[ニュース分析]
北朝鮮、レッドラインを守りながらも、同時多発的に米国を圧迫
登録:2019-07-26 06:15 修正:2019-07-26 07:49
北朝鮮の短距離ミサイル発射
6・30板門店会合から1カ月も経たないうちに
ASEAN安保フォーラムへの不参加を通知
潜水艦の視察とミサイル発射まで
韓米合同軍事演習を口実に圧迫攻勢
朝米交渉の主導権を握る狙いと見られる
北朝鮮が25日、江原道元山虎島半島一帯で、新型短距離ミサイル2発を発射した。写真は今年5月9日、朝鮮中央通信が報じた北朝鮮前方及び西部戦線防衛部隊の火力打撃訓練途中、移動式ミサイル発射車両(TEL)から発射される短距離飛翔体の姿//ハンギョレ新聞社
北朝鮮のリ・ヨンホ外務相のASEAN地域安保フォーラム(ARF)への欠席通知や、金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長の新しい潜水艦工場の視察、77日ぶりの短距離ミサイル発射、世界食糧計画(WFP)を通じた韓国産コメ5万トン支援拒否の動きなど、8月に予定された韓米合同軍事演習を狙った北朝鮮の神経質な反発と圧迫が同時多発的に現われている。
“全面戦”の様相ではない。6・30板門店(パンムンジョム)会合を含め、昨年初めから、文在寅(ムン・ジェイン)大統領や金正恩委員長、ドナルド・トランプ米大統領がトップダウン方式で進めてきた朝鮮半島平和プロセスの大きな枠組みは守りながらも、望みを叶えるためにレベルと強さを調節した“制限的打撃・圧迫戦略”に近い。6・30板門店会合で作られた新たな局面で、情勢と交渉の主導権を握るための動きだ。北東アジア情勢を揺るがす核・長距離ミサイルの実験・発射などといった“戦略的軍事行動”を排除するため、自分たちが先に要請したコメ支援を拒否することまで“圧迫カード”として使う無理筋まで動員されている。
25日未明、5時34分と57分、北朝鮮の江原道元山(ウォンサン)の北側にある虎島(ホド)半島一帯で、北朝鮮の東海に向かって短距離ミサイル2発が発射された。合同参謀本部は「2発とも短距離ミサイルで、高度50キロメートル以上で、最初のものは430キロメートル、2発目は690キロメートルを飛んだ」と発表した。政府は国家安保会議(NSC)常任委員会会議の後、「新しい種類の短距離弾道ミサイルと見られる」と発表した。北朝鮮のミサイル発射は5月9日、平安北道の亀城市(クソンシ)で2発を東海に向かって打ち上げてから77日ぶりのことだ。
今回の発射には内外の要因が広く働いたようだ。朝鮮人民軍は8月末まで2カ月間、定期軍事演習中だ。金委員長が、性能改善を目的とした今回の発射を直接参観・指導した可能性がある。消息筋は「金委員長が人民軍訓練のために慌しく動いていると聞いている」と話した。実際、金委員長は21日、元山から遠くない咸鏡南道で、人民会議代議員選挙の投票を行っており、「新しく建造された潜水艦」を直接視察した。金委員長の潜水艦建造に関する現地指導を報じた23日付「労働新聞」1面の記事には、韓米を直接狙った警告メッセージは書かれていなかった。その代わり、金委員長が「国家防衛力を増大していかなければならない」と指示したと強調した。金委員長が人民軍と軍需工業まで動員し「経済建設集中路線」を強調することに対して起こり得る内部の動揺と安保への懸念を払拭しようという意図が読み取れる。
対米・対韓国圧迫行動の性格もある。北朝鮮外務省報道官は16日、8月の韓米合同軍事演習を「6・12朝米共同声明の基本精神に反する」とし、「米国と南朝鮮の合同軍事演習『同盟19-2』が現実化されれば、朝米実務交渉に影響を与えることになるだろう」と警告した。北朝鮮当局が直接明らかにしない本音を一部反映する在日本朝鮮人総連合会(総連)の機関紙「朝鮮新報」は23日付で、「4月22日から5月3日まで、米南(米韓)合同空中訓練が強行され、その直後に朝鮮人民軍の火力打撃訓練(5月4日、9日)が進行された」として、韓米合同軍事演習は「信頼造成の前提を大きく揺るがす朝米交渉の障害要因」だと主張した。韓米合同軍事演習が予定通り強行されれば、北朝鮮が追加軍事行動に出る可能性もあることを示唆したのだ。
リ・ヨンホ外務相が予想を破り、ASEAN地域安保フォーラム(8月2日、タイ・バンコク)に欠席すると通知したのは、論理上、16日の外務省報道官談話の延長線上にある圧力行動と見られる。リ外務相は当初、タイのほかに周辺2カ国を歴訪する予定だったが、これもキャンセルした。6カ国協議関係国がすべて参加する域内唯一の多国間安保会議体に北朝鮮の外務相が出席しないのは、2009年以降10年ぶりのことで、異例といえる。
外交安保分野の高官は「朝米の実務交渉と関連し、水面下の調整がうまく進んでいない証拠」だと指摘した。北朝鮮事情に詳しい元高官は「対米圧迫と対立回避の両面があると見られる」と述べた。朝米実務交渉に意味ある進展が見られない状況で、あえて対立する必要はないという判断も働いたという指摘だ。北側の本音が何であれ、6・30板門店会合で「2~3週間以内」に開くことにした実務交渉がいつ開かれるかも予測がつかない状況になったことだけは確かだ。
韓米合同軍事演習に対する北側の問題提起に前向きに対応しなければ、朝鮮半島平和プロセスに突破口が開かれるのは難しいという懸念の声も高まっている。元高官は「人民軍や軍需工業まで動員し、経済建設に集中する“金正恩流リーダーシップ”の国内政治的正当性の基盤は、南北・朝米・朝中首脳会談による情勢安定で、最も明らかな兆候が大規模な韓米軍事演習の中止」だとし、「金委員長が韓米合同演習に敏感に反応する理由を真剣に考えなければならない」と指摘した。ある元老は「北東アジアが米国対中国・ロシアの覇権争いと韓日のあつれきで揺れ動く中で、朝鮮半島平和プロセスが道を失わないためには、文大統領が決意を持って南北関係の改善を積極的に進めるなど、バランスを取らなければならない」と述べた。
イ・ジェフン、パク・ミンヒ、ノ・ジウォン記者(お問い合わせ japan@hani.co.kr)
米専門家ら
「北朝鮮ミサイルで対話基調が崩れることはない」
登録:2019-07-26 08:41 修正:2019-07-26 09:17
米政府、「短距離飛翔体」と初期評価
ケン・ゴース海軍分析センター局長「北朝鮮の行動は予想内…実質的影響はない」
フランク・オム平和研究所先任研究員「朝米対話、軌道から外れはしないだろう」
北朝鮮の金正恩国務委員長が5月4日、江原道元山虎島半島一帯で行われた火力打撃訓練で短距離飛翔体が発射される様子を望遠鏡で見ている=朝鮮中央ニュース//ハンギョレ新聞社
ドナルド・トランプ米行政府は、25日に北朝鮮が東海上に発射した飛翔体を「短距離飛翔体」と規定し、この事案が朝米対話に及ぼす影響などを慎重に分析するようすだ。
米CNNは同日、「米国防当局者の初期評価によると、米国は北朝鮮が少なくとも一発の短距離飛翔体(short range projectile)を発射したものと見ている」と伝えた。米政府高官は同メディアに「われわれは北朝鮮が発射した短距離飛翔体に関する報道について知っている」と述べた。
韓国と米国当局は今回の北朝鮮の飛翔体の正確な諸元について分析しており、ひとまず「短距離飛翔体」として初期評価を行い、慎重な態度を維持しているものとみられる。先月30日、トランプ大統領と北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長の板門店会合で、双方が実務交渉の再開に合意しただけに、必要以上に事態が悪化するのを防ごうとする意図と読み取れる。5月の2回にわたる北朝鮮の短距離ミサイルなどの飛翔体の打ち上げに関しても、当時トランプ大統領は「金委員長が私との約束を違反したわけではない」、「国連安保理決議違反ではない」とし、波紋の拡大に一線を画した。
米国の朝鮮半島専門家たちも、北朝鮮の今回の発射の背景には、来月予定された韓米合同軍事演習が作用した可能性があるとし、今回のことで朝米の対話基調自体が動揺することはないと見通した。ケン・ゴース米海軍分析センター(CNA)局長はハンギョレに「このようなことは、北朝鮮が制裁緩和の要求から安全保障にレトリックを変えたときに、予見されたことだった」と述べた。彼は「北朝鮮が韓米合同軍事演習を約束違反だと言いながら、自分の違反を正当化するのは長年の戦略」だとし、「これは戦略的シグナルにすぎない」と述べた。ゴース局長は「北朝鮮は短距離実験はトランプの『レッドライン』(禁止線)には触れていないと信じている」とし、「したがって、実質的影響はないだろう」と見通した。北朝鮮の今回の発射が5月の発射レベルの「低強度挑発」であるため、これによって米国が北朝鮮との対話をあきらめはしないだろうということだ。
フランク・オム平和研究所先任研究委員はハンギョレに、北朝鮮のミサイル発射理由について「新ミサイル研究強化、韓米合同軍事演習(8月)に対する不満の表示、あるいは(訪韓した)ジョン・ボルトン国家安保補佐官に対する直接的なメッセージ」など様々だと指摘した。「私はそれでも今回のことで朝米が対話の軌道から外れないだろうと思う」とし、「ただ、北朝鮮が依然として実務交渉の準備ができていないことが心配だ」と述べた。
スコット・スナイダー米国外交協会先任研究員はワシントンポスト紙に「北朝鮮は非武装地帯(板門店)での朝米首脳会合をわれわれ側の過剰な熱望の証拠として解釈した可能性がある」とし、「それで北朝鮮がやや退いて、何を得られるか見極めている。これは自然な反応だ」と述べた。
ワシントン・東京/ファン・ジュンボム特派員 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )