この日、新潟の八海山の登山口を見てから、関越トンネルを通って、谷川岳登山の基地湯檜曾温泉湯の陣ホテルへ。ここはみなかみ温泉郷の一部になっている。みなかみ紀行とみなかみ温泉。歌人若山牧水の名随筆「みなかみ紀行」は信州の小諸を皮切りに、軽井沢から嬬恋、草津温泉。花敷温泉から水上の法師温泉、清水越えの湯檜曽にも触れる紀行文だ。酒を愛し、温泉で酒を酌みかわし、地元の歌人が集まって歌会も開かれる。奇しくも今度の山の旅は、牧水の足跡と重なっている。そもそも、みなかみという町の名は、この随筆からとって名付けられたもの、語るブログもある。
みなかみ、水上。長い徒歩で山中の温泉を訪ねる目的は、牧水が片品川や利根川の、流れの源流を求める旅であった。沼田の近くの森の菅沼の近くで、草むらにむくむくと吹き出す水を見た。牧水は、案内の老人から、この水が菅沼や丸沼、大尻沼の源になっているという説明に小躍りして喜んだ。「それらの沼の水源であれば、とりも直さず片品川、大利根川の一つの水源でもあらねばならぬのだ。」牧水は、こう書いて結論づけている。
登り来しこの山あひに沼ありて
美しきかも鴨の鳥浮くけり 牧水
8日になって夜明けに外を見ると、予報通りの雨になっている。雨の中を、谷川岳の山に登ることはかなわない。予定を変更して、新潟の弥彦山へ。車中で降り続いていた雨も、弥彦神社近くなって止んできた。ロープウェイで山頂の神社へ。ここから日本海の沖に、佐渡が横たわっている。30分ほど階段や山道をあるいて奥の院へ。弥彦神社の参拝者は100万人に及ぶという。近隣の人たちばかりでなく、全国から家内繁盛、安全を求める人たちで賑わいを見せる。今年の山行で、初めて予定を変更された。太平洋の南で、次々と発生する台風のためだ。それにしても、長く続く猛暑日や雨不足は、この雨で一息つける。穀倉地帯、新潟の田も、雨をうけて秋の風景をうるおい深くしている。