白布温泉からロープウェイと3つのリフトを乗り継ぐと、1800mの西吾妻山登山口に着く。連日の猛暑をどう避けるか、こんなのも一つの方法だ。折から米沢市民感謝の日、この高山の往復券が1300円の格安だ。ロープウェイの窓ガラス越しに直射日光が来て、なお暑い。その分、樹林帯の中の日陰と、風通しの良い場所では別天地のような爽やかさだ。一時の涼を求めて、駐車場が狭く感じるほどの多くの人が入山した。
台風は去っても、なお暑さは続いている。地表の気温と、上空に入った寒気のせいか、昨夜から雷の発生が多い。そしてスコールのような激しい雨が最近の特徴だ。しばらく登山から遠ざかっていたため、ごろ石の登山道は老脚に辛い。樹林帯を抜けて最初に広がるのはかもしか展望台。下界の気温より確実に5℃は低い。米沢盆地を見おろしながら、山の仲間たちとの談笑も楽しい。
やがてくぼ地の草原に、木道が続く。花の季節は過ぎたが、草の香りが心地よい。時おり頬をなでる風は、1900mの標高でしか味わえない感触だ。前方に入道雲がわき、黒い雨雲が広がりを見せる。「あの雲が怪しい」ベテランの登山家のつぶやき。一度降られると、激しい大粒のスコールがやってくる。今日は無理をしないで、西吾妻山の頂点を踏まず、梵天岩までとする。まだまだ、青空がひろがっている早い決断であった。
やがて、この決断が正しかったことが分かる。12時の昼飯の後、一気に樹林帯を下る。遠くで響いていた雷鳴が、少しづつ近づいてくる。リフトやロープウエイは雷と強風に弱い。先日、川西町で畑仕事の人が雷に打たれて死んだニュースが流れている。思ったより早い下山であったが、リフトの終着駅には人が溢れている。聞けば雷の接近のため運行を停止しているとのことであった。「30分ほどお待ちください」というアナウンスのあとなかなか再開されない。待つこと1時間、雷は遠ざかりやっと運行が再開される。リフトから見える米沢盆地は、太陽がギラギラと光を放っている。ただ、リフトに乗るとそよ風が冷たく心地いい。下山後は、また猛暑に責められることを考えながらの下山であった。
爽涼と焼岳あらふ雲の渦 水原秋桜子