大正十四年二月、いよいよ出家得度して、肥後の片田舎なる味取観音堂守となつたが、それはまことに山林独住の、しづかといへばしづかな、さびしいと思へばさびしい生活であつた。
毎月朔日に母と藤崎宮にお詣りをするが、すぐ近くの碩台小学校のそばを通ると、なぜか山頭火のことを思い出してしまう。1989年にNHKで放送されたドラマ「山頭火 何でこんなに淋しい風ふく」で、フランキー堺さん演じる山頭火が、額縁を売りに来たのにどうしても校門をくぐれないのがこの碩台小学校だ。実際にそうだったらしく、下通に開いた「雅楽多」という店も妻咲野に任せるのみで自分は専ら酒ばかりをあおる毎日だったようだ。泥酔しては無銭飲食で友人知人に迷惑を掛けたり、ついには市電に立ちはだかるという事件をおこし、報恩寺の望月義庵禅師のもとに預けられ、出家得度することとなる。そしてやってきたのがこの植木にある味取観音堂だったのである。


松はみな枝垂れて南無観世音
松風に明け暮れの鐘撞いて
ひさしぶりに掃く垣根の花が咲いてゐる
松風に明け暮れの鐘撞いて
ひさしぶりに掃く垣根の花が咲いてゐる
(草木塔より)
毎月朔日に母と藤崎宮にお詣りをするが、すぐ近くの碩台小学校のそばを通ると、なぜか山頭火のことを思い出してしまう。1989年にNHKで放送されたドラマ「山頭火 何でこんなに淋しい風ふく」で、フランキー堺さん演じる山頭火が、額縁を売りに来たのにどうしても校門をくぐれないのがこの碩台小学校だ。実際にそうだったらしく、下通に開いた「雅楽多」という店も妻咲野に任せるのみで自分は専ら酒ばかりをあおる毎日だったようだ。泥酔しては無銭飲食で友人知人に迷惑を掛けたり、ついには市電に立ちはだかるという事件をおこし、報恩寺の望月義庵禅師のもとに預けられ、出家得度することとなる。そしてやってきたのがこの植木にある味取観音堂だったのである。


