大飯再稼働 首相最終判断へ 関西連合の容認受け 地元の合意促す
政府は30日、大飯原発3、4号機(福井県おおい町)の再稼働について、同日鳥取県で開かれた関西広域連合(2府5県と2政令市)の会合で再稼働 が事実上容認されたことを受けて、
関係閣僚会合を開きました。野田佳彦首相は「福井県とおおい町の判断が得られれば、関係閣僚会合で議論し、私の責任で判 断する」と述べ、再稼働の最終判断へ一歩踏み込みました。
細野豪志原発担当相は同日、関西広域連合に安全確保の取り組みを説明。「特別な監視体制」として、経済産業省の副大臣らが現地で常時監視することや、政府の判断基準は「暫定的な
もの」で、新たな規制機関ができれば再評価が行われることなどを表明しました。
これに対し関西広域連合の会合で大阪市の橋下徹市長は「暫定の基準ならば、安全も暫定だと割り切って物事を進めるべきだ」と発言し、事実上再稼働 を容認する姿勢を表明。連合として
も「再稼働は限定的なものとして適切な判断をするよう強く求める」と、再稼働を事実上容認する声明を発表しました。
同日夜に開かれた野田首相と枝野幸男経済産業相ら関係3閣僚の会合は、関西の電力消費地や周辺自治体からおおむね理解を得られたと判断し、原発が立地する福井県やおおい町に再
稼働の決断を促すことを確認しました。
おおい町議会は14日に再稼働に同意しています。一方、大飯原発の技術的安全性を検証している県の原子力安全専門委員会の結論はまだ出ておらず、西川一誠知事は政府の協力要請に
対する意向表明を留保しています。
無謀な首相「政治判断」 「暫定」安全基準で大飯再稼働
関西電力大飯原発再稼働決定の最終プロセスに踏み込み、首相判断に一任した30日の閣僚会合は、内実のない「暫定」の安全基準で原子炉を動かすことを認めた無謀な「政治判断」の極みです。
政府が示していた「再稼働基準」は、安全確保のための重要項目であっても、電力会社が実施計画を立ててやる気さえ見せればいいという甘い基準で、 もともと「暫定」としかいえないものでした。これに批判的だった関西広域連合内の府県・市からの理解とりつけが、再稼働の焦点になっていました。これを突 破して、最終的な関係閣僚の再稼働決定へ向かうことになったものです。
細野豪志原発担当相が30日の関西広域連合会合の席上で示した説明には、住民の不安を解消する安全確保の担保は何もありません。「特別な監視体 制」とは、経産省の副大臣や政務官が大飯原発で運転状況を「常時監視」するというもの。原発推進機関の同省の、しかも原子炉の専門的知識もない政治家に 「監視」の役目が果たせるはずもありません。
実際、福島原発事故で「現地対策本部長」を務めた池田元久経産副大臣(当時)は、相次ぐ原子炉建屋の爆発を受け、修羅場を放りだして福島市に移りました。いざ事故が起きれば「監視」どころではありません。
国会では、事故調査委員会が事故当時の菅直人首相ら当事者からの聞き取り調査を進めている段階です。中心人物の東電前社長の聴取もされず、事故原 因の究明にはほど遠い状況です。新たな原子力規制機関の国会審議も始まったばかり。しかも提出された政府法案も自公案も、規制機関を原発推進機関の環境省 の外局として設けるなど問題だらけです。事故が起きた場合の放射能被害の予測、住民避難の計画すら十分に立てられていません。
こうしたなかで細野氏が唱えたのが「暫定的な基準」で、関西広域連合の容認をあてこんでいました。細野氏は、新しい規制機関ができれば、暫定的な 基準は再評価の対象となり、より厳格な基準が別にでき、「大飯原発も稼働がおかしいと判断すれば、使用停止もありうる」と述べました。
しかし、規制機関の人事や新たな安全基準が決まるまでには長い日時がかかり、肝心の夏の運転時に間に合うはずもありません。しかも、いまの「暫定 的な基準」は、原発利益共同体や原発推進機関と一体となって「安全神話」をふりまいて福島原発事故を招いた原子力安全委員会や原子力安全・保安院が決めた ものです。
周辺自治体の首長の責任も問われます。同会合で橋下徹大阪市長は「暫定の基準ならば、安全も暫定だと言い切って物事を進めるべきだ」と容認論を リード。仁坂吉伸和歌山県知事も「われわれは(原発を)止めることを目的として議論しているわけではない」と述べ、再稼働反対の住民の声は代弁しませんで した。
原発再稼働判断の強行は、再稼働に反対し「原発ゼロ」を求める住民の怒りと声をいっそう強め、支持率低下にあえぐ野田内閣の矛盾をいっそう深めることになります。(林信誠)