ボードを盗んで乗る5歳のラッコ…
「私を逮捕?人間は怖くない!」
数週間前から、米国カリフォルニアのサンタクルーズ・ビーチで、サーフボードが破壊される事態が発生している。犯人は、ボードを歯で噛み切るだけでなく、波乗りをするサーファーからボードを横取りしたりもした。ついに管理当局が犯人の「逮捕命令」を下すに至ったが、その正体はなんと5歳のラッコだった。
米国「ニューヨーク・タイムズ」などは12日(現地時間)、カリフォルニア州魚類野生生物局(CDFW)が、最近サンタクルーズ・ビーチで人間への接近を続けるラッコ1頭を捕獲することに決めたと報じた。
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カリフォルニア・ビーチのラッコ841、幼い時期に水族館で成長
当局は、ラッコがとりわけ攻撃的な様子を示した先週末以降、声明を通じて「公共の安全に対する危険が増えていることを受け、モントレーベイ水族館のチームとともに救助することにした」と明らかにした。
外信の報道を総合すると、ラッコは野生生物局が「841」と呼ぶ個体だ。5歳のメスのこのラッコは、当初はサーフボードに乗って見事な「サーフィンの実力」を示し、人々に愛されていたが、今では悩みの種となっている。ラッコがこうした境遇に陥ったのには理由がある。
841の母親は幼い時に水族館で育った。大きくなって野生に返されたが、人々がイカや餌をあげ続け、母親もサーフボードやカヤックに接近し続ける様子をみせた。野生への適応に失敗した母親は結局、サンタクルーズ海洋動物保護センターに戻されることになったが、その時、841を妊娠した状態だった。
乳離れした後、841はモントレーベイ水族館に移され、母親のように人間と肯定的な関係を結ばないよう、接触を最小限にした。モントレーベイ水族館は非営利の公共水族館で、ラッコや様々な鳥類、マグロの保全に努めている。
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野生復帰後、人間に対する恐れを失う
だが、野生に返された後、841はすぐに人間に対する恐れを失った。現地の専門家らも正確な理由は分からないとしている。
モントレーベイ水族館のラッコプログラム・マネージャーのジェシカ・フジイ氏は「841が野生に返された後、1年間は何の問題もなかった。ところが、次第にラッコがサーフィンやカヤックなどのマリーンスポーツを楽しむ人々に接近しているという報告が入ってきた。841が人間から餌をもらったという証拠はない。だが、この数年間、そうした行動が続いている」とニューヨーク・タイムズに語った。
ラッコ841が初めてサーフボードやカヤックに関心を持って乗る姿が観察されたのは、2021年のことだ。はじめは時々観察される程度だったが、その後時間が経つにつれ、ますます大胆になっていった。そして先週末には、サーフボードを横取りする様子が3回も目撃された。
地元の写真家のマーク・ウッドワード氏はこの数週間、ラッコのそうした様子をSNSを通じて公開してきた。ウッドワード氏が11日に公開した動画をみると、841があるサーフボードに近づいて乗り込み、サーフボードを奪ってしまう様子も撮られている。ウッドワード氏がさらに公開した写真には、ラッコが噛み切って壊したボードもみえる。
ウッドワード氏は「ラッコの姿はかわいらしく、楽しそうにみえるが、ラッコの接近はますます危険になっている。ラッコは最近、いくつかのボードを噛み切っており、これはサーファーとラッコの両方にとって危険な状況」だと、英国「ガーディアン」に述べた。
人間との接触は、ラッコに否定的な結果をもたらす可能性が高いという。苦労して野生に返したにもかかわらず、水族館に再捕獲しなければならない状況になるだけでなく、もし人間が噛まれることがあれば、ラッコを安楽死させざるをえないためだ。
カリフォルニア中部の海岸にだけ棲息する「カリフォルニアラッコ」は絶滅危惧種だ。かつては数十万頭がカリフォルニア沿岸海域に棲息したが、現在は3000頭あまりだけが残っている状態だ。個体数があまりに少ないため、1頭でも命を失うことになれば、種の保全に悪影響を及ぼすことになる。
現在当局は、841を捕獲するために努力中だ。捕獲に成功すれば、まずはモントレーベイ水族館に戻された後、別の水族館に移されて余生を過ごすことになる。
専門家らは、野生でラッコに会っても近づいて接触してないよう求めている。マネージャーのフジイ氏は「ラッコの行動は肯定的な相互作用のようにみえるだろうが、そうした様子を目撃しても、SNSで共有しないことが重要だ。こうした交流が長期的には野生動物にとっては害になりうるためだ」と述べた。