雪音は反抗した。手中の魚が突如のた打ち回るように、雪音は不意に反抗した。左腕を引き、私の手を振り解いた。のみならず驚いたことに、再び腕を掴もうとする私に向かって砂を振り掛けた。いや、いや。故意ではあるまい。転んだ拍子に握った砂が、弾みで飛んだのだろう。雪音がそんな悪意に満ちた真似をするはずがない。
あっ、と叫んで私は目を閉じた。私のひるんだ隙に、彼女は後退った。
「何をする」私は目を押さえて怒鳴りつけた。
雪音自身、自分のしたことに驚いたようであった。私の報復を恐れてか、必死に震えを抑えている。しかし私がなおも近づこうと一歩踏み出した途端、彼女は決然として言い放った。
「近づかないで」
それははっきりと通る声であった。
「雪音」
「これ以上、これ以上近づいたら言うから」
「何」
「言うの」
「だから何をだ」
「全部。全部よ。今までのこと全部。私たちが犯してきた罪を全部よ。そうでしょう? そうしなきゃいけないと思うの。私、絶対そうしなきゃいけないと思うの。いつかは言わなきゃ、これ以上人を騙して生きていけない。嘘をついたまま人生を終われない。苦しいの。ものすごい罪悪感で苦しいの。もうどうしようもなく手遅れだけど、でも、でも罪を償いたいの」
セメントを背中から注ぎ込まれたように、私の体が硬直していくのがわかった。「誰に、言うんだ」
(つづく)
あっ、と叫んで私は目を閉じた。私のひるんだ隙に、彼女は後退った。
「何をする」私は目を押さえて怒鳴りつけた。
雪音自身、自分のしたことに驚いたようであった。私の報復を恐れてか、必死に震えを抑えている。しかし私がなおも近づこうと一歩踏み出した途端、彼女は決然として言い放った。
「近づかないで」
それははっきりと通る声であった。
「雪音」
「これ以上、これ以上近づいたら言うから」
「何」
「言うの」
「だから何をだ」
「全部。全部よ。今までのこと全部。私たちが犯してきた罪を全部よ。そうでしょう? そうしなきゃいけないと思うの。私、絶対そうしなきゃいけないと思うの。いつかは言わなきゃ、これ以上人を騙して生きていけない。嘘をついたまま人生を終われない。苦しいの。ものすごい罪悪感で苦しいの。もうどうしようもなく手遅れだけど、でも、でも罪を償いたいの」
セメントを背中から注ぎ込まれたように、私の体が硬直していくのがわかった。「誰に、言うんだ」
(つづく)