頭殿山は白鷹町の北西にある標高1203mの里山である。黒鴨集落からこの山を越え、朝日鉱泉をへて大朝日岳への入山ルートであった。今はこのルートを使う登山者はなく、登山ルートから外れた山となっている。頭殿山という不思議な山名を見て想起するのは、出羽三山の湯殿山である。殿の字を山名にしているのは、この山が麓に棲む人々にとって特別な山であったことを意味している。事実、頭殿山には湯殿山で修験の修行をしていた光明海上人の即身仏が発掘されている。いわば、人々の信仰生活に結び付く、修験の山である。
今回の登山コースは、朝日鉱泉の手前の林道から、登山口へ入り、大朝日岳の雄姿を背後の望みながら登るコースである。登山口へ至る手前に、道路の路肩に多くの車が駐車していた。これは、殆どが大朝日岳へ登る人たちで、5キロほど手前にある橋の改修のため通行止めになったいるためであった。おりからの登山日和、憧れの大朝日岳へは県外からの人たちは、期待を顔に表して朝日鉱泉へと向かっていた。
林道は登る人も殆どないものと見え、バラなどのブッシュに足を取られる。林道の上は、深い沢の上に付けられたトラバースとなっている。雨などが降れば、足元には十分な注意が必要になる。往復9.5キロ、足が疲れて来る復路には特に要注意である。山中はすっかり秋の景色になっている。尾根道にある分岐からは、頭殿山の山頂が見えてきた。
今日の登山の圧巻は、頂上からの展望である。快晴の上、無風。360度の展望は、その第一が西側に迫る朝日連峰の山々である。この見事な景観を写し取るには、カメラの性能か撮影技術の未熟さか、十分に捉えきることができなかった。肉眼では、尖った大朝日岳の肩に、山荘が見え、朝登って行ったパーティーが見えるような気さえした。目を東に転ずると近くに白鷹山、黒森山。空に浮かぶように、蔵王の山々がかすんで見えた。
スマホでも写真を撮ってみた。パノラマ感はこちらの方が出ているかも知れない。あまりの快晴は、きれいな写真にならないことが多い。写真はともかくとして、これほど気持ちよい山行は年に数度しかない。本日の参加者7名。うち女性3名。頂上で360°の展望を楽しみながら、今日大朝日岳に登った人たちの幸運にも話が及んだ。
山中には秋の味覚にも恵まれた。山ブドウが登山道の脇にたわわに実り、全員が山ぶどう酒を作れるほどの量が採れた。キノコでは、マイタケの大株を見つけたOさん。ブナカノカ、スギヒラタケなども見つけられた。
やがてこの山の秋も深まっていく。全山を覆うといっても過言ではないブナ林の黄葉になれば、その輝きは想像を越えている。秋の日和に山気を吸い、また少し力を蓄えられたような気がする。
秋晴れの主峰最も近くあり 荒川 暁浪