松本に雪が積もった。
今年は雪がないねえ大丈夫かねえと心配し合っていたら、ちゃんと降った。それもしっかり降り積もった。こうなると途端に、参ったねえと挨拶が変わるから、人間とは現金なものである。
さて積もれば雪かきである。県外出身者の私から見るに、松本の人は雪かきがまめである。非常に熱心に除雪する。地面がしっかり見えるまでは何が何でも妥協しないぞという勢いで、一心不乱に一日中雪と格闘している。これはなかなか興味深い光景である。私は山陰の雪国育ちで、積もるといえばすぐに五十センチを超える。しょっちゅう降るので、いちいち全部を排除できない。だから、人が通ればいいやというくらいに雪をかく。湿っぽい雪で重たいし、また凍り付く心配はさほどない。
一方で、松本はめったに雪が降らないので、チラチラしようものならみんなそれかかれと一斉に除雪に走る。中央高地の雪はパウダースノーで軽い。かと言って甘く見て放っておくと、翌朝にはしっかり凍り付いてしまう。そうなると今度はかなり厄介になる。ハンマーで路上に凍結した雪を叩き割る姿は、松本の冬の風物詩である。
近所が早朝から熱心にスコップを振り回すので、私も黙って見ているわけにはいかない。松本に移住すること十余年、この地方の雪かきに対してもだいぶとコツをつかんだ。
降ったら雪が軽いうちにすぐかき出すのが一番。それでも車が何台か通ると 圧雪となり、なかなかスコップの歯が立たなくなる。そうなると無理をせず、雪が止む日を待つ。少しでも日が出ると好都合である。道路と積雪の間に水が滲み始めたら、チャンスだ。剣先スコップをその滲みた部分に差し込み、てこの原理で持ち上げると、氷と化した圧雪が、パコリと、大きな塊となって割れるのである。まさにパコリ、と音を立てる。これがなかなか小気味良い。ちょっと病みつきになる。パコリ、パコリ。時には大人の体が隠れるくらい大きな氷塊が取れることもある。そうなるとまるで大魚でも釣ったかのような満足感に浸る。思わず写真に撮ってブログに載せようかと思うが、私はそれほどまめな性分ではなく、また何より、路上にしゃがみ込んで氷塊を写真に撮っている姿を近所の人に見られるのは多少不都合なので、止している。
さあ、こんなことをぐだぐだと書き連ねているのは、雪かきをさぼっている証拠である。やっぱり面倒には違いないのである。いかんいかん。日が落ちるまでに、もう一度長靴に足を通さねば。