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宮下奈都『遠くの声に耳を澄ませて』

2010-04-20 14:58:00 | ノンジャンル
 朝日新聞の特集記事「深いテーマ 忘れえぬ一冊」の中で紹介されていた、宮下奈都さんの'09年作品「遠くの声に耳を澄ませて」を読みました。短編集です。
 「アンデスの声」は、休みなく田畑の仕事をしてきた祖父が倒れたと聞いた時に私がふと思い出した風景が、実はエクアドルのキトの風景で、それは祖父母が唯一の楽しみにしていた、世界のラジオを聴取した時にラジオ局から送られて来るベリカードの風景であると思い出す話。
 「転がる小石」は、パン作り体験で知り合った陽子ちゃんに誘われて波照間島を訪れた私がたちが、空と海の青さに圧倒され、仕事へのスタンスを取り戻す話。
 「どこにでも猫がいる」は、旅先のシチリアで恋人と最上の幸福を味わって帰国したにもかかわらず、旅に生きる彼に去られ、その後結婚して生まれた私の息子がまた私を置いて旅立ち、生き生きとした葉書を旅先のチュニジアから送ってくるという話。
 「秋の転校生」は、出張で北陸の町を訪ねた僕が、その町の人々のなまりを聞いて、小学生の時好きだった転校生のことを思い出す話。
 「うなぎを追いかけた男」は、看護師の私に、同室の患者である濱岡さんに対する文句を盛んに言う高田さんが、次第に濱岡さんを受け入れていくという話。
 「部屋から始まった」は、閉息感の中で生きる私が、同僚から聞いた台湾の名医に会いに行き、「流せ」と言われてもらった薬を飲むと、開放的な気分になれたという話。
 「初めての雪」は、妊娠中の友人と温泉に出かけた私が、恋人に妊娠の事実を早く話すように友人に促す話。
 「足の早いおじさん」は、家庭教師先の生徒から、公園にいるおじさんの話を聞いて、それがスペインへ行った建築家の叔父なのではと私が考える話。
 「クックブックの五日間」は、私の書いた料理本についてのインタビューを受けている時に、昔別れた男のことを思い出す話。
 「ミルクティ」は、職場の後輩に言い寄られ、昔の同僚が入れてくれたミルクティのことを思い出す話。
 「白い足袋」は、田舎の幼馴染みの結婚式に足袋を届けている途中に転んでハイヒールを折ってしまい、結婚式に間に合うように足袋を履いて走り出す話。
 「夕焼けの犬」は、医者である私のほのぼのとした日常の話です。
 過剰な自意識を丹念に語った私小説ばりの短編ばかりでしたが、「秋の転校生」でちょっとほのぼのした以外は全くノレず、最後の方は飛ばし読みしてしまいました。純文学が好きな方にはオススメかもしれません。


ジョエル&イーサン・コーエン監督『バーン・アフター・リーディング』

2010-04-19 18:38:00 | ノンジャンル
 ジョエル&イーサン・コーエン監督・製作・脚本の'08年作品『バーン・アフター・リーディング』をWOWOWで見ました。
 地球の映像からズームアップしてCIA本部へ。情報解析部のオジー(ジョン・マルコヴィッチ)は理不尽な理由で国務省への異動を命じられ、頭に来て辞職します。彼の知り合いで連邦捜査官のハリー(ジョージ・クルーニー)は、オジーの妻ケイティとできていて、ケイティは離婚の準備を進めています。一方、ジムで働くリンダは若返りのための整形手術代を捻出するのに苦労していますが、同僚のチャド(ブラッド・ピット)が女性ロッカーでCIAの国家機密の入ったCD-ROMを発見し、二人は落とし主のオジーから金を無心しようとしますが、オジーに拒否され、ロシア大使館に売り込みに行き、リンダは勢いで自分たちはもっと情報を持っていると言ってしまい、チャドはオジー宅に侵入して他のCD-ROMを探しますが、そこへ入ってきたハリーは驚いてチャドを射殺してしまいます。リンダはCD-ROMを価値のないものと言われてとロシアから返されてしまい、チャドも行方不明になったことでパニくり、今度はジムの上司にオジー宅への侵入を頼みます。ハリーはリンダと話しているうちに、自分が殺した男がリンダの探してる男だと分かって、これまたパニくり、逃げ出します。オジーはリンダの上司を自室で発見し、撲殺してしまいます。CIAでは、オジーが殺したリンダの上司の死体を処分したこと、ベネズエラに逃げようとしていたハリーを空港で拘束しましたが、そのままベネズエラへ厄介払いすること、殺害現場にたまたま駆けつけた警官がオジーを射ち、彼が意識不明に陥っていること、リンダには整形代を払ってやって口をふさぐことが話し合いの上で決まり、カメラはCIAの部屋から地球へとズームダウンして映画は終わるのでした。
 構図、編集、シャープで深みのある色など撮影は見事でしたが、上のあらすじから分かるように、登場人物の人間関係が錯綜していて分かりにくく、また人物も皆狂っているとは言え、リアリティがなく、全く感情移入できませんでした。策に溺れたという感じです。しかしブラッド・ピットが射殺される見事な編集と画面で構成されたシーンは見どころがありました。ということで、そういったシーンに興味のある方にはオススメです。

ポール・オースター『空腹の技法』

2010-04-18 12:25:00 | ノンジャンル
 ポール・オースターの'92年作品『空腹の技法』を読みました。オースターの書いたエッセイ、序文、彼が受けたインタビューなどが収められた本です。
 オースターがまだ無名だった'70年代に、文学とはおよそ無関係なフランス語の本を英訳して生計を立てるかたわら、依頼原稿ではなく、そのときそのときに自分が惹かれていた作家や作品についてじっくり書いた文章(具体的には、ベケット、ツェラン、カフカ、ウンガレッティ、ジャベスといった二十世紀文学の巨人たちや、ジョン・アシュベリー、ローラ・ライディングなどの現代アメリカ詩人を論じたもの)が掲載されている一方、やはりこの時期に、ジャック・デュパン、アンドレ・デュプーシュといった現代フランス詩人の作品を英訳したり、出版社の依頼で二十世紀フランス詩の対訳本アンソロジーの編纂を進めていたことから、そうした翻訳書・編書のために書いたいくつかの序文を中心に、現代アメリカ画家の展覧会へ寄せた文章なども加えられていて、'70年代の活動を経て小説家となった現在に至るまでの半生を語った4つのインタビューも掲載されています。(以上は、訳者の柴田元幸さんによるあとがきを元に書かせていただきました。)
 面白かったのは、(環境への違和感、周囲の人間への違和感から)すべての作家、すべての創造者はある種の追放状態を生きていて、書物こそがもっとも自分を見出しやすい場になっているだけでなく、それが自分にとっての真理を見出す場になっていると語るエドモン・ジャベスの言葉、オースターが小説を書く時、常に頭の中で最上位を占めているのは物語であり、エレガントな描写、気を惹くディテール、等々のいわゆる「名文」も、書こうとしている物語に関連していなければ、消えてもらうしかなく、物語に対するわずかな邪魔も、脱線も退屈を生み、読者は退屈を最も忌み嫌うのだという、やはりオースターによる言明(私もまったくその通りだと思いました)、はたまた自分自身が読みたい本を書くのだというオースターの宣言、偶然は現実の一部だというオースターの指摘などでした。また、エドモン・ジャベスの「問いの書」、ジョルジュ・ペレックの「人生 使用法」は是非読んでみたいと思いました。
 オースターファンのみならず、人生に迷っている方にもオススメです。なおもっと詳しい内容に関しては、私のサイト「Nature Life」(http://www.ceres.dti.ne.jp/~m-goto)の「Favorite Novels」の「ポール・オースター」の場所にアップしておきましたので、興味のある方は是非ご覧ください。

ロン・ハワード監督『フロスト×ニクソン』

2010-04-17 13:59:00 | ノンジャンル
 ロン・ハワード監督の'08年作品『フロスト×ニクソン』をWOWOWで見ました。
 ウォーターゲート事件の発端からニクソンの辞任までを伝えるニュース映像。テレビ番組の人気司会者であるフロストは、ニクソンの恩赦に対する市民の怒りを見て、ニクソンへのインタビューを実現させ、それで金儲けをしようと企みます。再起を期するニクソンは代理人に60万ドルの出演料を提示させ、フロストはテレビ局との契約でそれを払おうとしますが、三大ネットワークはいずれも二の足を踏み、結局前払い金の20万ドルは自腹で払います。フロストは反ニクソンの先鋒である二人のジャーナリストと組んでインタビューの戦略を練って本番に備えます。インタビューは2時間ずつ4日間行われ、それぞれの日に設けられたテーマ以外の質問は禁止、ウォーターゲートについても最後の日でしか触れてはならないという内容で行われることになります。一日目。いきなり「なぜホワイトハウスの会話を録音したテープを燃やさなかったのですか?」と攻めるフロストに対し、国益のためだと語るニクソン。一つの質問に対して長々と持論を展開するニクソンに完全に主導権を奪われます。2日目にはベトナム戦争とカンボジア侵攻の責任問題を取り上げ、現地での悲惨な映像を見せるなどしますが、ニクソンは全く動じません。3日目の外交問題も完全にニクソンペースで進み、フロスト側は危機感を強めます。そして深夜、ニクソンはフロストに電話とかけてきて、二人の経歴の共通点を述べ、明日はお互いに社会生命をかけた戦いになるだろうと言ってフロストにプレッシャーを与えます。フロストはホワイトハウスの会話録音テープを徹底的にチェックし、4日目にニクソンへそれをぶつけ、ニクソンから、国益のためなら大統領は非合法な行動も許されるという言葉を引き出すことに成功します。あわてて休憩を取らせるニクソン側。再開後、ニクソンは、過ちは認めるが困難な時代だったせいだと語り、国民を失望させた責任を一生背負うつもりだと言って、敗北感と絶望感に満ちた表情を見せてインタビューは終わります。インタビュー番組は高視聴率を上げてフロストは時の人となり、自宅で海を見てたそがれるニクソンの姿で映画は終わるのでした。
 関係者のインタビューを挟み、エピソードが展開するという構成は面白かったのですが、話自体が面白いものではなく、また役者たちが魅力に欠けた人ばかり(特にニクソン役の人は全くニクソンに似ていなくて興醒めでした)というのが致命的だったような気がします。ロン・ハワードのこれまでの監督作品の中で一番つまらなかったのではないでしょうか? 政治スキャンダルが好きな方にはオススメかも?

百田尚樹『聖夜の贈り物』

2010-04-16 16:22:00 | ノンジャンル
 百田尚樹さんの'07年作品『聖夜の贈り物』を読みました。クリスマスイブを舞台にした短編集です。
 第1話「魔法の万年筆」は、恵子がホームレスに食事を与えると、そのホームレスは自分はサンタであると言って、それで書くと3つの願いが叶うという鉛筆を万年筆と呼んで恵子にくれ、恵子は身近な人の幸福を願う願いごとをすると、本当にどれもが現実となり、それが恵子の幸福につながっていくという話。
 第2話「猫」は、雅子が拾って来て飼っていた猫が、憧れの派遣先の社長が以前飼っていた猫だということが分かり、社長は雅子に正社員になってほしいと言い、また雅子に求婚する話。
 第3話「ケーキ」は、不幸な生い立ちの末期ガンの若い女性が、その意識の中で幸福な人生を一瞬の中で送り、年老いた姿で微笑みながら死んでいく話。
 第4話「タクシー」は、以前スチュワーデスだと嘘をついて付き合った生涯唯一の恋人だった男の話を私がタクシーの中で酔ってしていると、タクシーの運転手が自分がその男であり、彼も自分の身分を偽っていて、ずっと彼女を探し求めていたと告白する話。
 第5話「サンタクロース」は、最愛の両親を早く亡くし、恋人も事故で失い絶望した和子が、お腹の子供とともに自殺しようと森でさまよっていると、サンタ姿をした教会の牧師に出会い、彼のおかげで自殺を思いとどまってお腹の子とともに生きる気持ちになり、牧師が予言していたように幸せな人生を現在送っているのですが、その息子に牧師の手にあったのと同じ聖痕があるのを発見するという話です。
 登場人物にリアリティがなく、作り物めいた話ばかりで全くノレませんでした。'06年の『永遠のゼロ』、'08年の『ボックス!』が感動的な作品だっただけに、'07年のこの作品、そして'09年の『風の中のマリア』と、同じ百田さんの作品かと疑いたくなるほどの落差を感じました。嘘を絵に描いたようなクリスマス・ストーリーをお求めの方にはオススメかも。