終わったら何もありません。
原発ができたときも、お蔭で出稼ぎがなくなった、と言っていました。
たしかに、仕事があるときはいいけれども、仕事がないときは、結局、みんな、全国の原発を回っているのです。
私も、1年のうち、半分も家にいませんでした。
定検、定検で回っていますから。
これは、形を変えた出稼ぎではないのでしょうかね。
――原発問題を考えるとき、都会と地方という問題に、目を向ける必要があるということですね。
草野:
都会の人は、原発がいいとか悪いとかということを、一刀両断できますね。
単に、電力を消費している側ですから。
しがらみもないでしょう。
だから、反対するのも簡単です。
でも、福島など、原発のある地域では、そうは行かないのです。
その感覚というのは、なかなか説明しても分かってもらえないのですが、そこが、一番の問題なのです。
家族や親戚の中に、東電の社員はいるし、下請けの社員もいる。
高校で成績いいのは東電で、悪い奴は下請けで。
じいちゃん、ばあちゃんも、畑や漁のないときは、原発に働きに行く。
そういう具合ですから。
本当に恐ろしいですね。
原発による丸抱えです。
田舎の弱みに付け込んでいる、という感じですね。
あの時代といっしょ
――「復興に向かっているんだから、健康被害だとか、東電の責任とか、国の責任とか、そういうことは言うな」という空気もありますね。
草野:
私の友だちが、子どもいるから心配で、ある施設に行って、
「放射性物質の検査はどうなっているんですか」って聞いたら、その施設の検査が十分でなかったらしいのです。
そこで、その人が、フェイスブックにそのことを書いたのですが、
そうしたら、「そんなこと言ってんじゃねえ」と、メッセージが送られて来て、脅された、という話がありました。
いじめの構造と一緒で、声の大きい連中の仲間に混ざらないと、自分に被害が及ぶ、という恐怖感があります。
だから、とりあえず、強い方に混ざっておくということになります。
それがいやだったら、もう何も言わないでおくしかありません。
疑問や危機感をもっている人に、ものを言わせない力が働いている、と思います。
あの時代といっしょですよ。
かつて戦争のとき、戦争反対と言えなかったでしょう。
終わってから、「自分は、反対だった」と言った人は、それなりにいましたが、それでは遅かったわけです。
いま、それと同じ状況じゃないですかね。
本当に恐ろしい。
ああ、この構造って、変わってないなと思います。(了)