会津の本名御神楽岳への山行を計画したのは、昨年に続いてのものである。昨年は雨で中止になったため、リベンジを果たそうというわけだ。直前に金山町役場に電話をかけて確認したところ、土砂崩れのため霧来沢の林道が通行止め、今年もこの山は断念せざるを得なかった。計画は不思議なもので、3度、4度と中止を繰り返し、その果てに行って素晴らしい結果となったことが、一度ならずある。この山もそんな山であるのかも知れない。今後の再計画に期待したい。
急きょ変更した山が村山市の甑岳(標高1016m)。国道を走ればすぐに目に飛び込んでくる台形のどっしりした山だ。その昔、米を蒸す甑を伏せた格好をしているので、この名がついたのか。今回選んだ登山コースは、岩神コース。岩神山と大平山の2つの山を越えて行く、尾根歩きの気分が味わえるコースだ。
午前中は時おり通り雨が来る。カッパを着たり脱いだり忙しい。岩神山へ登る途中、貉頭という岩場があり、胎内くぐりのあたりで道を失いしばらく藪漕ぎ。ほどなく登山道へ出る。この岩場以外に危険な場所もなく、ほどなく明るさが増して、雨が遠ざかっていく。
今しがた空をかぎれる甑嶽の山のつづきは光をうけぬ 斉藤 茂吉
山中は静かで人と会うこともない。このコースを歩く人は少ないのか、下草の露で靴が濡れた。甑岳は幕井コースを行けば、初心者の山と認識されているが、岩神コースを歩けば、そこそこの山歩きを感じさせてくれる。小松沢観音、山の周辺に散在する灌漑用の溜池。この山が、地区の人々といかに強い絆で結ばれていたかが見て取れる。このコースを辿ってみて、この山を初心者の登る山と決めてかかるのは、いかに浅薄な思考と思わざるを得ない。
見晴らしのよい地点から、先々週登った黑伏山の切れ落ちた稜線が見える。昼食のあと、陽ざしが戻ってきた。一気に春ゼミや鳥たちの合奏が始まる。見晴らし台で2グループが和気あいあいと食事をとっていた。我々(今回4名、男女2名)は三角点まで歩く。そのグループは福島からやって来た人たちであった。人気のない山道を歩き通しだってので、人の声が懐かしくうれしい気がする。
稜線の合流点から、幕井の池に向った下山。陽ざしが強くなったが、ブナやミズナラ、栗などの大きな木が木陰を作って、下り道を快適にしてくれる。初夏の木々の緑が、香しい冷気を振りまく。沢筋にミズ、小高な道にはワラビ、笹タケなど春の味覚をゲットする。見晴らし台から下を見下ろせば、村山の市街、蛇行する最上川。農村の景色が見て取れる。