徒然なか話

誰も聞いてくれないおやじのしょうもない話

老婦人とハクビシン

2019-07-15 20:31:28 | 熊本
 弟の家を訪ねた帰り、立田山西麓のわが家の墓参りをした。一昨日、早朝から墓掃除に行ったのだが、雨が降りだしたので供花をしただけでお参りもそこそこに帰ったのが心に引っ掛かっていたからだ。その後、泰勝寺跡まで足を伸ばした。人っ子一人いない園内は高い木立に囲まれて強い日差しこそ当たらないものの、じっとりと湿気が下から湧き上がるようなむし暑さを感じさせた。茶室仰松軒を眺めていると一匹のハクビシンが姿を現わした。こちらに気付いても驚く様子もなくじっと見ている。しばらく見合っていたがやがて竹林の方へと歩き去った。四つ御廟へ向かって歩き出した時だった。こちらへ歩いてくる老婦人に気付いた。あきらかに僕より高齢に見えた。他にも人がいたことに少々驚きつつ近づいていくと、何か話したそうな顔で会釈をされた。
 「タヌキみたいな動物ご覧になりました?」
 「ハクビシンですね」と答えた。
 「管理が全然なってませんね。あんな動物がわがもの顔に歩き回るなんて」
 「そうですね。地震の後始末も手付かず状態ですからね」と水を向けると
 「よく名所を回るんですが、どこも手付かずですからね」さらに僕が
 「熊本城ばっかり力を入れていますが、他の観光名所も早く復旧してほしいですね」と言うと、わが意を得たりとばかり、熊本城一点主義に対する批判でお互いの話が盛り上がった。
 10分ばかり立ち話をした後、挨拶を交わして老婦人と別れたが、品のある顔立ちと高齢にしては背すじがピンと伸びた佇まい。白いシャツに黒っぽいスラックス姿を見送りながら、ふと思い出した。「明後日はガラシャ忌、ん!?」


泰勝寺の池