独標で目の前に広がる笠ヶ岳を見ながら、持ってきたパンとチーズを食べました。
「黒部五郎が見えてるわ
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」
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「あそこのカールにはお花がたくさん咲いていたね」
「双六ではすぐ前を歩いていたおじさんが滑落したよね」
「手当てして、双六小屋に運んだことが忘れられないわ」
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2人とも13~4年くらい前に縦走した山旅に思いを馳せていました
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目指す西穂高岳は、いくつものピークの先にそびえていました。
その奥の、赤茶けたゴジラの背中のようにゴツゴツしたところがジャンダルム・・・
超ベテランしか行けない危険なコースです。
一番奥に「奥穂高岳」も見えていますね
独標から西穂の頂上までのコースタイムは1時間半・・・休憩を入れて、ここまで戻るには3時間必要です。
ガイドブックには「初心者は独標まで、その先は経験者以外立ち入らない事」と書かれていました。
息子が大学生になって、運転免許を取得した最初の夏に「山岳ドライブのテクニックを教えてやる」と主人が言い出し、家族3人で上高地~乗鞍~新穂高と車で来た事があります。
モチロン山の道具も持って・・・
その時にロープウェイを使って西穂山荘に泊まり、翌日この「独標」まで3人で登りました。
あれから私も山にのめり込んで行き、経験者にはなりましたが、体力はあの時の方が確実にありましたね
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そんな事を思い出しながら、気合を入れて出発しました。
いきなり垂直に近い岩の下りです。ヒェ~~
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「三点確保!三点確保!」と心の中で呟きながら手と足を慎重に運びます。
ん?足が届かない
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この足何処に置いたらいいの?
朝一番で登った人たちが大勢降りてきて、私たちが通り過ぎるのを待っています。
あせった瞬間左足が攣りました
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揉んでなでたら治りましたが「頂上まで持つだろうか?」と不安がよぎります。
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岩の間に咲いている可憐な「イワツメグサ」が心を和ませてくれました
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「イワギキョウも咲いているよ」Kさんに声をかけると、彼女も苦しそうな顔をほころばせました。
更に岩の痩せ尾根が続いて、左右の断崖絶壁に用心しながら進みます。
すれ違いの待ち時間が多く、およそ30分で「ピラミッド・ピーク」に到着しました。
息を呑む大展望が広がっていました。
西穂の頂上が大分近づいてきましたが、まだまだ幾つかのピークを越えなければなりません。
ここでKさんが「帰りの事も考えると、今日の私の体力では頂上は無理だわ」と言い出しました。
いつもと違って、今回スポーツドリンクをがぶ飲みしている彼女がちょっと気になっていました。
「小屋まで下るには頂上から2時間かかるものね。体力残しておかなければならないし、たとえヘ登れても帰りがきついね」と私も同意しました。
こういう所は実にあっさりと決まる私たちです。
遠慮して言い出さずにバテてしまったら、かえって皆に迷惑をかけることを充分に知っているからです。
「山岳保険に入ってるからタダだとしても、ヘリコプター騒ぎは恥ずかしいもんね」と2人で苦笑しました。
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諦めた西穂の右には奥穂~前穂~明神と続く山並みが、頑強な壁のように見えていました。
そしてそのまま真下を覗くと、梓川が蛇行しているのが判ります。
真ん中の屋根がたくさん見えている所が上高地の「カッパ橋」、右側の赤い屋根が帝国ホテルです。
反対側は裏銀座コースの山々も見えてきましたが「この先のピークに上がったら、もっとたくさんの山々が望めるかも・・・」と期待してしまいます。
西穂から下ってきた若い男性に聞いてみました。
「あの一段高い所まで行くと立山が見えますよ」との返事
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「行ってみよう
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」
ザックを置いて、空身で進みました。
クサリ場が続いて、四つんばになって次のピークまできました。
「立山が見えている~
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、もう満足だわ」
「昔歩いた裏銀座コースも、立山から延々2回に分けて縦走したダイヤモンドコースも眺められたんだからサイコー
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」
しばし眺望を堪能してから回れ右しました。
そんな私たちを見て、若い男の方が「あと40分で頂上だよ。目の前にジャンダルムと奥穂がドカンとそびえているから頑張れば」と励ましてくれたけど、この辺で引き返さないと帰りの体力が心配です
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「いいの
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奥穂は涸沢から登っているし、その時ジャンダルムも見ているし」と、負け惜しみ気味に答えてサヨナラしました
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最後に頂上をバックにKさんを写しましたが、確かに西穂は目の前なんですがね。
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帰り道、反対側から写した「ピラミット・ピーク」です。
こんな痩せ尾根とガレ場、そしてクサリ場と続く「西穂高岳」
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もっと筋力UPしてからでないと無理でした。
ロープウェイで登る「楽チン登山」と侮っていた私たち、反省です