紫陽花とカタツムリ
雨上がりの午後、咲き誇る紫陽花の狭間にカタツムリを見つけた。
子どもに戻って、ちょっと、イタズラしたくなって、角をツンツンとつついてみた。
カタツムリは角に見える目をいったん、引っ込んでみせたが、また、ニョロと出して、迷惑そうにこちらを覗った。
「もう!何するの!」
「いやいや、これは失敬。久し振りに君たちを見かけたんで挨拶したかったんだよ。」
「全く、いらぬお節介ね。天敵がいないようだから、のんびり、散歩に出かけたのに。」
「天敵?」
「鳥とマイマイカブリとフランス人よ。最近は韓国人。」
「鳥とマイマイカブリとフランス人は何となくわかるけど、何で韓国人?」
「私たちを絞って、化粧品を作る輩が出始めたのよ。エスカルゴだって、身の毛がよだつのに。(毛はないけど。)人間は油断も隙もない。」
「それはお気の毒。でも、僕はちょっと、話したかっただけだから。」
「ふん!私たちは寄生虫がいて、恐いんだぞう!」
「わ、わかったよ。ところで、君たちはナメクジと似ているけど、殻取ったら、ナメクジになるの?」
「やっぱり、失礼な奴だな。あんな連中と一緒にしないでくれるかな。」
「あんな連中!?どちらも陸生の巻貝だって、習ったけど。」
「そうだよ。でも、進化の過程が全然、違うんだよ。連中はカタツムリから進化したなんて、昔は言われたものだったけど、本当は違うんだよ。」
「へぇ!そうなんだ。聞いてみるもんだな。もうひとつ、さっきから、気になってたんだけど、君は男?女?」
「あるときは男。あるときは女。」
「意味わかんねえな。」
「要はね。私たちはあまり、移動しないんだよ。だから、千載一遇の出逢いを大切にして、男になったり、女になったりして、子孫を残すんだよ。」
「ふ~ん。恋のチャンスは一度きりってことか。便利なような。切り替えが難しいような。」
「それにしても、何だか、君たちと久し振りにしゃべったような気がするんだけど。」
「それはね、あんたが一瞬だけでも、子どもの頃の心を取り戻したからだよ。」
「子どもの頃の心?」
カタツムリは、それっきり、自分の殻の中に閉じこもって、もう、出てこようとはしなかった。