① 元日と2日は、昨年同様兄と一緒に自宅で過ごした。
その切っ掛けは、2つある。
1つは、義姉が高齢者施設へ入所し、
兄が1人で正月を過ごすことになったこと。
もう1つは、姉が勤める温泉旅館が、
高級おせちを販売している。
その3人用3段重で高価なものを、
姉がプレゼントしてくれたこと。
だから、3人でそのおせちを囲みながら、
正月の2日間を過ごそうというのだ。
大晦日、兄の飲食店は、
年越し用のお刺身セットやオートブルの予約販売で、
終日大忙しだった。
なので、元日は午後に兄を迎えに行った。
そして、お茶とお菓子、みかんなどを前に、
テレビを見ながらくつろいでいた時、
2度の『緊急地震速報』があった。
元日早々の悲惨な映像に唖然とした。
きっと甚大な被害があっただろうと思いつつ、
次の大津波警報に怯えた。
新年を迎えた日の惨状である。
自然災害の非情さが骨の随まで浸みた。
そして、人間の非力さを改めて痛感させられた。
「新年祝いの膳どころじゃないなあ」
と言いながらだが、
頂いた高級おせちを食べない訳にはいかなかった。
テレビからくり返される倒壊家屋の映像や、
津波情報を気にしながら、ビールとお茶で、
並んだ一の重、二の重、三の重に箸を向けた。
特別な料理だけに、昨年の味は忘れてなかった。
それに比べ、今年のは昨年以上に格段の美味しさだった。
兄も家内も、同じ感想だった。
高級旅館のおごらない謙虚な努力に脱帽した。
そして、そんな味を姉に伝えようと、
電話をすることに。
姉は40日前に、娘が勤務する首都圏の病院で、
9時間に及ぶ大手術をした。
経過は順調で、退院後は娘のマンションで療養していた。
てっきり正月はそこに居るものと思っていた。
ところが電話に出た姉は、関西にいた。
息子のところで年越しをしたと言う。
全く予想していなかった。
「調子いいよ。
大丈夫、娘も息子も看護師だから・・。
心配いらないの」
そして、姉は、
「私はいい子どもに恵まれて幸せだわ」
と、元気に言った。
さほど無茶をしている訳でもないと分り、安堵した。
それにしても、その回復力には驚かされた。
「私、ずっと旅館で働いていたから、
年齢以上に体力があったみたい」
驚きのあまり、おせち料理の美味しさを
伝え損なうところだった。
午前中、伊達神社へ初詣に行った。
隣で若い2人がおみくじを引いていた。
凶と大吉だった。
私の元旦の心もようも同じ・・・。
② 現職の頃、朝は和食が多かった。
しかし、今は生野菜とトースト、それに卵料理などである。
だから、トースターは朝の必需品だ。
2年前になる。
長年愛用していたトースターが、
スイッチを入れても作動しなくなった。
修理より新しい物にしようと家電量販店へ行った。
パンを焼くことと、
時々餅を焼くことだけの家電である。
20種程が並んでいる中に、
特価セールになっていたものがあった。
機能など吟味もせずにメーカー品だったので、それを購入した。
パンを焼くのは私の担当である。
翌朝から、新しいトースターを使った。
快適だったのは 、1ヶ月程だった。
1度に2枚を焼くのだが、
左右で焼け方が違うようになった。
「やはり特価品だったか」と思いながらも使い続けた。
ところが、3ヶ月目で片側のパンが全く焼けなくなった。
特価でも1年保証がついていた。
早速、修理に出した。
1ヶ月前だが、そのトースターが再び故障した。
今度は、網が外れてパンが載せられないのだ。
修理保証は終わっていた。
その上、相変わらず左右の焼きは均等ではなくなっていた。
思い切って、再び新しい物を購入することにした。
2年ぶりに同じ量販店のトースター売り場へ行った。
同じような顔ぶれのトースターが並んでいた。
今度はしっかりと吟味して購入しようと決めた。
価格も多様だが、各機種セールの言葉も多彩だった。
パンと餅を焼くだけなのに、どれがいいか迷った。
そこで、この売り場担当の店員さんを呼んだ。
店員さんは、それぞれの特徴を要約し、親身に教えてくれた。
でも、私にはどれが最適か決められなかった。
まして、2年しかもたないトースターを選び、失敗していた。
そこで、決断した。
店員さんのキャリアに頼った。
私は訊いた。
「もし、貴方が買い換えるとしたら、どれにします?」
そんな問いかけは珍しかったようで、
彼は一瞬驚いた顔をした。
しばらく並んでいた棚を見渡し、
「高価な方ですが、最近発売になったこれですね。
私ならこれにします」
「これが1番いいですか」
念を押した。
「いえ、もっと性能のいいものはあります。
1番いいのなら・・」
彼は、慌てて他を勧めようとした。
「いや、貴方が1番買いたいと思うのはこれですよね」
彼は、真顔で「ハイ」と答えた。
あれから、あの店員さんが指名したトースターで、
毎朝パンを焼いている。
同じパンなのに、美味しさの違いに驚いている。
その道に精通した人の確かさは、
兄の魚の目利きでよく知ってはいた。
どうやらそれは、兄だけではないと思った。
そして、再び同様のことを実感する場面があった。
大晦日のことだ。
数日前に、私が選んだしめ縄飾りを玄関外に提げた。
イメージしていたのとは違い、貧相だった。
がっかりした。
お正月を飾る玄関である。
どうにかして素敵な感じに挽回したかった。
そこで、当地で一軒だけの生花店へ急いだ。
玄関内に正月らしいアレンジフラワーを置こうと、
思いついたのだ。
それでイメチェンを図ろうとした。
案の定、店内にはそれらしいアレンジメントが、
手頃な価格でいくつも並んでいた。
純和風と洋風があった。
どちらも、どれも、お正月の玄関に相応しかった。
決めかねた。
今年はしめ縄飾りで失敗していた。
それもあって、
迷った。
そこで店員さんに訊いた。
「あなたなら、ご自宅でどれを飾りますか」
彼女は、一瞬驚きの表情を見せた。
少し間を置いてから、
「私なら、これでしょうか」
彼女が指し示したのは、私なら選びそうにない、
薄い色合いの洋ランがメインのものだった。
他のものとはひと味趣が違った。
その素敵さに納得した。
洞爺湖畔 静かな時間 冬
その切っ掛けは、2つある。
1つは、義姉が高齢者施設へ入所し、
兄が1人で正月を過ごすことになったこと。
もう1つは、姉が勤める温泉旅館が、
高級おせちを販売している。
その3人用3段重で高価なものを、
姉がプレゼントしてくれたこと。
だから、3人でそのおせちを囲みながら、
正月の2日間を過ごそうというのだ。
大晦日、兄の飲食店は、
年越し用のお刺身セットやオートブルの予約販売で、
終日大忙しだった。
なので、元日は午後に兄を迎えに行った。
そして、お茶とお菓子、みかんなどを前に、
テレビを見ながらくつろいでいた時、
2度の『緊急地震速報』があった。
元日早々の悲惨な映像に唖然とした。
きっと甚大な被害があっただろうと思いつつ、
次の大津波警報に怯えた。
新年を迎えた日の惨状である。
自然災害の非情さが骨の随まで浸みた。
そして、人間の非力さを改めて痛感させられた。
「新年祝いの膳どころじゃないなあ」
と言いながらだが、
頂いた高級おせちを食べない訳にはいかなかった。
テレビからくり返される倒壊家屋の映像や、
津波情報を気にしながら、ビールとお茶で、
並んだ一の重、二の重、三の重に箸を向けた。
特別な料理だけに、昨年の味は忘れてなかった。
それに比べ、今年のは昨年以上に格段の美味しさだった。
兄も家内も、同じ感想だった。
高級旅館のおごらない謙虚な努力に脱帽した。
そして、そんな味を姉に伝えようと、
電話をすることに。
姉は40日前に、娘が勤務する首都圏の病院で、
9時間に及ぶ大手術をした。
経過は順調で、退院後は娘のマンションで療養していた。
てっきり正月はそこに居るものと思っていた。
ところが電話に出た姉は、関西にいた。
息子のところで年越しをしたと言う。
全く予想していなかった。
「調子いいよ。
大丈夫、娘も息子も看護師だから・・。
心配いらないの」
そして、姉は、
「私はいい子どもに恵まれて幸せだわ」
と、元気に言った。
さほど無茶をしている訳でもないと分り、安堵した。
それにしても、その回復力には驚かされた。
「私、ずっと旅館で働いていたから、
年齢以上に体力があったみたい」
驚きのあまり、おせち料理の美味しさを
伝え損なうところだった。
午前中、伊達神社へ初詣に行った。
隣で若い2人がおみくじを引いていた。
凶と大吉だった。
私の元旦の心もようも同じ・・・。
② 現職の頃、朝は和食が多かった。
しかし、今は生野菜とトースト、それに卵料理などである。
だから、トースターは朝の必需品だ。
2年前になる。
長年愛用していたトースターが、
スイッチを入れても作動しなくなった。
修理より新しい物にしようと家電量販店へ行った。
パンを焼くことと、
時々餅を焼くことだけの家電である。
20種程が並んでいる中に、
特価セールになっていたものがあった。
機能など吟味もせずにメーカー品だったので、それを購入した。
パンを焼くのは私の担当である。
翌朝から、新しいトースターを使った。
快適だったのは 、1ヶ月程だった。
1度に2枚を焼くのだが、
左右で焼け方が違うようになった。
「やはり特価品だったか」と思いながらも使い続けた。
ところが、3ヶ月目で片側のパンが全く焼けなくなった。
特価でも1年保証がついていた。
早速、修理に出した。
1ヶ月前だが、そのトースターが再び故障した。
今度は、網が外れてパンが載せられないのだ。
修理保証は終わっていた。
その上、相変わらず左右の焼きは均等ではなくなっていた。
思い切って、再び新しい物を購入することにした。
2年ぶりに同じ量販店のトースター売り場へ行った。
同じような顔ぶれのトースターが並んでいた。
今度はしっかりと吟味して購入しようと決めた。
価格も多様だが、各機種セールの言葉も多彩だった。
パンと餅を焼くだけなのに、どれがいいか迷った。
そこで、この売り場担当の店員さんを呼んだ。
店員さんは、それぞれの特徴を要約し、親身に教えてくれた。
でも、私にはどれが最適か決められなかった。
まして、2年しかもたないトースターを選び、失敗していた。
そこで、決断した。
店員さんのキャリアに頼った。
私は訊いた。
「もし、貴方が買い換えるとしたら、どれにします?」
そんな問いかけは珍しかったようで、
彼は一瞬驚いた顔をした。
しばらく並んでいた棚を見渡し、
「高価な方ですが、最近発売になったこれですね。
私ならこれにします」
「これが1番いいですか」
念を押した。
「いえ、もっと性能のいいものはあります。
1番いいのなら・・」
彼は、慌てて他を勧めようとした。
「いや、貴方が1番買いたいと思うのはこれですよね」
彼は、真顔で「ハイ」と答えた。
あれから、あの店員さんが指名したトースターで、
毎朝パンを焼いている。
同じパンなのに、美味しさの違いに驚いている。
その道に精通した人の確かさは、
兄の魚の目利きでよく知ってはいた。
どうやらそれは、兄だけではないと思った。
そして、再び同様のことを実感する場面があった。
大晦日のことだ。
数日前に、私が選んだしめ縄飾りを玄関外に提げた。
イメージしていたのとは違い、貧相だった。
がっかりした。
お正月を飾る玄関である。
どうにかして素敵な感じに挽回したかった。
そこで、当地で一軒だけの生花店へ急いだ。
玄関内に正月らしいアレンジフラワーを置こうと、
思いついたのだ。
それでイメチェンを図ろうとした。
案の定、店内にはそれらしいアレンジメントが、
手頃な価格でいくつも並んでいた。
純和風と洋風があった。
どちらも、どれも、お正月の玄関に相応しかった。
決めかねた。
今年はしめ縄飾りで失敗していた。
それもあって、
迷った。
そこで店員さんに訊いた。
「あなたなら、ご自宅でどれを飾りますか」
彼女は、一瞬驚きの表情を見せた。
少し間を置いてから、
「私なら、これでしょうか」
彼女が指し示したのは、私なら選びそうにない、
薄い色合いの洋ランがメインのものだった。
他のものとはひと味趣が違った。
その素敵さに納得した。
洞爺湖畔 静かな時間 冬
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