ジューンベリーに忘れ物

シンボルツリーはジューンベリー
どこかに沢山の忘れ物をしてきた気がして

『北の国から』 あのシーン ②

2016-11-24 17:23:01 | 北の大地
 6月、よく通る散歩道の脇で、
じゃが芋の白い花が咲いていた。
 足を止め、カメラを向けた。
花の形と色のきれいさに、一瞬息をのんだ。

 そして、同じ花が、『北の国から』のオープニングで、
さだまさしのあの曲と一緒に映し出されていたことに気づいた。

 北の大地の小さな美しさが、
私に澄んだ心を思い出させた。
 じゃが芋の花とドラマのワンカットからのメッセージだと思う。
いつまでも、心に留めておきたい。

 さて、前回の続きである。
ドラマ『北の国から』の、生き続けている場面を綴る。


 ④ 五郎の 一喝

 1984年9月27日に放映された『‘84夏』では、
この年の冬、純たちの住む丸太小屋が、
全焼するという大事件があった。

 その出火原因は、純と正吉にあった。

 五郎が出稼ぎから帰ってくる日のことだ。
純と正吉はスキーで遊びすぎ、
草太との約束の時間に遅れてしまった。
 2人は濡れた衣類をストーブの上に無造作に放り投げ、
バス停に走った。

 その夜、純は火事の火元がストーブらしいと聞いた。
翌日、2人は交番で事情聴取を受けた。

 純は、何を訊かれても覚えていないと言った。
ところが、正吉は自分がやったと言い出し、
村の人たちも、火を出したのは、正吉だと話題にした。

 そして、夏休み。
東京から、遠縁で同年代の努が富良野に、遊びに来た。
 彼は、パソコンを持ってきた。
純は、そのパソコン雑誌に興味があった。

 祭りの後、努がいる中畑の家に寄った。
そこに、あのパソコン雑誌があった。
 見たくてたまらなかった。
でも、努に頭を下げるのが嫌で、純は見栄を張った。
 そして、正吉と2人、中畑の家を後にした。

 ところが、正吉は「純がほしそうにしていたから」
と、その雑誌を持ち出していた。
 家に帰り、純はそんな気持ちはなかったと正吉に言う。
すると、正吉は、
「やっぱり、お前は汚ねえ奴だな。」と。

 純の心に、ぐさっと突き刺さった。
火事のことを思い出した。

 さらに、こんなことが……。

 雪子が東京に帰る日だ。
見送るのがいやだった純と正吉は、
努を誘って、空知川へ行った。

 草太のいかだで川に出た。
途中で、努が竿を流してしまい、3人とも川に落ちてしまう。
 溺れそうになった努を、2人で川岸まで引き上げた。

 ところが、努にパソコン雑誌を盗んだことを言われ、
2人は努を残して帰ってしまう。 
 途中で、純から「泥棒したのはお前だ。」
と、言われた正吉は、
持ってきた努のズボンを、川へ投げ捨ててしまう。
 そして、「相変わらず、お前は汚ねえ野郎だな。」と。

 その日の夜遅く、純は五郎に呼ばれ、尋ねられる。
純は、努のズボンのこと、パソコン雑誌のこと、
草太のいかだのこと、どれも正吉だと答えた。
 そしてその時、
明日、正吉を引き取る人が来ると知らさせる。

 ここまで、長々と『‘84夏』の、
あらすじの粗々を綴ってきた。
 それは、翌日の夜、
正吉が母・みどりと一緒に列車で富良野を去り、
その後の、五郎と純、蛍の3人が、閑散とした食堂で、
ラーメンを食べるシーンのためである。

 純は、ラーメンをすすりながら、
努のズボンのこと、パソコン雑誌のこと、
草太のいかだのことを、正直に五郎に話した。
 そして、あの丸太小屋の火事も、正吉ではなく、
ストーブに服を置いたのは自分だと、打ち明けた。

 その時なのだ。
食堂の女店員が、まだ残っているラーメンの器を、
下げようとした。

 五郎は、突如、その女店員にむかって怒鳴るのだ。
「子供が、まだ食っている途中でしょうが!」

 デリカシーの欠片すらない女店員に対する五郎の一喝。
今も、その声が蘇ってきそうだ。

 子どもに限らず、誰にでも潜んでいる、
ずるさ、卑怯さ、責任を回避したり転化したりする醜さ等々。
 
 純はそれらを乗り越え、意を決して五郎に本当を話した。
その想いを精一杯受け止めた証が、
五郎の「…まだ食っている…」の叫びだと、
私は理解した。

 あの頃、子育ての真っ最中だった。
教師としても同様、随分と応えたシーンだった。


 ⑤ 泥のついた1万円札

 1987年3月27日放映の『‘87初恋』では、
純が中学3年生になっていた。
 春、卒業を迎え、
富良野を後にするまでのドラマである。

 題名の通り、同じ年齢の大里れいに惹かれる。
初恋である。
 畑仕事等、大人たちの様々な喧噪をよそに、
純とれいは、淡い時間を過ごす。

 そんなある日、
れいは、
「中学を卒業したら、東京に出て、
働きながら定時制高校へ通うつもりだ。」
と話す。

 その夜、純は東京にいる雪子へ、
東京に行きたいと手紙を書いたりする。

 そんな純の想いは、やがて蛍や草太などに伝わる。
五郎がそれを知ったのは、みんなより一番遅れてであった。
 それもあって、親子の言い争いとなる。

 一方、れいは、事故で母を亡くすなどの不運に見舞われた。
そして、純と逢う約束していたクリスマスの日に、
突然富良野を出て行ってしまう。

 その日、約束の場所に行くと、れいからのクリスマスカードと、
尾崎豊のテープとカセットがあった。
 落胆する純。

 そこに蛍が現れる。
そして、卒業式が終わったら、
東京に発つようになっていると伝える。
 その時、「もう遅い。」と純は言ってしまう。
 
 珍しく蛍が、兄に向き合う。
「言い出したのはお兄ちゃんじゃない。
だから父さん、あんなに無理して…。
 東京へ行きたかったのは、れいちゃんと一緒だから?!
…学校のことじゃなく、れいちゃんといたかったから?!
…そんなこと今ころ言い出すの、よして!」

 憤慨する蛍に、私まで何も言い返せなくなった。

 そして、「疲れたら、息が詰まったら、いつでも帰っておいで」
そんな五郎から励ましを受け、
純は、卒業式を終え、富良野を後にすることになる。 

 動機はどうであれ、様々な人々との関わりを通して、
人は背中を押され、新たな道へ踏み出す。

 純は、五郎が手配した東京までの、
定期便トラックの助手席に乗った。
 五郎と蛍が見送ってくれた。

 トラックが動き出すと、運転手に頭を下げ、
早々にれいちゃんからのカセットを聴きだす。
 尾崎豊の『I Lave You』が流れる。

 すると、運転手がそのイヤホンを外す。
そして、五郎が運転手に渡した封筒を、
受け取るように言う。

 その封筒には、1万円札が2枚入っていた。
「泥のついたピン札など受け取らない。宝に。」
と、ぶっきらぼうに言う運転手。

 ドラマは、そのトラックが、
空知川にかかる橋を渡るシーンで終わるが、
純は、泥のついた1万円札と共に、
富良野での日々を回想する。

 あの泥のついた1万円札だが、
私は、五郎の人柄と暮らし、そのものだと思った。
 ひたむきで控えめな五郎の、
真っすぐにわが子を思う気持ちに、涙があふれた。

 そこに、純が聴く尾崎豊の『I Love You』が流れる。
再び、涙がこみ上げてきた。

 なぜが、私の心が洗われていた。




 今年も 白鳥が飛来! 伊達で越冬する 

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 『北の国から』 あのシーン ① | トップ | 『北の国から』 あのシーン ③ »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

北の大地」カテゴリの最新記事