た・たむ!

言の葉探しに野に出かけたら
         空のあお葉を牛が食む食む

4月23日

2009年04月23日 | essay
 春風が 誘い出すのは 花見心と 恋心。

 車一台分がようやく通る狭い路地を歩いていた。向かいから中学生の男女がやってくる。男女といっても、二人は塀についた磁石のように道の両側に別れ、車一台分の間隔をしっかり取って歩いている。恋人同士では到底なさそうである。しかし赤の他人でもないらしく、ときどき交互に顔を向けたり、笑ったりしている。だが二人が同時に顔を向け合い、目を合わせることは決してない。
 私は微笑を禁じえなかった。素敵な日差しの下の素敵な光景である。二人はクラスメートの域を脱していないのだろう。下校が一緒になったのは偶然かも知れない。それとも、ひょっとして、二人のうちどちらかが偶然に見えるように、さりげなく下校時刻を合わせたのかも知れない。会話は盛り上がってはいない。しかしときたま笑い合うところからは、相性は決して悪くない。それどころか────互いに秘めた思いを苦しく胸に抱きながら、何気ない会話を装い続け、帰路が別れるまでの時間稼ぎをしているのかも知れない。 
 ああ、これが、十代の恋のはじまり方かも知れない。

 そんなことを夢想してしまう自分は相応のオジサンだな、と心中頭を掻きながら、私は彼らの間を通り抜けていった。ちなみにそのときの私は、陽気に誘われぶらりと散歩に出かけていたわけではなく、パンクした自転車を修理に出すため、ずるずると重い鉄の塊を引き摺っていたのである。

 青春と現実。二人とすれ違いざまに、私が何だか惨めな気持ちになったことを、今更否定するつもりはない。
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