完全に酔っ払ったおっさんは立ち上がり、レタスを注文した。狭い食堂に、客はおっさんと私しかいなかった。
「レタスを丸ごと持ってきてくれ。芯だけ抜いてな」
台所(厨房と言うより、台所というほうがそこは相応しかった)からおばあちゃんが怪訝な顔を見せた。
「丸ごとなんか食えるかい」
「いいから丸ごと持ってきてくれって。芯だけ抜いてくれよ。それとマヨネーズ」
「丸ごと、どうやって食うんかい」
「いいから持ってこいって」
おっさんはレタスの玉が目の前に置かれると、子どものように顔をほころばせた。
「昔レタス工場で働いていたとき、こうやって食ったんじゃ」
彼はレタスの葉を一枚むしっては、豪快にマヨネーズをかけて口に放り込んでいく。
「旨い」
彼は涙目になった。
「旨いなあ。久しぶりにレタス工場のレタスを食った」
そんなはずはない。やっぱり相当酔っ払っているな、と思っている私のところへ、彼はレタスの葉を一枚摘んでよろよろとやってきた。
「兄さんも一つ食ってみろ。旨いぞ」
私は困惑した。何より衛生面が気懸かりであったが、結局断りきれなかった。酔っ払いの頼みなんて断りきれないし、それに彼の思い出に足で砂をかけるような真似はできない。
しゃり、と音を立てて、私はレタスを噛んだ。
旨いとも不味いとも言えなかった。レタスはレタスであった。マヨネーズだけでは幾分物足りない、普通のレタスであった。
私には彼のような思い出がないせいだろう。
それも少し寂しい気がした。
「レタスを丸ごと持ってきてくれ。芯だけ抜いてな」
台所(厨房と言うより、台所というほうがそこは相応しかった)からおばあちゃんが怪訝な顔を見せた。
「丸ごとなんか食えるかい」
「いいから丸ごと持ってきてくれって。芯だけ抜いてくれよ。それとマヨネーズ」
「丸ごと、どうやって食うんかい」
「いいから持ってこいって」
おっさんはレタスの玉が目の前に置かれると、子どものように顔をほころばせた。
「昔レタス工場で働いていたとき、こうやって食ったんじゃ」
彼はレタスの葉を一枚むしっては、豪快にマヨネーズをかけて口に放り込んでいく。
「旨い」
彼は涙目になった。
「旨いなあ。久しぶりにレタス工場のレタスを食った」
そんなはずはない。やっぱり相当酔っ払っているな、と思っている私のところへ、彼はレタスの葉を一枚摘んでよろよろとやってきた。
「兄さんも一つ食ってみろ。旨いぞ」
私は困惑した。何より衛生面が気懸かりであったが、結局断りきれなかった。酔っ払いの頼みなんて断りきれないし、それに彼の思い出に足で砂をかけるような真似はできない。
しゃり、と音を立てて、私はレタスを噛んだ。
旨いとも不味いとも言えなかった。レタスはレタスであった。マヨネーズだけでは幾分物足りない、普通のレタスであった。
私には彼のような思い出がないせいだろう。
それも少し寂しい気がした。