みどりの一期一会

当事者の経験と情報を伝えあい、あらたなコミュニケーションツールとしての可能性を模索したい。

最近読んだ本:金原ひとみ新刊『マザーズ』母であることの幸福と、凄まじい孤独。

2011-09-16 18:24:02 | ほん/新聞/ニュース
8月に毎日新聞と朝日新聞の書評に載っていた金原ひとみさんの新刊『マザーズ』、
さっそく買ってきて読みました。
金原ひとみさんといえば、芥川賞とすばる文学賞を受賞した『蛇にピアス』で注目され、
昨年は『TRIP TRAP』織田作之助賞を受賞。

最新作の『マザーズ』は、子育て中の3人の母親の内面を描いた衝撃の本。

けっこう分厚い本で、一人称で3人のことを書く手法が最初は読みにくかったのですが、
3人の母親の話に引き込まれ、一気に読みました。
この書き方、どっかで読んだなと思いながら読んだのですが、
村上春樹の『1Q84』と似てることに気が付きました。
『1Q84』も始めは読みにくかったことを思い出しました。
とはいえ、
『1Q84』の女性の書き方には共感できなかったので、 
「母」であることの孤独を書いた『マザーズ』のほうが、ずっと深い内容ですね。
「母性とは何か」をテーマにした本としては秀逸。
ずっと昔、子どもを愛しながらもやりきれなさを抱き、孤独な子育てをしていた頃を思い、
読みながら胸が締め付けられるような気がしました。
一人でも多くの人に読んでほしい本。

   【金原ひとみ『マザーズ』刊行記念インタビュー】
   母であることの幸福と、凄まじい孤独。(波 2011年8月号より)新潮社
  
マザーズ 金原ひとみ
同じ保育園に子どもを託している、作家のユカ、主婦の涼子、モデルの五月。
三人の若い母親たちが抱える、痛みにも似た孤独と焦燥、母であることの震えるような幸福。
彼女たちは何に傷つき、何に憤り、何に慰撫されているのか。
作家が自身の体験のすべてを注いで描きだす、現代日本の「母」、そして「家族」。渾身の最高傑作!
ISBN:978-4-10-304532-8 発売日:2011/07/29


9月11日日曜日の岐阜新聞にも書評が載っていました。
2011.9.11 岐阜新聞

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 金原ひとみ新刊「マザーズ」 母親の生きづらさ重層的
2011.8.31 朝日新聞

 子育ては、壮絶な格闘にして、かけがえのない幸福――。作家の金原ひとみが長編小説『マザーズ』(新潮社)で新境地をひらいた。同じ保育園に子を預けている若い母親3人が、三者三様の苦境に陥ってゆくさまを、それぞれの視点からつづった力作だ。
 「蛇にピアス」で芥川賞を受けたのが20歳の時。7年経った今、2児の母親になった。
 「子供を育てる中で、今まで感じたことのなかった生きづらさを経験した。母になるとはどういうことなのかを考えてみたかったのが、作品を構想したきっかけです」
 母親3人は友人として母親仲間として交流を持つ。共有する出来事を別な視点からとらえることで、物語は重層性を帯びる。
 「一人称多視点の長編は初めてなので、プロットを立てている時は不安だった」と金原はいう。「母親像をできるだけ多面的に描きたかった。私自身も3人の主人公に監視されながら書いたことで、いい距離感を保つことができた」

 作家の「ユカ」は仕事と育児に忙殺され、週末だけ一緒に暮らす別居婚を続けるが、精神の均衡を崩し、薬物におぼれる。専業主婦の「涼子」は、子育てに疲れ果て、ぐずる我が子を虐待し始める。モデルの「五月」は不倫に走り、相手の子をみごもってしまう。
 「ユカは端から見ると満たされているが、実は耐え難い虚無感を抱えている。逃げられる所があるなら逃げたいという気持ちはよくわかる」
 涼子についてはこう解説する。「眠れない、時間がないなど、母親が皆感じるであろうつらさを一身に抱えている。子供と密室に置かれていることが人を狂わせてゆく。暴言を吐いたり叩(たた)いたりする行為には中毒性がある。頭では冷静に考えても、衝動が加速度を増してゆく」。五月については「子供を持つことで夫との関係が悪くなる。不倫に走るのも、家庭のバランスを取るため」と語る。
 「3人とも、表れ方こそ違うけど、閉塞(へいそく)感から逃避しているんです」
 3人の思いには、それぞれすさまじい振幅がある。〈出産以来……母というグロテスクな生き物になってしまった〉=涼子。〈崩壊が始まった。私の全てが壊れる日が来た〉=ユカ。〈子どもを育てるということは、奇跡に立ち会うということなんだ〉=五月。
 「出産して以来、世間が持っている母親のイメージに対して、そういうものじゃないんだと、疑問に感じることが多かった。母性とは何なのかを考えるきっかけにしてもらえたら」(小山内伸)   


語る:金原ひとみさん 長編小説『マザーズ』を刊行 

◇母の孤独と喜び、体験糧に描く
 作家、金原ひとみさんの長編小説『マザーズ』(新潮社、1995円)が刊行された。2児の母でもある著者が、幼児を抱えた母親の壮絶な孤独と喜びを描いた渾身(こんしん)の一作。虐待や待機児童のニュースが日常化する現在、身近で切実で困難なテーマに取り組んでいる。金原さんに聞いた。【棚部秀行】
 主人公は3人の若い母親。作家のユカ、モデルの五月(さつき)、専業主婦の涼子は、子供を同じ保育園に通わせる“ママ友”だ。子供との接し方はそれぞれで、夫婦関係はみな順調とはいえない。ユカは薬物に手を出し、五月は不倫をし、涼子は息子を虐待している。
 「主人公を3人にしたのは、普遍的な話にしたいと思ったから。母性や母親としての気持ちは、人によって違い、とても強い。1人の主人公だと、どうしても主観的、個人的な話になってしまうと思いました。彼女たちは私の分身でもあります」
 章ごとに3人の視点が入れ替わって物語は進む。母親たちは育児の不安と夫への不満を抱き、子供にいらだつと同時に、強烈ないとおしさを感じている。出産以前の生活との違いに愕然(がくぜん)としながら、周囲とは隔絶されがちな日常を生きる。
 「母というものがこんなに複雑だとは、子供を持つまで思いもしなかった。恋愛関係でもうんざりすることはありましたが、こんな感情が人間には芽生えるんだと。きちんと向き合って書きたいと思いました」
 虐待のシーンでは、目を背けたくなるような記述が続く。涼子は罪の意識を持ちながら、手を抑えることができない。夫や家族はその異常に鈍感だ。涼子は息子を前に思う。<こんなに愛しているのに、私たちは一緒にいたら破滅する>
 そのとき思い起こすニュースは、夫婦がデートに出かけ、家に残された乳児が布団で窒息死した事件。<私は彼らを責める事が出来ない>と涼子は感じる。
 「ワイドショーで虐待のニュースがあると、よくコメンテーターが『理解できない、鬼ですね』って言いますよね。でも、それでいいの?って思う。理解しなきゃいけないんじゃないの?って。虐待は、個人的な問題ではなく、人間の根源的な問題だと思います」
 さらに「子供を預けて親が楽しむことを批判する風潮に違和感を感じます。恋愛関係でも親子関係でも同じことが言えると思いますが、人は1対1で向き合い続けると、冷静な判断を失っていきます」と続けた。
 その思いはユカの<育児の大敵は孤独だ。孤独な育児ほど人を追い詰めるものはない>という述懐に通じる。
 金原さんは言う。「女性たちに働く自由や遊ぶ自由がある現代では、子供を産むことであきらめざるを得ないことが多過ぎる。だから、なかなか子供を産もうとは思えない。改善策は、あきらめることをいかに少なくするか、だと思います。ベビーシッターを雇いやすくする制度や、フランスの『週35時間労働制』のような、男性に育児参加をしやすくさせる制度の導入など、いくらでも打つ手はあると思います」
 孤独の果てに、主人公たちはそれぞれの幸せの形を見いだしていく。その契機はやはり、子供がもたらすものだった。
 400字詰め原稿用紙850枚の小説は過去最長。連載も今回が初めてだった。1年3カ月をかけた文芸誌への連載中、金原さんは2人目を妊娠し、この4月に出産した。生活上の変化が大いに反映された作品といえるが、執筆中、実生活と小説が同調するような感覚を覚えたという。
 「五月が不倫相手との妊娠に気づいたときに私が妊娠したり、娘の誕生日に、ちょうど誕生会の場面を書いていたり、ユカが失踪するシーンを書いていた頃に私もプチ失踪したり。小説に人生が浸食されて、壊されるんじゃないかという気持ちになった。でもだからこそ、書けたという気持ちもあります」
 20歳で芥川賞を受賞して7年。小説を書き続け、結婚・出産を経験した作家は、着実に文学のテーマを広げている。「一つ一つステップを積み重ねて、やっと『マザーズ』に足を踏み入れました。人間関係をベースに小説を書いていくので、子供という新しい対象が現れて、また一つ世界が広がった気がしています」

 ◇岡山で育児休暇中
 金原さんは現在、岡山で3歳と0歳の娘と共に暮らしている。東日本大震災発生の翌日、東京都内の自宅から移った。余震や放射能の子供への影響を考慮したからだという。
 「臨月のときに地震と原発の爆発が起こりました。すぐ東京に戻るつもりだったのが、放射能について調べていくうちに戻れなくなって、岡山で出産しました。上の子も保育園に入れて、今に至ります」
 東京で感じた育児中の孤独が、岡山では薄れるのを感じている。「小さい子を連れていると、みんな話しかけてくるんですよ。東京では出産は大事件ですが、岡山では、日常のなかの自然なものとして受け入れられている気がする」
 デビュー以来、長女出産の時も産休や育休を取らずに小説を書き続けてきた。現在、初めての長期休暇中。「ずっと駆り立てられるように、書きたい、書かなきゃと思い続けてきました。今回はしっかり休もうと。余裕をもって子供たちとも向き合えています」。充実した表情を浮かべた。
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 ■人物略歴
◇かねはら・ひとみ
 1983年、東京都生まれ。2004年『蛇にピアス』で芥川賞、10年『TRIP TRAP』で織田作之助賞受賞。 


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