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作家の小島直記は妻を伴ってヨーロッパに旅行した。携行したのは小さな文庫本、佐藤一斉の『言志四録』であった。修養の書というべき本だが、いまでいうツイッターのような短文が書き連ねてある。その章句を摘読して気に入ったものを書き記している。例えば、学問に役立つものとして
山岳に登り、川海を渉り、数十百里を走り、時有ってか露宿して寝ねず、時有ってか饑うれども食わず、寒けれど衣ず、此は是れ多少実際の学問なり。夫の徒爾として、明窓浄机、香を焚き、書を読むが若き、恐らくは力を得るの処少なからむ。
山に登ったり、川や海を渡り、野宿したり、飢えて食べものも口にせず、寒さに着るものもない。こうした経験は学問で大いに役立つ。明るい窓べのきれいな机で、香をくゆらせて読書するなどは、力をつけることは少ない。
林家の塾長であった佐藤一斉は、このように記し、塾生たちにこの考えを伝えもしたであろう。やがて、黒船が来航し、明治維新となる。志士たちの学問の基礎にはこの言志四録があった。