ジューンベリーに忘れ物

シンボルツリーはジューンベリー
どこかに沢山の忘れ物をしてきた気がして

サッカーとクラリネット

2022-04-09 16:52:47 | 思い
 ▼ まん延防止の措置が解除されたものの、
当地で発表される1週間ごとの感染者数は、
100人超えが続いたままだ。

 収束どころが、深刻さが増しているように思えるが、
危機感は、どんどん薄れていく。
 この先への不透明感に、暗い気持ちになるのは、
私だけでないはず・・・。

 その上・・・。
テレビも新聞もネットニュースも、
ウクライナでの残虐な戦況を、連日伝える。
 苦戦するロシアが、
「いつ生物・化学兵器の使用に踏み切ってもおかしくない」と、
言い切る専門家までおり、
テレビ画面にニュース速報のテロップがでるたびに、緊張する。
 
 多くの人びとが、一刻も早い終戦を願っているものの、
悲惨な事態を、世界の英知が止められないでいる。
 それが、今の世界なのだ。 

 「なんて人は愚かで、なんて無力なんだ!」。
私だけじゃない。
 そうぼやきながら、
多くの人がこの1ヶ月半を過ごしてきた。

 そのような最中、先日、テレビニュースが、私に光をくれた。
満開の桜の下で、大学の入学式に出席した新入生が、
インタビューに答えた。

 「教育は、平和につながります。
だから、大学で勉強して、先生になろうと思います」。
 
 私が信じた同じ道を、
胸張って歩もうとする青年がいる。
 「私にもできることが、まだまだある」。
そう気づかせてくれた。

 だから、今日もいつものように・・・、
私の周辺にこぼれている輝きをスケッチする。

 ▼ 「北の湘南」にも春がきた。
雪かきでできた雪山が、花壇からすっかり消えた。
 同時に、子ども達の春休みも終わった。

 今朝も、窓から見上げた空は、明るい青一色だ。
朝食の時を過ごしていると、我が家の前を、
5人の男の子が一緒に登校していった。

 昨年度から1学年上がって、
4人は5年生に、1人は2年生になったはずだ。

 10分も待たずに、今度は、
3年生になった制服姿の女子中学生が、
小走りに過ぎて行った。

 3月までなら、この後しばらくすると、
反対方向から、2人の男子高校生が自転車で走り抜けた。
 その姿を見ることは、もうない。

 リビングルームの窓から、こんな4月の光景を見ながら、
モーニングタイムを過ごすのが、日課である。

 1年また1年と、登校する子どもが成長し、
やがて、次々と姿を消していく。
 昔も今も、頼もしさと寂しさが、
ずっと私の中で同居している。

 ▼ そんな想いでいると、
ふと、懐かしい2人が、脳裏に浮かんできた。

 5年も前の3月末のことだ。
雪の消えた庭で、整地のまねごとをしていると、
通りがかった中学生が、突然立ち止まり、私を見た。

 彼には、朝ランで自宅そばまで戻ると、
よく出会った。
 いつも立ち止まり、わざわざ帽子を脱いで、
朝の挨拶をしてくれた。
 その折り目正しさが印象的で、しっかりと顔を覚えていた。

 庭の私に向かって、元気よく言った。
「4月から、K市のM高校へ行きます。
サッカーがしたいので、寮に入って頑張ることにしました。」

 彼がサッカーをしていることは、うすうす知っていたが、 
不意の決意表明に驚いた。
 いつも通り彼は、帽子を脱ぎすっと立っていた。

 「サッカーで有名なM校ですか。
親元を離れてのサッカー留学だね。」
「はい、そうです。」
 「それは大変だ。よく決めたね。」
「最後は、自分で決めました。」
 「すごい。頑張って!」
「ありがとうございます。さようなら。」
 一礼すると、帽子をかぶり直し、
彼は、足早に去っていった。

 以来、ずっと会ったことがない。
その後の消息を知る方法もない。
 サッカーはどうしたのだろうか。
今も続けているのだろうか。
 いずれにしても、
彼なら素晴らしい日々を過ごしているに違いない。
 
 ▼ 初めて朝の挨拶を交わしたのは、
彼女が中学生の時だった。
 長い髪を三つ編みにし、通学鞄と一緒に、
いつも黒い楽器ケースを持っていた。 

 ケースの楽器がクラリネットであることを知ったのは、
1年が過ぎてからだった。

 いつも人懐っこい笑顔で、朝の挨拶をするだけだったが、
ある日、登校途中の彼女に、声をかけてみた。

 「吹奏楽をしてるの。」
「はい。」
 「何を吹いているの。」
「クラリネットです。」
 「今度、市民音楽祭があるけど。出場するの。」
「はい、今、特訓中です。」

 市民音楽祭のプログラムが進み、
彼女の中学校吹奏楽部の演奏になった。
 沢山のメンバーと一緒に登場した彼女は、
片手にクラリネットを持って、堂々としていた。
 いっぱい拍手をした。

 進学した高校は、バス通学だった。
朝ランでバス停を通ると、時々黒い楽器ケースを持った彼女を見た。
 変わらず笑顔で、挨拶してくれた。

 3年が過ぎた朝、自転車で我が家の前を通るのを見た。
ショートカットにした彼女を呼び止め、声をかける機会があった。
 地元の看護学校へ行っていることが分かった。
「しばらくクラリネットはお休みです」と明るく言っていた。

 そして、昨年のことだ。
ジューンベリーの実をつんでいた時に、
レジ袋をさげた娘さんが通った。 
 すっかり大人顔になった彼女だった。
懐かしさのあまり、遠慮を忘れ声をかけた。

 「だいぶ前に看護学校は終わったよね。
もう看護師さんなのかな。」
 「そうです。今は、T病院で看護師をしてます。」
「T病院か。そう遠くないなあ。
 もう少し年寄りになったら、お世話になったりするかもね。
その時はよろしく頼みます。」

 半分冗談、半分本気の私が、そう言いながら、
成長の早さとたくましさがまぶしくて、
つい目を細めた。




    キバナノアマナも 咲いた
                 ※次回のブログ更新予定は4月23日(土)です

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 晴れたり曇ったり <3話> | トップ | 自分の一部を失っても »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

思い」カテゴリの最新記事