12 走りながら
伊達での6度目の冬も、もう少しだ。
例年になく、ずっと体調が優れない。
風邪の症状が抜けないまま、
数日おきには市販の風邪薬に手が伸びる。
とうとう2日前から寝たりおきたりしている。
春よ、早く来い!!
そんな心境である。
それにしても、
この冬の伊達は過去5回とは少し違う。
正月元日は、1日中雨が降り続いた。
すっかり雪がなくなってしまった。
このまま暖かい冬かと思っていたら、
そこから冬本番が来た。
いつになく寒い日が続き、
最低気温が氷点下16度の日もあった。
積雪量も多く、当然、雪かきの回数も増えた。
そんな訳で、私のジョギングもすっかりペースが狂った。
1月10日過ぎからは、外を走る機会がない。
もっぱらトレーニング室のランニングマシンか、
市立体育館の2階ランニングコースである。
こんな寒い時期に、ジョギングで出逢った人を記す。
(1) 素振りする少年
10キロをジョギングするため、
市内に4つ程コースを決めている。
アップダウンの少ない走りやすいコース、その反対、
そして見晴らしのいい道が続く所など、私なりに吟味した。
その中で、一番きつい坂道があるコースを走った。
ようやくその坂を登り切り、
平坦な道を5分程行くと、T字路にぶつかる。
やっと呼吸が整い、
そこを左に折れると、今度は緩い下り坂になる。
その坂の右手には、新しい住宅がいくつか建ち並んている。
少年がその自宅前で、
バットを素振りしているのを見たのは、
一昨年の夏の頃だったように思う。
同じ中学生と思われる3,4人で、
何やら話をしながらの素振りだった。
当然、私はその少年らに挨拶をした。
「おはよう・・ございます。」
少年らは、私の声に少し驚き、
それでもめいめいが、挨拶を返してくれた。
それから何度か、そのコースを走った。
でも、時間が合わなかったのか、
素振りする少年らを見ることはなかった。
ところが、秋も深まった頃だ。
自宅前で、1人素振りする少年を見た。
特別な想いもなく、私から挨拶をした。
素振りを止め、彼は頭を下げて挨拶を返してくれた。
それが2度目の挨拶だった。
そして、昨年の春先のことだ。
雪融けがすすんだ。
私は、上り坂がきつい伊達ハーフマラソンを想定して、
少年が素振りしていたあのコースを選んで走った。
ところが、所々、圧雪した氷がとけずに残っていた。
ようやくあのきつい坂道、氷をさけながら上りきった。
やっと息を整え、T字路を左に折れた。
予想外だった。一面つるつる氷の下り坂だった。
私は、滑りそうな道で足元だけを見ながら、
ゆっくりゆっくり走った。
すべってころぶことを避けようと、
そのことだけに集中していた。
その時、「おはようございます」。
明るい声がとんできた。
驚いて、顔を上げると、
少年が、素振りのバットを構えたまま、
私を見ていた。
何故か、急に嬉しくなった。
私は思わず言ってしまった。
「ありがとう。」
気持ちが通じたのだろうか。
「気をつけてください。」
元気な声が返ってきた。
ここでも思わず、右手を挙げた。
それから何回か、素振りとジョギングで挨拶を交わした。
いつも彼は、素振りを止めて、私を見た。
私は、明るい気持ちで駆け抜けた。
後もう少しだ。
早く、あのコースを走りたい。
(2)みかんじゃないよ ポンカン!
雪道は無理だけど、「時には一緒に走ろうよ」と、
家内を誘い、体育館のランニングコースに行った。
午前中に比べ、
ウオーキングやランニングをする人が少ない。
早々に準備体操を済ませ、
家内のペースに合わせ走り始めた。
1周200メートルの周回コースを25周、
5キロを走り切ることを目標にした。
時には並走、そして家内を前に縦走したりをくり返した。
5周ほどした時だったろうか。
前を歩く男性が、笑顔で振り返った。
「いやぁ、頑張るね。すごいね。頑張って。」
初めて見る顔だった。
「ありがとうございます。」
笑顔を作りながら、追い越した。
「知ってる人?」
走りながら、家内に訊いた。
「全然!」
それでも、その励ましは嬉しかった。
今までにも何度か経験があった。
また一人、挨拶も自己紹介もなく、
突然フレンドリーに接してくれる伊達の人であった。
それから2,3周した時だ。
声をかけてくれた男性が、帰り支度を終え、
コース横で、走り続ける私たちを待っていた。
「ほら、これ美味しいから。」
ビニール袋に沢山のみかんが入っていた。
走るのを止めて、その袋を手にした。
「みかんじゃないよ。ポンカン。」
「エッ、頂いていいんですか。」
「後で2人で、食べな。」
「すみません。ご馳走さま。」
見た感じ、私より若干年上のように思えた。
「じゃ、俺はお先に。」
ニコッとした笑顔が、人懐っこかった。
帰宅してから、頂いたポンカンの皮をむきながら、
「面白い人が、いるもんだ。」
「それにしても、どうしてくれたのかな?」
そう言いながら、柑橘系が得意ではない私なのに、
2コ3コと手を伸びた。
それから、10日ほどが過ぎた。
再び、家内と二人、午後のランニングコースに出向いた。
すると、帰り支度をするあの男性がいた。
人懐っこい顔で私を見た。
「どうだった。ポンカン?」
「あっ、先日はご馳走さま。美味しかったです。」
家内とそろって、頭を下げた。
そこから、「伊達のハーフを走るのかい。」
「洞爺湖のフルも走るのかい。」
「今まで、何回大会に出たの。」
そして、「あまり見ない顔だけど伊達の人?」
などなど、質問攻めに遭った。
負けずに、私も尋ねた。
するとこんな答えが返ってきた。
「昔は、ハーフを1時間30分台で走った。」
「大会で、10キロで4位に入賞したことも・・。」
「今年は、洞爺湖の10キロにエントリーした。」
私は、その戦績と勢いに押され、遠慮がちに言った。
「私も、75までは頑張って走ろうと思っています。」
すると、すかざず、
「なに言ってるの。もっと頑張れるよ。」
ビックリ顔の私に、彼は続けた。
「俺は、昭和14年生まれだ。79歳だよ。
それでも、走るよ。」
続けてこうも言う。
「あんたと同じで、退職後のランナーだよ。
まだまだだよ。なあ。」
ポンカンを頂いた時より、ポッカーとなった。
こんな凄い人が身近にいた。
どこまで追いつけるだろう。
さて、さて、またまた一つ目指すものが増えた。
春を待つ 『有珠善光寺』
伊達での6度目の冬も、もう少しだ。
例年になく、ずっと体調が優れない。
風邪の症状が抜けないまま、
数日おきには市販の風邪薬に手が伸びる。
とうとう2日前から寝たりおきたりしている。
春よ、早く来い!!
そんな心境である。
それにしても、
この冬の伊達は過去5回とは少し違う。
正月元日は、1日中雨が降り続いた。
すっかり雪がなくなってしまった。
このまま暖かい冬かと思っていたら、
そこから冬本番が来た。
いつになく寒い日が続き、
最低気温が氷点下16度の日もあった。
積雪量も多く、当然、雪かきの回数も増えた。
そんな訳で、私のジョギングもすっかりペースが狂った。
1月10日過ぎからは、外を走る機会がない。
もっぱらトレーニング室のランニングマシンか、
市立体育館の2階ランニングコースである。
こんな寒い時期に、ジョギングで出逢った人を記す。
(1) 素振りする少年
10キロをジョギングするため、
市内に4つ程コースを決めている。
アップダウンの少ない走りやすいコース、その反対、
そして見晴らしのいい道が続く所など、私なりに吟味した。
その中で、一番きつい坂道があるコースを走った。
ようやくその坂を登り切り、
平坦な道を5分程行くと、T字路にぶつかる。
やっと呼吸が整い、
そこを左に折れると、今度は緩い下り坂になる。
その坂の右手には、新しい住宅がいくつか建ち並んている。
少年がその自宅前で、
バットを素振りしているのを見たのは、
一昨年の夏の頃だったように思う。
同じ中学生と思われる3,4人で、
何やら話をしながらの素振りだった。
当然、私はその少年らに挨拶をした。
「おはよう・・ございます。」
少年らは、私の声に少し驚き、
それでもめいめいが、挨拶を返してくれた。
それから何度か、そのコースを走った。
でも、時間が合わなかったのか、
素振りする少年らを見ることはなかった。
ところが、秋も深まった頃だ。
自宅前で、1人素振りする少年を見た。
特別な想いもなく、私から挨拶をした。
素振りを止め、彼は頭を下げて挨拶を返してくれた。
それが2度目の挨拶だった。
そして、昨年の春先のことだ。
雪融けがすすんだ。
私は、上り坂がきつい伊達ハーフマラソンを想定して、
少年が素振りしていたあのコースを選んで走った。
ところが、所々、圧雪した氷がとけずに残っていた。
ようやくあのきつい坂道、氷をさけながら上りきった。
やっと息を整え、T字路を左に折れた。
予想外だった。一面つるつる氷の下り坂だった。
私は、滑りそうな道で足元だけを見ながら、
ゆっくりゆっくり走った。
すべってころぶことを避けようと、
そのことだけに集中していた。
その時、「おはようございます」。
明るい声がとんできた。
驚いて、顔を上げると、
少年が、素振りのバットを構えたまま、
私を見ていた。
何故か、急に嬉しくなった。
私は思わず言ってしまった。
「ありがとう。」
気持ちが通じたのだろうか。
「気をつけてください。」
元気な声が返ってきた。
ここでも思わず、右手を挙げた。
それから何回か、素振りとジョギングで挨拶を交わした。
いつも彼は、素振りを止めて、私を見た。
私は、明るい気持ちで駆け抜けた。
後もう少しだ。
早く、あのコースを走りたい。
(2)みかんじゃないよ ポンカン!
雪道は無理だけど、「時には一緒に走ろうよ」と、
家内を誘い、体育館のランニングコースに行った。
午前中に比べ、
ウオーキングやランニングをする人が少ない。
早々に準備体操を済ませ、
家内のペースに合わせ走り始めた。
1周200メートルの周回コースを25周、
5キロを走り切ることを目標にした。
時には並走、そして家内を前に縦走したりをくり返した。
5周ほどした時だったろうか。
前を歩く男性が、笑顔で振り返った。
「いやぁ、頑張るね。すごいね。頑張って。」
初めて見る顔だった。
「ありがとうございます。」
笑顔を作りながら、追い越した。
「知ってる人?」
走りながら、家内に訊いた。
「全然!」
それでも、その励ましは嬉しかった。
今までにも何度か経験があった。
また一人、挨拶も自己紹介もなく、
突然フレンドリーに接してくれる伊達の人であった。
それから2,3周した時だ。
声をかけてくれた男性が、帰り支度を終え、
コース横で、走り続ける私たちを待っていた。
「ほら、これ美味しいから。」
ビニール袋に沢山のみかんが入っていた。
走るのを止めて、その袋を手にした。
「みかんじゃないよ。ポンカン。」
「エッ、頂いていいんですか。」
「後で2人で、食べな。」
「すみません。ご馳走さま。」
見た感じ、私より若干年上のように思えた。
「じゃ、俺はお先に。」
ニコッとした笑顔が、人懐っこかった。
帰宅してから、頂いたポンカンの皮をむきながら、
「面白い人が、いるもんだ。」
「それにしても、どうしてくれたのかな?」
そう言いながら、柑橘系が得意ではない私なのに、
2コ3コと手を伸びた。
それから、10日ほどが過ぎた。
再び、家内と二人、午後のランニングコースに出向いた。
すると、帰り支度をするあの男性がいた。
人懐っこい顔で私を見た。
「どうだった。ポンカン?」
「あっ、先日はご馳走さま。美味しかったです。」
家内とそろって、頭を下げた。
そこから、「伊達のハーフを走るのかい。」
「洞爺湖のフルも走るのかい。」
「今まで、何回大会に出たの。」
そして、「あまり見ない顔だけど伊達の人?」
などなど、質問攻めに遭った。
負けずに、私も尋ねた。
するとこんな答えが返ってきた。
「昔は、ハーフを1時間30分台で走った。」
「大会で、10キロで4位に入賞したことも・・。」
「今年は、洞爺湖の10キロにエントリーした。」
私は、その戦績と勢いに押され、遠慮がちに言った。
「私も、75までは頑張って走ろうと思っています。」
すると、すかざず、
「なに言ってるの。もっと頑張れるよ。」
ビックリ顔の私に、彼は続けた。
「俺は、昭和14年生まれだ。79歳だよ。
それでも、走るよ。」
続けてこうも言う。
「あんたと同じで、退職後のランナーだよ。
まだまだだよ。なあ。」
ポンカンを頂いた時より、ポッカーとなった。
こんな凄い人が身近にいた。
どこまで追いつけるだろう。
さて、さて、またまた一つ目指すものが増えた。
春を待つ 『有珠善光寺』
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