た・たむ!

言の葉探しに野に出かけたら
         空のあお葉を牛が食む食む

掛け軸

2017年02月11日 | essay

   南天に雪。雪は湿り気を帯びて光を透かせ、融けだす寸前である。本来冬の使者でありながら、春の到来を告げる羽目になっている。もう少し寒気が緩めば、南天の蓄え持つ強靭な弾性力が働いて、皆振り落とされるかもしれない。だが今しばらくは、細い枝をたわませて赤い実を空の来訪者から隠し続けるだろう。

   その空には、一羽の雲雀(ひばり)。べた雪の努力むなしく、真紅の実を目ざとく見つけ、翼を広げて宙に留まっている。ついばもうと狙っているのか、ただその実の鮮やかさに目を奪われたのか。それとも、気まぐれに春を告げたくて舞っているのか。

  題をつけるなら『春来ノ図』といったところか。

   雪を被る南天と雲雀との間には、1間(けん)ほどの空白がある。その空白に来るべき季節を巡る楽しい予感が溢れんばかりに詰め込まれている。

   そのような掛け軸に、気まぐれに覗いた骨董商でばったり出逢った。表装に傷みがあるので、財布に無理を言えば買えない値段ではない。店を出て、ポケットに両手を突っ込み、心中迷いながら街を歩く。頬を切る風はいまだ冷たい。しかし日差しはほんわかと温かい。

   買うべきか、買わざるべきか。まあ普通は買わないだろう。が、ひょっと買っても面白かろうと思う。

  その迷いそのものが、あるいは、季節の変わり目を暗示しているのか。

  ニュースによれば、全国的には雪。春まだ遠し。

 

 

 

 

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