た・たむ!

言の葉探しに野に出かけたら
         空のあお葉を牛が食む食む

雪原に独り

2021年04月06日 | essay

 3月12日、まだ冬の貌を残す美ケ原高原をスノーシューで歩いた。スノーシューは初めてであった。一泊する予定の宿泊施設で器具を借りた。宿泊客は全部で十人程度はいたが、私の他に誰もする人がいなかった。雪も少ないし、夕刻が迫っていたからであろう。私は一人、広大な平野を歩いた。

 そんなに歩きやすいものではないな、と感じた。

 宿に戻って風呂に入り、食事をした。

 その晩、季節外れの大雪になった。窓から見える屋根には白いものがうず高く積もった。

 私はいつまでもその光景に見入った。

 翌朝、スノーシューを借りて、私は再び野原に出た。辺り一面、真っ白に変貌していた。

 やっぱり私の他にスノーシューをする人はいなかった。

 雪が相変わらず降りしきっていたからであろう。実際、視界は悪く、ほとんど何も見えなかった。

 

 それでも私はひたすら歩いた。吹雪を顔面に受け、ときおり足を雪に取られながらも、ストックを突き、前へ進んだ。目的地もなければパノラマ風景も望めない。それでも、ただひたすらに歩いた。

 やがて帰るべき時刻が来たので、Uターンし、来た道をひたすら戻った。

 それでよかった。

 

 そういう気分になるときもある。

 

                

 

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする