28日の朝の神戸は妙に温かく近くの喫茶店では地震がまた起きるのではないかと、冗談ともまじめともとれる話を馴染み客がしていた。年を越せばあの悪夢の震災16周年を迎える。
明石海峡の橋げたの下からタコが墨を吐いたような真っ黒い海水がもくもくと噴き出していたのがマンションから見えていた。おかしいなと思っていた。2日後の1月17日午前5時47分、あの地震である。この話は明石に住む従姉から震災直後に聞いた。
父と叔母が阪神青木駅前に住んでいた。祖母が元家から嫁入りのとき持ってきた樹齢90年の棕櫚が地面一杯に震災の前の年、おびただしい量の種を落とした。地震との因果関係は不明である。しかし先の真っ黒な海水同様、自然が教えてくれていたのだと信じている。
青木と書いて「お・お・ぎ」と読む。青木は子供のころ白砂青松の松並木が続くのどかな漁村だった。子供のころ青い木が多いから青木と呼ぶと思いこんでいた。ところが大昔は、青い亀と書き、「青亀(あおぎ)」と呼んでいた。それが地名の起こりと言い伝えられる。
喫茶店のマスターがいつものように話に入った。地震の前の年、住吉の浜でイワシの大漁が続いた。ある日、ウミガメ二匹が浜に上がってきた。亀がイワシをつれて来たと漁師は大いに喜びお祝いした。亀を傷めて海に捨てた漁師だけが家の下敷きになり亡くなった。
ある業者が住吉浜でマンション整地をしていた。お地蔵さんが邪魔になった。ある男が壊して捨てた。作業していた中でその男の家だけが倒壊、火事で命を落した。さる若者にその話をしたら、「そんな馬鹿なと、一笑に付されましたわ」と照れくさそうに話を続けた。
当の喫茶店は朝6時半にオープンする。準備のために5時半過ぎに店に着く。地震のあった日の朝、ドーンと突き上げられた直後反射的に外に飛び出した。周りはまだ真っ暗だった。西の空を見ると、明石方面が異様なほどにまっ赤だった。目に焼き付いて離れない。
道を隔てて建っていたダイエー住吉店が目の前でペシャンコになった。中から品物が噴出した。給水塔が破裂した。あたり一面、洪水になった。直後誰ひとり外に出てこなかった。その間、7分ぐらいだと今も正確に覚えていると昨日の出来事のようにマスターは話した。
青木に先祖の墓がある。自分の家の墓石は引力の法則に従って下に落ちた。ところがお隣の墓石が飛んできたのだろう、我がもの顔で座っていた。墓地付近を測量した係員は120センチ移動していたと説明した。地震経験者は、恥ずかしがらずに語り継ぐ義務がある。
全て他人任せ、今の日本は不平不満が多過ぎる。余りに恵まれ過ぎた副作用であろう。(了)
明石海峡の橋げたの下からタコが墨を吐いたような真っ黒い海水がもくもくと噴き出していたのがマンションから見えていた。おかしいなと思っていた。2日後の1月17日午前5時47分、あの地震である。この話は明石に住む従姉から震災直後に聞いた。
父と叔母が阪神青木駅前に住んでいた。祖母が元家から嫁入りのとき持ってきた樹齢90年の棕櫚が地面一杯に震災の前の年、おびただしい量の種を落とした。地震との因果関係は不明である。しかし先の真っ黒な海水同様、自然が教えてくれていたのだと信じている。
青木と書いて「お・お・ぎ」と読む。青木は子供のころ白砂青松の松並木が続くのどかな漁村だった。子供のころ青い木が多いから青木と呼ぶと思いこんでいた。ところが大昔は、青い亀と書き、「青亀(あおぎ)」と呼んでいた。それが地名の起こりと言い伝えられる。
喫茶店のマスターがいつものように話に入った。地震の前の年、住吉の浜でイワシの大漁が続いた。ある日、ウミガメ二匹が浜に上がってきた。亀がイワシをつれて来たと漁師は大いに喜びお祝いした。亀を傷めて海に捨てた漁師だけが家の下敷きになり亡くなった。
ある業者が住吉浜でマンション整地をしていた。お地蔵さんが邪魔になった。ある男が壊して捨てた。作業していた中でその男の家だけが倒壊、火事で命を落した。さる若者にその話をしたら、「そんな馬鹿なと、一笑に付されましたわ」と照れくさそうに話を続けた。
当の喫茶店は朝6時半にオープンする。準備のために5時半過ぎに店に着く。地震のあった日の朝、ドーンと突き上げられた直後反射的に外に飛び出した。周りはまだ真っ暗だった。西の空を見ると、明石方面が異様なほどにまっ赤だった。目に焼き付いて離れない。
道を隔てて建っていたダイエー住吉店が目の前でペシャンコになった。中から品物が噴出した。給水塔が破裂した。あたり一面、洪水になった。直後誰ひとり外に出てこなかった。その間、7分ぐらいだと今も正確に覚えていると昨日の出来事のようにマスターは話した。
青木に先祖の墓がある。自分の家の墓石は引力の法則に従って下に落ちた。ところがお隣の墓石が飛んできたのだろう、我がもの顔で座っていた。墓地付近を測量した係員は120センチ移動していたと説明した。地震経験者は、恥ずかしがらずに語り継ぐ義務がある。
全て他人任せ、今の日本は不平不満が多過ぎる。余りに恵まれ過ぎた副作用であろう。(了)