『会話術』
湖水と林の画像が重なり、それを割るように Amour(愛)というスペルを暗示した線描が区切っている。
湖水には白鳥が二羽仲睦まじく浮いている。見つめ合うというのではないが同じ方向を見ているようでもあり、片方がそっぽを向いているとも考えらえる。羽根は二羽とも飛び立つというか、何か行動を起こしそうな・・・要するに静かに見えるがざわつく予感の前兆という感じもする二羽の関係である。
林(森)は手前が漆黒であるのに、背後に行くに従って薄明るい空気感がある。漆黒の林の背後の建屋はまさに明るく照らし出されてる、空には星が見えるというのに。
二十六日の月が南中し、星が見えるというのも自然の理に反している。
つまり全てがちぐはぐな時空のつなぎ合わせであり、完全なる合致、完全なる意思疎通を望むのは非常に困難である。
会話において、通じ合っているという思いは、単に錯覚かもしれない。
(写真は国立新美術館『マグリット』展・図録より)