
山茶花の濃しと見たれどなほ淡し 篠田悌二郎
手元に写真家・柏倉新吉さんの写真集『白き神々』がある。1988年の発行で、テーマは蔵王の樹氷である。柏倉さんはこの写真を撮るために、蔵王温泉で働き、早朝に山に入って、樹氷の輝きを撮りためたと、語っていた。アオモリトドマツに松枯の被害が広がって、樹氷の危機が言われている。それでも、昨年の冬、樹氷原に出かけ、樹氷と氷瀑をみてきた。写真集には、太陽の光で時々刻々と変化する樹氷の姿が収められている。巻頭言は、あの「千の風になって」を訳詩した新井満氏である。氏はこの12月3日、75歳で逝去された。
「彼らのいのちは一瞬でしかない。一吹き風が吹けば、もうそこにいない。一瞬に生き、一瞬に死ぬのである。だが変幻自在の一瞬をくり返すことによって、彼らは永遠に生きてきた。うなだれて立ちつくす白き神々たちを真赤に染めながら、夕陽が落ちてゆく。その光景を記憶しておこうではないか。この地球に、わたしたちはたしかに滞在したのである。そのあかしとして網膜に刻んでおこうではないか。」(あらい・まん 作家)
一冊の写真集が、人が生きていく意味を教えてくれる。毎日の散歩のなかで目にする自然の移ろい。その時に感銘をうける風景や花々、どれもが哀れな生の意味を語っている。