僕はフリーのプロダクト・デザイナーをしておりますが、商品デザイン提案のブレゼンテーションなどの絵は、今でこそパソコンで効率良くスマートに描いていますが、PC以前はラフスケッチにはマーカーやパステル、また最終段階などでよりリアルなカンプ表現をするためにはエアブラシを使って描いていました。
ものによっては何日も掛かる場合もあったように想います。というのはエアーブラシは薄いプラスチック・シートを色の霧(エアー)が掛からない箇所をカバーしながら吹き付けていかなければならないので、それぞれの形によってたくさんカバー・シートをカッターで切り自作する必要がありました。色液を噴霧するハンドピースや圧縮空気を作り出すコンプレッサー(手軽で無音のエアー・ボンベの仕様もありましたが)も自分で買って、自分なりの表現をイラスト本を参考にしながら研究しました。当時はその作業が始まると、色霧が籠もらないように冬でも窓を開け放ち、またコンプレッサーのトントンという音にも慣れなくてはなりませんでした。
もちろん描けば描くほど腕前は上がっていきますし、僕の後輩の中には現在リアル・イラストレーションを生業にしているS君も出ています。パソコンにツールが変わってもその時に覚えた描き方が基本となりました。
先日朝に何気なくTVを見ていましたら、「ハリウッドエアー」というエアーブラシで女性のメイクをする機器セットのCMがありました。ファンデーションを薄く均一に吹き付けた後に、シミなどを自分にあった肌色液で消し、頬やアイシャドーで色付けし、最後に鼻筋などにハイライトの明るい肌色を置いていきます。ステンシルで眉の形を整え口紅にグロスを吹いたら仕上がり写真のように立体的で綺麗なメイクの出来上がりというわけです。写真のデモ女性が実際に自分の顔を使って、OLの朝の生活設定でしょうか5分という短い時間の中で器用にハンドピースを操る姿に、往年の僕たちデザイン・スタッフのワーク風景が懐かしく重なりました。
機器の販売だけでなく吹き付ける専用化粧液や、各種ステンシルなどのリピート商材で儲けていく商品ですが、エアーボンベ仕様の手軽なハンドピース・セットが資生堂などメジャーなメーカーで商品化されたら、女性の朝の風景が変わってしまうかも知れません。