里山に春がきている。もう少しで、雪の消えたあたありにフキノトウが顔を出す。木々の芽も膨らんできている。気温があがると、びっくりするような勢いで雪が消えていく。小鳥の声も心なし、テンションが上がって聞こえる。春が忍び寄って来る日々で、思い出すのは青春の頃だ。
盃に春の涙を注ぎける
むかしに似たる旅のまどゐに 式子内親王
親王は賀茂神社の斎院を勤めた。神事では、お参りに来る人の盃に酒を注いだであろう。春の涙、とはなんとも哀れな言葉ではある。斎院を辞してから、親王が辿った有為転変は語りつくすことはできない。思わず、胸が塞がれ、涙となって盃に落ちる。春は、花をもとめて旅に出る季節である。