昨日の晩、テレビ東京で4時間弱に及ぶ「THEカラオケ★バトル“2017年間王者”年に一度の大一番SP」を母と見ました。結果はこの1年4ヶ月の間、優勝から遠ざか決っていたU━18四天王で、過去には何度も100点を出したことがある掘優衣さんが100点にわずかに届かない高得点をあげて涙の優勝! 2位はこれまたU━18四天王の鈴木杏奈さんが99.5を上回る点数をあげて準優勝となりました。二人ともの、のびのびと歌いあげていて、聴いていて気持ちのいい歌声でした。次回の「THEカラオケ★バトル」も楽しみです!!
さて、また昨日の続きです。
ショーが終わると、早苗は康彦に話しかけてきた。「図々しいお願いなんですけど、向田さんの伝手で、理髪用の鋏、安く買えませんか?」「うん、買えるけど、どうして?」「実は母の髪のカットをわたしがやろうと思って。もう美容院にいくほどじゃないし、節約になるから。それにこの辺では売ってないし」「あ、そう。お安い御用だ」頼みごとをされ、いきなりしあわせな気分になる。来た甲斐があったというものだ。ホールから出て行く早苗と母親の後姿を見送った。すらりとしたスタイルの早苗は、やはり雰囲気そのものがちがっていた。康彦はふと早苗の孤独を想像した。彼女に友だちはいるのだろうか。
帰宅後、気になって恭子に聞いてみた。「三橋さんのところの早苗ちゃん、町の婦人会には入ってねえべか」「うん、入ってない。水商売の人は嫌だって言ってる人もいる」「ちなみに反対しているのはどういう連中だ」「早苗さんと同年代の若い人たち」「なんだそれは。歳が近いなら、いちばん仲良しになれそうなもんだろう」「自分の亭主がぼうっとのぼせてるのが気に食わないんじゃないの」「オメたち、もうちっとやさしくなれねえのか。早苗ちゃんは何も悪いことしてねえべ」「うん。そうね、わかった」恭子は反省した様子だった。
理髪用の鋏を入手したので、康彦は早苗の店まで届けることにした。店に入ってしばらくすると、四十くらいの男が顔だけのぞかせる。「じゃあ、おれ帰るから」と言い、すぐに扉を閉める。一瞬見ただけだが、色男だった。早苗は「ちょっとすいません」と康彦に言うと、カウンターから出て、男を追いかけていった。なるほど、これが「早苗さんを訪ねて来た男の人」か。普通に考えるなら男女の仲に見えた。早苗に男がいても、なんの不思議もない。康彦は、早苗に男がいるらしいことを瀬川たちには黙っていようと思った。どうせ叶わぬ恋心なのだ。夢ぐらい見させてあげないと、苫沢の冬はあまりにも退屈である。
康彦が早苗の店に行ってから十日ほど経ったとき、事件が起こった。電気屋の谷口が喧嘩をしたと言うのである。相手は農協に勤務する四十半ばの職員だった。どうやら先に手を出したのが谷口で、相手が転倒して額に痣を作るほどの怪我を負わせてしまったらしい。「原因は何よ」「それを共に言わねえべさ」「大黒のママがちらっと聞いたんだって、言い合いの最中に早苗ちゃんの名前が出たことを」ともあれ、先に手を出した谷口を諭すしかないと思った。まずは会って話を聞くことだ。
理髪店の休業日に谷口の自宅兼会社を訪ねると、谷口は目の縁に痣の残った顔で、伝票整理をしていた。「シュウちゃんも若いねえ。派手にやったんだって」谷口は頑なだった。康彦は一旦引き上げることにした。そしてその足で、被害者の村田ではなく、その場にいたという別の若い消防団員を訪ねることにした。「あの夜、ミーティングを終えてから最初はさなえに行ったんですよ。そしたら満員で入れないから、仕方なく大黒に変更して、飲み始めたんですが、そこで早苗ママの話になって、村田さんは、早苗ママは昔から男の気を引くのがうまかったって、そういうことを言い始めて……。早苗ママの初めての男は、おれの同級生だったとか、そんな話をするもんだから、副団長がだんだん不機嫌になって……。でもって、しまいには早苗ママは札幌にいたときは、すすきののソープ嬢だったなんてことを言いだすから、ぼくら若手は無責任に盛り上がって、だったらおれたちもお世話になるべ、とか、でも四十過ぎのオバサンには勃たねえんでねえか、とか、そったらこと言ってたら、副団長が見る見る顔を赤くして、『やい村田、いい加減なこと言ってるとただじゃおかねえ』って大声で怒鳴って、頭を一発はたいたら、『何をする』って立ち上がって、あとは取っ組み合いの喧嘩になって……」康彦は事情を知り、深々とため息をついた。そういうことなら谷口が怒りだすのも当然である。「オメら、喧嘩のことより、そういうことを言って早苗ママにお申し訳ねえとは思わねえべか」「すいません。反省してます」若い団員は小さくなっていた。(また明日へ続きます……)
さて、また昨日の続きです。
ショーが終わると、早苗は康彦に話しかけてきた。「図々しいお願いなんですけど、向田さんの伝手で、理髪用の鋏、安く買えませんか?」「うん、買えるけど、どうして?」「実は母の髪のカットをわたしがやろうと思って。もう美容院にいくほどじゃないし、節約になるから。それにこの辺では売ってないし」「あ、そう。お安い御用だ」頼みごとをされ、いきなりしあわせな気分になる。来た甲斐があったというものだ。ホールから出て行く早苗と母親の後姿を見送った。すらりとしたスタイルの早苗は、やはり雰囲気そのものがちがっていた。康彦はふと早苗の孤独を想像した。彼女に友だちはいるのだろうか。
帰宅後、気になって恭子に聞いてみた。「三橋さんのところの早苗ちゃん、町の婦人会には入ってねえべか」「うん、入ってない。水商売の人は嫌だって言ってる人もいる」「ちなみに反対しているのはどういう連中だ」「早苗さんと同年代の若い人たち」「なんだそれは。歳が近いなら、いちばん仲良しになれそうなもんだろう」「自分の亭主がぼうっとのぼせてるのが気に食わないんじゃないの」「オメたち、もうちっとやさしくなれねえのか。早苗ちゃんは何も悪いことしてねえべ」「うん。そうね、わかった」恭子は反省した様子だった。
理髪用の鋏を入手したので、康彦は早苗の店まで届けることにした。店に入ってしばらくすると、四十くらいの男が顔だけのぞかせる。「じゃあ、おれ帰るから」と言い、すぐに扉を閉める。一瞬見ただけだが、色男だった。早苗は「ちょっとすいません」と康彦に言うと、カウンターから出て、男を追いかけていった。なるほど、これが「早苗さんを訪ねて来た男の人」か。普通に考えるなら男女の仲に見えた。早苗に男がいても、なんの不思議もない。康彦は、早苗に男がいるらしいことを瀬川たちには黙っていようと思った。どうせ叶わぬ恋心なのだ。夢ぐらい見させてあげないと、苫沢の冬はあまりにも退屈である。
康彦が早苗の店に行ってから十日ほど経ったとき、事件が起こった。電気屋の谷口が喧嘩をしたと言うのである。相手は農協に勤務する四十半ばの職員だった。どうやら先に手を出したのが谷口で、相手が転倒して額に痣を作るほどの怪我を負わせてしまったらしい。「原因は何よ」「それを共に言わねえべさ」「大黒のママがちらっと聞いたんだって、言い合いの最中に早苗ちゃんの名前が出たことを」ともあれ、先に手を出した谷口を諭すしかないと思った。まずは会って話を聞くことだ。
理髪店の休業日に谷口の自宅兼会社を訪ねると、谷口は目の縁に痣の残った顔で、伝票整理をしていた。「シュウちゃんも若いねえ。派手にやったんだって」谷口は頑なだった。康彦は一旦引き上げることにした。そしてその足で、被害者の村田ではなく、その場にいたという別の若い消防団員を訪ねることにした。「あの夜、ミーティングを終えてから最初はさなえに行ったんですよ。そしたら満員で入れないから、仕方なく大黒に変更して、飲み始めたんですが、そこで早苗ママの話になって、村田さんは、早苗ママは昔から男の気を引くのがうまかったって、そういうことを言い始めて……。早苗ママの初めての男は、おれの同級生だったとか、そんな話をするもんだから、副団長がだんだん不機嫌になって……。でもって、しまいには早苗ママは札幌にいたときは、すすきののソープ嬢だったなんてことを言いだすから、ぼくら若手は無責任に盛り上がって、だったらおれたちもお世話になるべ、とか、でも四十過ぎのオバサンには勃たねえんでねえか、とか、そったらこと言ってたら、副団長が見る見る顔を赤くして、『やい村田、いい加減なこと言ってるとただじゃおかねえ』って大声で怒鳴って、頭を一発はたいたら、『何をする』って立ち上がって、あとは取っ組み合いの喧嘩になって……」康彦は事情を知り、深々とため息をついた。そういうことなら谷口が怒りだすのも当然である。「オメら、喧嘩のことより、そういうことを言って早苗ママにお申し訳ねえとは思わねえべか」「すいません。反省してます」若い団員は小さくなっていた。(また明日へ続きます……)