隊員 6人に1人不眠
南スーダンPKO 戦闘下で激増
南スーダンPKO(国連平和維持活動)で2016年5~12月に派遣された陸上自衛隊の部隊で、隊員の6人に1人が精神的不安に襲われ、宿営地の医務室で受診していたことが13日、自衛隊の内部資料と関係者への取材で分かりました。当時は国連が「ジュバ・クライシス(首都の危機)」とよぶほどの激しい戦闘状況でした。自衛隊の宿営地に複数の砲弾が落下するなどしており、危機的な状況における隊員の精神状態がデータで明らかになりました。(山本眞直)
![]() (写真)南スーダンでの戦闘が激化した7月10日の週から「不眠」などで医務室での受診が急増していることを示す、自衛隊派遣部隊の「衛生状況」(週間報告) |
この内部資料は「南スーダン派遣施設隊等の衛生状況(週間報告)」。16年5月から6カ月間、南スーダンPKOに派遣された陸自東千歳駐屯地(北海道)など第10次派遣部隊員が医務室で受診した記録です。南スーダンPKO派遣差し止め訴訟弁護団の佐藤博文弁護士が情報公開請求で入手しました。
報告には「患者の発生概況」が週単位で集計されています。現地に着任した5月22日から7月9日まで、35人の隊員が医務室に訪れていますが、「精神・行動障害」の症状はゼロでした。
しかし現地で戦闘が激化した「7月10日から16日」の週からいきなり受診者が増加し、57人に。いずれも「精神・行動障害」の症状で、多くは「不眠」を訴えました。第10次隊の派遣隊員数(350人)の6人に1人が「不眠」を訴えたことになります。不眠は2週間以上の継続で、精神疾患の判断基準(厚生労働省)とされています。うつ病や自殺に至る場合があります。
派遣隊員の一人は帰国後、関係者に「自分たちもいつ殺し、殺されることになってもおかしくないと実感した」と極度の緊張と不安に襲われていたことを伝えていた、といいます。
“異常な状況” 戦闘などの惨事ストレス対処に詳しい元自衛隊衛生科幹部の話 派遣隊員の精神的な不安の訴えは明らかに激化した現地の戦闘状況と関連性はあるとみるべきです。企業や行政機関で構成員の6人に1人、16%もの人間が精神科を受診していたら異常です。不眠は極度の緊張、継続的な不安を身近に感じた中で起き、隊員は“殺し、殺される”恐怖を味わったと言えます。受診しなくても潜在的な不眠などの異常は3倍近くの隊員で起きていた可能性があります。最後の派遣部隊の第11次隊員の帰国者にすでに自殺が確認されています。今後、PTSD(心的外傷後ストレス障害)などによる自殺などの“ジュバ関連死”が懸念されます。
南スーダンPKO 精神不安・不眠
戦場の恐怖 隊員襲う
元陸自衛生科幹部“戦闘激化が心身破壊”
南スーダンPKO第10次派遣部隊の「衛生状況(週間報告)」で、派遣隊員を襲った精神的不安の異常が明らかになりました。報告から見えてきたものは―。
![]() (写真)「国際貢献・人道支援」を理由に派遣されながら、事実上の「内戦」状態の南スーダンPKO第10次隊として派遣される隊員を見送る家族ら。出発間際まで隊員にすがる子どもの姿もありました=2016年6月1日、北海道千歳市の新千歳空港 |
「精神的不安による不眠の訴えは、ジュバでの最も激しい戦闘となった2016年7月10日を境に一気に表面化しています。見落とせないのは現地に着任した当初から、呼吸器や消化器、皮ふ系の疾患、損傷などでの受診者が断続的であるが2ケタで出ていることです」
免疫力低下
こう指摘するのは陸上自衛隊の“有事”における隊員の惨事ストレス対処に詳しい元衛生科幹部です。
現地の気候による体力への影響とともに、散発的であっても「戦闘」下での道路補修作業、宿営地での生活への精神的な不安の積み重ねの中での「不眠」が徐々に蓄積され、体力、気力の減衰による免疫力の低下が始まっていた、とみられます。
この元衛生科幹部は、自衛隊員は精神科を受診すれば「精神的に弱い」とレッテルがはられ、人事考課などで不利な扱いがされるという警戒感をもっている、といいます。
「そういう隊員が、任務地で不眠を訴えるのはよほど追い詰められている表れ。自分の将来よりも、精神的にコントロールできない状況になっているから医務室にかけこむ。それほど7月10日前後の戦闘状況が深刻でした」
元衛生科幹部は、同10次隊の派遣隊員から聞き取りをしました。いつ、どんなときに自分の死を実感したのか―と。
戦死聞いて
派遣隊員はこう答えたと、いいます。
「現場で交流のあった外国軍(中国)の兵隊が姿を見せなくなり、“戦死”したと聞かされたときに自分たちも危ない、という恐怖感を覚えた」
ジュバでは正規軍ではない普通の住民が銃をもち、内戦状態にあります。
元衛生科幹部は力説しました。
「何らかの任務で宿営地から出たとき、そこで銃口が自分の方向に向けられているだけで『いつ死んでもおかしくない』という恐怖に襲われ精神的に破たんするのです」
「不調訴えなし」崩れる
南スーダンPKO派遣差し止め訴訟弁護団の佐藤博文弁護士の話 第10次隊長の中力修・第7師団第11普通科連隊長(1佐)=当時=は、新聞紙上(「毎日」2017年11月17日付)で、ジュバでの戦闘で、自衛隊宿営地に流れ弾が当たったことを認めながら、「精神面で不調を訴えた隊員はいなかった」と言い切っていました。しかし、今回の資料から、全くうそだったことが分かりました。隊長として隊員の命と健康に対する軽視は許しがたい。その結果、現地の戦闘状況はどうだったのか、隊員の安全・健康状態はどうだったのか、政府と自衛隊はすべてを明らかにし、国民・国会による検証を受けるべきです。