
今年は知人からたくさん大根をいただいた。ひところジャガイモや玉ネギなどの値上がりが報じられたが、ここへきて白菜や大根が安値になっているらしい。晩秋の気温が高かったせいか、大根の成長に寄与したらしい。映画監督の吉村公三郎の『味の歳時記』を見ていたら、「大根」の項に面白い話があった。大根役者のいわれを若い事務員に聞いた話だ。フランスにも同じ話があるそうで、「大根は決して当らない。(中毒しない)」と下手な役者が演ずる芝居は当らない、をひっかけた駄洒落だ、と説明してくれた。
今年は海水温が高くなって秋の獲れる鮭が不漁で、そのかわりに北の漁場でブリやサバが予期せぬ豊漁になっているらしい。サバにいたっては、この季節の漁獲量の百倍にもなっているそうだ。八百屋さんが言っていたが、ものがたくさん出廻って値が下がっている時期がその野菜の一番おいしい時。近年、冬に夏野菜を食べるような、地球を痛めつけるような食べものは食卓に乗せないことだ。その意味で一番安値のブリ、それも粗(魚屋さんで捌くのを待って買う)でいただいた大根を煮る。丁度、寒気が降りて来て小雪が舞う空を眺めながら、ふう、ふうとブリ大根を食べるのに何とも言えぬ幸せを感じる。
寒鰤のいづれ見劣りなかりけり 鈴木真砂女
昔、祖母や母が伝えてきた伝統食を改めて大切であると痛感している。納豆、マグロの血合い、牛筋の煮込み、イカの塩辛。どれも酒のつまみに向いているが、身体にもいい。「アメリカインディアンは風邪ひかない」というジョークのような話があった。しかし、これは本当の話だ。トウモロコシとビーンズ、これがインディアンの主食になる。動物性の食品は水牛だ。これは肉のほかに内臓も食べられる部位は全て食べる。西部劇では、ヨーロッパから渡った渡来じんと現地のインディアンの壮絶な戦いが描かれる。現地人の伝統食に培われた身体能力は想像を超えるものがある。流通で国全体の食料を賄うには無理があることが明らかになりつつある。伝統に戻って、耕作を放棄した土地にしっかりと目を向けた方策をみんなで支える国であるべきだ。