中国全人代 社会主義と決別か 「物権法」が焦点(産経新聞) - goo ニュース
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19年前、私が最初に中国へ行った時、上海医科大の教授が、
「中国は社会主義ですから、同じ釜からご飯を食べますね」
とわざわざ説明してくれたのを思い出す。
「物権法」が採択されれば、もう同じ釜からご飯を食べることができない。
そうなると、今以上に外国企業も進出してくるだろうし、良き中国、古き中国の姿は消え、人民は金銭のためだけに働く人が多くなるだろう。
どうなるかは全国人民代表大会の後の話だが、採択の方向に向かっているので、政治経済の問題は別にして、少し寂しい気がする。
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産経新聞の全文を掲載しておきます。
2007年2月23日(金)03:07
【北京=福島香織】私有財産の保護を明記した「物権法」が3月5日から開幕する中国の全国人民代表大会(全人代=国会)で焦点になりそうだ。採択されれば資本主義化が加速されるのは必至で、社会主義国家のレゾンデートル(存在意義)を問われかねないと強い反発が出ている。保守派勢力は「同法は憲法違反」として反対要望書をインターネット上に発表した。
中国は2004年に憲法を改正して「合法な私有財産」を不可侵とする方針転換を行った。物権法はこれを具体的に進めるための法律。最終草案が昨年12月末の全人代常務委員会会議で可決され、3月の全人代で上程されれば、通例からいえば採択されるはずだ。
採択されれば、社会主義の看板のもとに資本主義化を進めたトウ小平氏の改革開放路線から資本主義への傾斜がさらに強まる。事実上、社会主義の看板も下ろすことになるとの指摘もある。
物権法に反対する呉邦国全人代常務委員長らあての反対要望書は2月15日付。元国務院発展研究センター顧問の馬賓氏ら署名者は3275人にのぼり、中央の退職幹部や政府機関の現職幹部も多数含まれる。要望書は、中国の社会主義経済制度の基礎は「全民所有制」にあるとし、「社会主義の公共財産は神聖にして不可侵」と規定する憲法12条などに違反すると主張している。
物権法では、国有企業解体の過程で横領に似た手口で資産を得た私営企業についても「時効」を認め、財産権を保障する内容になっているとみられる。要望書は、こうした特権階級に不満を募らせている国民の関心を集める可能性がある。
社会矛盾の責任を改革開放政策に求める保守派勢力は04年以降急速に台頭。物権法制定を既定方針とし、国際化と市場経済の仕上げを目指す胡錦濤政権の経済政策にも影響を与えかねない勢いだ。
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■物権法反対要望書の骨子
▽物権法は「社会主義の公共財産は神聖にして不可侵」と規定する憲法12条などに違反する。
▽私有化は、急速な発展の結果起きる問題を解決できず、貧富の差を広げ、両極分化と社会危機を招く。
▽国有企業は全国民の財産。汚職役人や富豪などのウジ虫、国際企業が巧みに強奪し私有化してもよいものではない。
▽指導幹部らの財産申告・公布法を制定せよ
▽国有企業の「売り出し」を全面的に停止せよ。
▽国務院は、公有制経済と私有制経済の比重の計画目標を示せ。
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《中嶋嶺雄・国際教養大学学長》
■可決なら「格差」さらに拡大
物権法が可決されれば、社会主義市場経済と称してきた中国が、実質的には資本主義経済体制になることを意味する。中国が、ますます社会主義から遠い地点に向かうのかもしれない。しかし、言論の自由もない共産党一党独裁下での私有財産の保護は、中国社会の格差をさらに広げる恐れがあるだろう。
物権法が必要とされている背景には、全国各地で起こっている土地をめぐるトラブルがある。地方政府が強権的に土地収用を行ったため、わずかな補償で土地を奪われた農民らの暴動が頻発している。ただ、物権法によって農民の権利が守られるようになるかというと、それは疑問だ。農民がいま耕している土地をそのまま自分の土地にできるかどうかは怪しく、むしろ、農民らから土地を取り上げ利権を増やしている役人ら権力者の富を固定化する可能性も大きい。
物権法に反対する勢力は憲法違反を主張しているが、憲法改正が行われているためこの批判は当たらない。一般の人々には、貧しくとも平等だった毛沢東時代を懐かしむ声もある。ただ物権法に対する保守派の抵抗の強さは、路線の違いをめぐる党内における権力闘争の激しさを反映したものといえるだろう。(談)
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【用語解説】中国の物権法
財産に対する所有権や抵当権などの権利を定める法律。国有財産などと同じように「私有財産の不可侵」が盛り込まれているとされる。近年の急速な経済発展により、国民の財産に対する権利意識が向上していることを背景に、2002年から全人代で審議が開始されたが、「社会主義公有制」を掲げる中国の憲法と矛盾していることなどを理由に、保守派などから根強い反発が出ている。