新しい仕事場での活動が始動した。やることはこれまでと大して違いがないのだが、場所も内装も空気も変わると、気分も一新する。いい気になって、薬缶にコーヒーカップ、ソファーに雑誌など細部をやたら揃え、自分にとっての居心地を追及している。いかんいかん、仕事もきちんとしなければ。
街の中心部に近くなったので、自転車で買い物ついでに、あるいは買い物がなくても時間つぶしに、ふらふらと街を巡回する。今まで十何年この地に暮らしてきても気づかなかった店がある。改めて風情に気付く小路がある。車で行き来している分には見えなかった風景が、ふらふら自転車だとよく見える。桜が近い。人が近い。
十年以上前に立ち寄った小さな揚げ物屋を再び見つけ、空腹でもないのに思わず一串買い求める。新聞紙に包まれた串を手にサドルにまたがり、次はどの小路に曲がってみようかと思案する。通りの影が長い。いかん、いかん、仕事もきちんとしなければ。