た・たむ!

言の葉探しに野に出かけたら
         空のあお葉を牛が食む食む

カップラーメンの美味しい食べ方

2005年02月22日 | 食べ物
 話題がだんだん廉価になってきている。
 私の知人に一風変わったカップラーメンの食べ方をする男がいる。もちろん<ハーフバーガー>の男と同一である。彼が食べるものが廉価なのだから、話題の責任は彼にある。

 たしかそれは日清「どん兵衛」だった。

 まずおもむろにフタを開ける。カップを揺すりながら、厚揚げの底から粉末スープの袋を引っ張り出して、その粉末スープを、捨てるのである。そして新たに味の加わる要素のないまま、お湯を注いでしまうのだ。私はその光景を目にしたとき、愛すべき日清食品のためにほとんど義憤すら感じた。
 「そ、それでは、何の味もしないではないか!」

 しかし彼は駄々をこねる子どもに接する寛大な親のような笑みを浮かべて、麺に結構味がついているんですよ、と驚くべき事実を述べた。

 私は信じなかった。そもそも<ハーフバーガー>の一件で、私は彼を心からは信じられなくなっていた。私はあのとき、自分も試すべきであったと、今になって思う。私は臆病であった。一度でいいから、彼の言う通り粉末スープを入れないままどん兵衛を食してみればよかったのだ。その上で彼に八割方残ったカップを突きつけ、「ほらざまあみろ、貴様の言う通りしてみたら、こんなに不味いではないか!」と糾弾し、哄笑してやればよかったのだ。しかし私にはできなかった。私は150円が無益になることを恐れるくらい、臆病で、けち臭くて、小心者だったのだ。

 あれから半年が経とうとしている。
 スーパー、コンビ二、どこの食品売り場を歩いても、濃紺色のどん兵衛は目に入ってくる。

 その度に、良心がかすかに疼くのを、いまだに、どうしようもできないでいる。
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ハンバーガーの美味しい食べ方

2005年02月22日 | 食べ物
 私の知人は、ハンバーガーの一風変わった食べ方をする。

 まずおもむろにハンバーガーを解体する。上のバンズを取り去って、下のバンズとハンバーグだけにするのだ。そのあらわになったハンバーグの上に醤油を垂らし、かぶりつくのである。私はその光景を目にしたとき、戦慄を覚えた。
 「二つのバンズがぎゅっとハンバーグを挟むからハンバーガーじゃないか! それはもはやハンバーガーじゃない!」
 私の知人は私に涼しげな笑みを送り、その<ハーフバーガー>を食べつづけるのである。彼に言わせると、この方がおいしいのだそうだ。

 「でも、取り去った上のバンズはどうするのだ?」
 この質問には彼も、口の端を歪めた。上のバンズは仕方ないからバンズだけで食べるそうである。そしてそれだけが少し苦痛なのだそうだ。

 私にはわからない。未来永劫わかりえないであろう。また、わかりたくもないのである。
 
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あらびき胡椒入りチーズの蜂蜜づけ

2005年02月20日 | 食べ物
 この呼称自体が正しいのかどうかわからない。つまりは、あらびき胡椒を練りこんだ柔らかいチーズを、少し温かみのある蜂蜜につけて食べるのだ。「蜂蜜づけ」と言うのは明らかにおかしい、別に漬物のように長時間つけたものではないのだから、と言いながら気づいた。いずれにせよ、そういう一品料理である。何でもない居酒屋で出た。そしてその予想外の組み合わせと意外な旨さに、その場にいた我々三人は The today's king of cheeses という栄冠を与えた。today'sというところが、居酒屋料理の限界を思わせるが、しかし注文して満足したのは事実である。胡椒の刺激とチーズのまろやかさの間柄を蜂蜜が旨く取り持っている。
 誰が一体この「あらびき胡椒入りチーズの蜂蜜がけ」を発明したのか(「蜂蜜がけ」でもやっぱり変だ)。久しぶりに、創意工夫の顕著な一品であった。
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「娼婦風スパゲッティー」(松本小旅行編4)

2005年02月17日 | 食べ物
 正式名称は忘れた。確かこんな風な名前だった。一昨日食ったのだから、もっと正確に覚えていてもよさそうなものである。「エオンタ」という松本のジャズ喫茶で、幾分酩酊したあとにJohn Handyを大音量で聴きながら食った。John Handyという強烈なサックス奏者の存在は一昨日初めて知った。
 そうそう、スパゲッティーである。娼婦風という名前に惹かれて注文したわけだが、どこがどう娼婦風なのかすこぶる興味があった。プチトマトとブラックオリーブのぶつ切りがペパロンチーノに混ぜ込んである体裁で、酸味のあるトマトと濃厚なブラックオリーブの油が互いを程よく刺激し合っていて旨かった。うん、旨い旨いと思いながら、ジャズの低音に震えるスピーカー前の席で食った。何が娼婦風なのかという一番大事なポイントは、わかったようなわからないような気分になった。真っ赤なトマトと黒いオリーブのぶつ切りのあたりが、娼婦風なのかも知れない、と勝手に合点してしまった。

 「エオンタ」は十年前の学生の頃、貧乏旅行をした際に立ち寄った店である。その際、隣に座った男に、「これが酒というものだ」と言って、ジャックダニエルのストレートを二杯飲まされた。あの人は今どうしているのかと思う。


※John Handyについては、ブックマークよりNelsonさんのHPを参照のほどを。 
   Thanks to Nelson
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七味唐辛子入りマヨネーズ

2005年02月13日 | 食べ物
今晩、飲み会で、新潟出身の人に、マヨネーズに七味唐辛子を混ぜ込む術を教わった。イカの一夜干しをそれにつけて食うと、なかなか旨い。彼に言わせれば、実家ではいつもこうすると言う。人と出会う楽しみの一つに、色んな郷土色を味わえることがある。新潟県民がみなマヨネーズに七味唐辛子を混ぜ込むかどうかは知らない。
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いちご大福

2004年12月08日 | 食べ物
 いちご大福に驚きを覚えたのは、もうはるか昔になった。大福の中にいちご? 和菓子の中に果物? 白の中に赤? もちもちのなかにジューシー? 柔らかさの中にサクッ? この意外性と、意外性を超越して奇跡的に調和した醍醐味(だいごみ)は、世界に通用するはずだ。そう考えて、海外に売り出すことを本気で検討したこともある。
 しかし、その野望も、一知人に打ち明けたときの返答で、落ち葉のごとくいとも簡単に踏み砕かれてしまった。
 「ああ、いちご大福ですか」と彼女は答えた。「かつてオーストラリアの友人に食べさせたことがありますよ」
 何、そんな、オーストラリア人としては類まれな貴重な体験に恵まれた男がいるとは幸せ者め、してその男の反応は?
 「ううん」と彼女は首をひねった。「大して感動しませんでしたねえ」
 ────けっきょく、大福の中のいちごに意外性を見出すのは、大福の固定概念をすでに培った日本人に限るのである。大福そのものを食べたことのない外国人には、いちご大福のユニークさが伝わらないのだ。その上、餡(あん)の甘味は、チョコレートの甘味に慣れた外国人にはやはり不慣れらしい。なんか知らないけどいちご大福だって? いちごケーキと比べてそんなに美味しくないね、という感想を持たれてしまうのである。
 いちご大福──いや!──いちご大福の形式にとらわれまい。いちごと和菓子、果物と和菓子の出会いというコンセプトは、海の向こうを視野におき、さらにさらに改良を重ね、飛躍しなければならない。全世界に和菓子の国から甘い驚きを!

 今夜、久しぶりにいちご大福を食べながらそんなことを思った。それにしても、今夜のそれに入っていたいちごは、干し柿のようにしぼんで黒々としていた。保存料をどれだけ使っているのか、食べた後に妙な胸焼けがする。
 甘いものに対する作り手の姿勢がまだまだ甘い。世界はまだはるかに遠い。

 
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五反田の麻婆豆腐

2004年11月27日 | 食べ物
 麻婆豆腐の本当に辛いのを食べさせる店がある。五反田の駅前に堂々とある。一口食べると唐辛子の味噌か何か得体の知れない黒くざりざりしたものが舌を強烈に刺激する。もう耐えられない、と思う。水を一杯口に含み、また麻婆豆腐を一匙掬う。この辛さは冗談か、レシピで何かとんでもない間違いを犯したのではないかと疑う。水を口に含み、額の汗を拭き、また麻婆豆腐に匙を入れる。さすがに体に悪いのではないか、口から火を噴くのではないか、もう既に体のどこか背中の方から棘が生えてきてはいないか、済みません水のお変わりをお願いします。こうしていろんな内心の葛藤を覚えながら、結局全部食べてしまう。
 店を出て電車に乗り、吊革広告にうつろな目を向ける頃、ひょっとしてあの辛さには奥深いものがあったのではないかと思うようになる。そうして一週間後、また五反田の駅に降りて、かの店の自動ドアの前に、やや戸惑い気味に立つ自分を発見するのである。
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三崎港の金目鯛

2004年11月21日 | 食べ物
 神奈川県は三崎港に、金目鯛を大変美味く食わせてくれるところがある。ついうっかりしたことに店の名前は忘れた。繁華な通りを外れたところに、人の度胸を試すようにして狭い階段を昇った二階の狭い間口でやっている。しかし金目鯛の丼は抜群に美味い。濃厚な甘ダレが活きのいい金目鯛のこりこりした歯ごたえと絡まって、もう何でもいいからどんどん掻き込みなさい、と空腹の旅人の興奮を煽る。
 魚の臭みも包丁の金臭さも一切無く、客よりは水戸黄門の名場面に気を取られてしまうものぐさ店主の腕にかかったものにしては、やけに見事である。まああの一見ものぐさな風が元漁師らしい朴訥な職人気質を表しているのだろう。店は昼間に行けば、口やかましいパートのおばちゃんにやれこの店がテレビに出たのだの今度も出るのだの聞かされて少々閉口するが、夕方ならどうやら主人一人であり随分落ち着く。
 しかし返す返すも口惜しいことに店の名前を覚えていない。三崎港は夕日がまぶしく、その店は中心地から少し夕日に向かって歩いたところにある。
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