ジューンベリーに忘れ物

シンボルツリーはジューンベリー
どこかに沢山の忘れ物をしてきた気がして

私『楽書きの会』同人 (7)

2023-09-16 10:53:43 | 思い
 義母の3回忌が旭川である。
そのため「ご仏前に地元の銘菓を」と、
菓子店へ行った。

 私と家内の顔を覚えている店員さんが応対してくれた。
買い求める品が決まり、包装と支払いを家内に任せ、
私は駐車した車で待つことに・・。

 その後は、家内から聞いたことだが、
店員さんと家内の会話を再現する。

 「ご法事用ですね。お名前をお書きしますか?」
「お願います。塚原です」
 「下の名前もお書きしましょうか?」
「それじゃ、塚原渉でお願いします」
 「エッ! あの・・! 時々室蘭民報に書いている!?」
「はい・・」
 「息子と同じ字の渉なので覚えています。
毎回、載るのを楽しみにして読んでます」
 「そうでしたか。ありがとうございます」
「びっくりしました。ご主人があの塚原さんですか!
嬉しいです。
 次も楽しみにしていますと、お伝え下さい」。

 以来、私は1度もその菓子店へは行ってない。
その店員さんと顔を合わせることに、照れている。

 さて、4月以降に地元紙に載ったエッセイ2つと、
頂いた友人からの感想(【◎・・】)を記す。

 
  *     *     *     *

 =2023年5月6日に掲載された=

     あの口演童話が

 今のように本が普及していなかった時代、
童話は大人が子どもへ語り聞かすものでした。
 確かに私も母から色々なお話を聞きました。
これが『口演童話』の原点だと言います。

 団塊世代の私にとって、
全校児童が千人を超えていた室蘭の小学校での記憶は
実に曖昧です。
 しかし、あの1コマだけは今も鮮明に思い出すことができます。

 5年生のときです。
高学年だけが体育館に集められました。
 そこで東京から来たという偉い先生の紹介がありました。
その先生は『コーエンドーワ』をなさる有名な方だと、
校長先生はおっしゃいました。
 「東京の有名な先生!」。
それだけで私は緊張し、
椅子の前半分に腰を掛け背筋をすっと伸ばして、
お話を聞きました。

 若干小太りの先生は、
ゆっくりと舞台に立ち演壇の前で話し始めました。
 時に静まり時に大笑いをしながら、
私たちはお話に夢中になりました。
 私は、その話の中に出てきた一節を、
それから先ずっと忘れることなく、今に至っています。

 『坊やは、いつもお母さんの昔話を聞きながら眠りに着きました。
でも、時々お父さんが坊やを寝かせます。
 お父さんは昔話などしません。
坊やが何かお話してとねだると、
消防士のお父さんは、いつも同じことを言いました。
 それは“人間、世のため人のために働くこと、
それでおしまい。寝なさい寝なさい”でした』。

  “人間、世のため人のために働くこと”。
この言葉は、私の心を強く捉えて離しませんでした。
 当時、小さな魚屋をしていた我が家でしたが、
毎日、朝早くから夕暮れまで忙しく働く両親と兄を見て、
美味しい魚を売るのもそのためなんだと納得しました。
 そして「大人になったら僕もそんな仕事をする!」と
そっと自分に誓ったのでした。


 【 ◎エッセイをなるほどなあと思いながら、
読ませていただきました。
 塚原さんの家族の姿が、
朝暗い時間から夜遅くまで働いていた私の両親と重なりました。
 でもその姿を見ていて、
百姓にだけはなるまいと思っていた当時の自分を、
今更ながら恥ずかしく思いました。】


  *     *     *     *

 =2023年8月19日に掲載された=

     初めてのグルメ
     
 子供の頃、貧しかった。
でも、年に1回だけ父は兄弟4人を連れ、
とびっきりの贅沢をした。
 母は着物姿、父はその日だけネクタイを締め、
コードバンだと自慢する革靴を履いた。
 私たちも一番いい服で高級料理を食べに行った。
それは長年我が家の年中行事だったらしいが、
私の記憶は小学3年のその日が最初だった。

 市内中心街にあったレストランへ入った。
黒服に蝶ネクタイの男性が、店の個室に案内してくれた。
 真っ白な布の大きなテーブル席に、父から順に座った。
最後は私だった。
 母の隣の椅子を引き、その男性は笑顔で私に言った。
「お坊ちゃん、どうぞこちらへ」。
 椅子に座りながら顔が熱くなった。
頬が赤くなりうつむいて顔を隠した。

 「今日は、洋食のフルコースだ」。
父の落ち着いた声がした。
 ドキドキが続いていた。
テーブルに、いくつものフォークとナイフが並んだ。
 「料理が次々とでるけど、慌てないで食べなさい」。
父はそんな説明をしていたようだが、
私は『お坊ちゃん』が耳から離れず、
緊張の頂点のままだった。
 スープがきた。
みんなのまねをして何とか飲んだ。
 次は、肉だか魚だか、平皿にのった料理だった。
初めてフォークとナイフを使う。

 私は、どれを使うのかどう握るのか、
誰かに教えてもらいたかった。
 料理を運んできたあの男性もいなくなった。
家族だけの個室だ。
 遠慮なく訊けばいい。
なのに、ここでは『僕はお坊ちゃん』なのだ。

 私は勇気を出した。
母の耳元に小声で、
「ねぇ、お母さん!どのフォークとナイフ、使うの?」。
 母は、すぐに察してくれた。
誰にも気づかれないよう、小声で「母さんでいいの」。
 すっと心が静かになった。
大きな涙がボトッと落ちた。
 その後、涙をこらえ洋食のフルコースを食べ終えたようだが、
記憶は定かでない。
 だが、人生で1回だけ母を「お母さん」と呼んだ。
初めてのグルメのささやかな告白である。


 【◎わぁ素敵! 
どうしてこんなエッセイを生み出せるの?
 ぐっとくるね。
また、よく記憶しているね。
 涙がでるほどの出来事だから、
心の底にそっとしまってあったのですね。
 それをこの紙面の中に表現する力は、恐れ入ります。
心が温まってきました。】




     イタドリ 花盛り

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 店員さん あれこれ | トップ | DATE 語 録 (4) »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

思い」カテゴリの最新記事