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ぴかりんの頭の中味

主に食べ歩きの記録。北海道室蘭市在住。

【本】遺伝子が語る生命像

2008年05月18日 22時06分20秒 | 読書記録2008
遺伝子が語る生命像 動く遺伝子をさぐる, 本庶佑, 講談社ブルーバックス B-644, 1986年
・生物学、生命科学、分子遺伝学、遺伝子工学、どう呼んだらいいのかよくわかりませんが、その分野の第一線で研究を続ける著者の手による入門書。"科学ライター" の文章では出せない生の声の迫力があります。難易度やや高め。20年前以上の本ですがそんなに内容が古くは感じません。この分野は、今では発展が早すぎ、広まりすぎて、どこまでいっているのやら、それに関連した研究をしていてもよく把握できないような状況です。
・「しかし、1960年代後半の、いわゆる学園紛争の真っただ中に身を置いた経験から、私は学問の世界と社会との間に厚い壁を設けることには、やや批判的なのである。あの長い貴重な時間をかけて私たちが考え続けた結論は、  「科学研究が社会と完全に遊離して行なわれるべきではない」という唯その一言に尽きるような気がする。」p.7
・「遺伝現象が遺伝子という独立した単位により、混じり合わない形で親から子へ伝えられるという新しい概念は、メンデルによって初めて打ち立てられたのである。これを「粒子説」と呼んでいる。」p.18
・「進化を考える上で重要な点は、遺伝子の変異は個々の細胞で起こるが、子孫に伝えられるのは生殖細胞の遺伝子に起きた変異だけであるということである。一方、自然選択は個々の個体に働くが、その選択の結果が集団内に定着するかどうかが鍵となる。したがって進化を分子レベルで説明するためには、一個一個の細胞の中における遺伝子の変異を説明すると同時に、大きな集団の中におけるダイナミックな生存競争をも説明する必要がある。」p.22
・「機能を持ったヒトの遺伝子はおそらく約10万個。全設計図にある塩基の総数は約30億であるのに対し、われわれが現在まで構造を知りえた遺伝子の数は、おそらく1000個以下であり、塩基の配列としては10万程度にすぎない。」p.26
・「さて、それでは細胞に感染し増殖するウイルスは生命体と言えるであろうか。(中略)生物の三つの特性(自己複製、自律性、適応性)のうち、ウイルスは、かろうじて自己複製能力を持つと言えるであろう。(中略)見方によっては、もっとも原始的な生命体とも言えるし、逆に生命体にとって、もっとも大切な自己複製能力以外の不要な部分をなくした、もっとも効率のよい生命体という考えもある。(中略)やはり生物に近く、両者の境にある不完全な生命体と見るのが妥当であろう。それはやはり、ウイルスが遺伝子を持っているからである。」p.31
・「過激な条件を加えて無理に二重鎖をほどいて一重鎖とした(これを「変性する」と称する)後、再び適当な条件にもどして待っていると、一重鎖はもとの相手を見つけて安定した二重鎖を作りあげる。この反応を「ハイブリッド形成」と呼んでいる。」p.40
・「これは、まったくの空想であるが、今日の遺伝子の一般的な形はDNAであるが、ひょっとすると、最初に生じた生命体の遺伝子型はRNAであり、非常に早い時期に、RNAのつなぎ換えという機能が、生命体にとって不可欠な機能として備わったのかもしれない。」p.56
・「「遺伝子工学」あるいは「組換えDNA技術」と呼ばれるものの基本は、遺伝情報のテープを自由自在に編集する技術である。今日ではテープの暗号を解読し、短いものなら人工的に遺伝情報を合成することも、また、異なる情報をつないで新しい遺伝子を作り出すことも可能である。」p.72
・「遺伝子図書館は、さまざまな異なる遺伝子を含んだファージまたはプラスミドの集合体として、その組換えDNAを冷凍庫に保存すれば、半永久的に特定の生物種の設計図を保存することができるのである。」p.90
・「生物界の不思議な現象の一つとして、多様性があげられる。(中略)ところが、このような多種多様な生物における生命の基本的な仕組みを探ってみると、その根底には驚くほど共通の原理が横たわっていることに気がつく。  遺伝物質は、ほとんどの生物においてDNAから作られており、DNAに刻みこまれた遺伝情報の言語(トリプレットコドン)は、すべての生物について基本的に同じである(多少の "方言" を持つ生物も最近発見されているが)。」p.98
・「このようにして、遺伝子は増えたり、その位置を変えたり、またいらない部分を削除したりするというダイナミックな変化をしていることがあきらかになった。」p.106
・「要約するならば、免疫系の多様性の基礎は、偶然による遺伝子の変異と、その結果生じた多数のリンパ球のクローンを選択して役に立つものを増やすという、この二つの仕組みによって支えられているのである。」p.120
・「遺伝子病という言葉は、いわゆる遺伝病よりも広い範囲を指し、遺伝子そのものに何らかの以上があることにより起こる病気をすべて含んでいる。(中略)今日、まだ遺伝子病とは断定はできないが、根底に何らかの遺伝的素因を持つといわれている病気は多い。(中略)逆に、遺伝的な要因がまったくない病気は少ない。」p.146
・「木村資生の中立説は、「進化は単に変化である」ととらえている。すなわち、遺伝子の変異に善悪の価値観はない。進歩か退歩かに関係なく遺伝子は変わり、選択は死による個体の排除を通して働く。すべての事象はきわめて偶然性に富んだものであり、その偶然性の産物(新しい種)が環境と相対的条件との中で、著しく子孫をふやしたり、また偶然の結果、この地球上から姿を消したりするのである。」p.156
・「生命の存在は、偶然性に富んだものであるという事実を認識することから、生命の価値観は、新たなものとなっていく。」p.158
・「生命体は、常にきちっと決まった一本の道を、始めからまっしぐらに歩むのではなく、一定の許容幅と複数の可能性をもっているのである。このことが、生命体にとってもっとも必要な、生命の安定性を保証するものなのであろう。」p.160
・「この "余白" は無駄ではなく、ヒトの設計図にとっては未来に備える大切なものかもしれない。余白がない大腸菌は、もしかしたら、未来への展望が少ないのではなかろうか。」p.163
・「しかし、私は生命には寿命がある方が幸せではないかと思う。老化の研究は決して不死を目指すべきではなく、天寿をまっとうできることを目的とすべきであろう。いつまでも死なない人間など、きわめて恐ろしい存在ではなかろうか。」p.173
・「私たちの遺伝子を調べて、生まれた直後に、「あなたは20パーセントの確率でガンになる」とか、あるいは、「あなたは10パーセントの確率で糖尿病になる」ということが予言されれば、その人は、かなりじゅうぶんな配慮を行って、自分の天寿をまっとうすべき努力をすることができるだろう。」p.173
・「私は生命に関する東洋思想を実践する手段として、遺伝子工学を応用することを夢みる。私たちの食料をすべて遺伝子工学的手法により、微生物を使って生産することは可能であり、それは完全ではないが、もっとも理想に近い罪悪感の少ない方法ではあるまいか。」p.177
・「地球上において、われわれ人類が永久不滅であると信ずることは不可能です。過去の地球の歴史を見れば、必ずわれわれは滅ぶわけで、われわれがいかに滅ぶかということは、やはりわれわれが考えなければいけない問題です。」p.187
・「不条理に立ち向かい黙々と岩を押し上げるシジフォスのごとく、常に絶望と努力との緊張関係の中に人生の最大の喜びがあるのではないかと思う。すべてが満たされたとき、人は最も絶望するのではないだろうか。  全存在をかけて運命に立ち向かう人間の黙々とした闘い、これは仏教の悟りに近い状態であり、また学問そのもののような気がする。」p.199
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