思索の日記 (クリックで全体が表示されます)

武田康弘の思索の日記です。「恋知」の生を提唱し、実践しています。白樺教育館ホームと共に

金泰昌・武田康弘の往復書簡・第二次「恋知と楽学の哲学対話」ドキドキの展開!!

2007-10-29 | 恋知(哲学)

5月から6月にかけて行われたキムさんとわたし(武田)の「恋知と楽学の哲学対話」(クリック)は、『公共的良識人』紙(京都フォーラム発行)の7月号・8月号に掲載され、嬉しいことに、多くの読者の方から絶賛を浴びました。

その続きの第二次「恋知と楽学の哲学対話」は、9月5日から始まり、昨日のわたしの分ですでにA4(1400字)で23枚を越えています。これは、金泰昌さんのお考えにより、前回のように途中でインターネット(白樺教育館・ホーム)に公開してご意見ご感想を受けることはしないで、いきなり『公共的良識人』紙の11月号か12月号に載せて、新聞の読者を驚かせようということになっています。

したがって、いま全文を公開することはできませんが、その内容は、極めて本質的な話になっていて、ドキドキ・ワクワク・ハラハラの緊張感に富んだものです。全文が載れば、また、同時にインターネットで公開されれば、話題騒然!!笑(自画自賛ですみません)だと思います。なお、『公共的良識人』の7月号、8月号は、京都フォーラムで入手できます。電話06-6344-2715 Eメール institute@felissimo.co.jp

上記のようなキムさんのお気持ちがありますので、まだ全文を公開できませんが、このブロに、以下にわたしの一日分だけを公開しますので、前後を予想?してみて下さい。


民主主義の原理からの出発は、「公」ではなく「公共」を生む。2007年10月22日 武田康弘

キムさん、論じなければならない点がいろいろありますね。
ゆっくり楽しみながら往復書簡による恋知(哲学)対話を続けたいと思います。

まず、「日本では政治権力の正当性の暗黙的根拠が天皇の文化的象徴的権威によって担保されている」というキムさんのご意見ですが、外国の方が見るとそのように見えてしまうのだな、と思いました。確かに「象徴天皇制」とは極めて曖昧で、明晰な分析を拒むために、さまざまな解釈を呼び寄せてしまうものでしょうね。
わたしは、日本の皇室はイギリスの王室とは違い「神話的世界」に留まる文化的象徴であるべきで、現実政治の領域には関与しないのがほんらいの姿であると思っています。明治政府がつくった「近代天皇制」は日本の伝統とはひどく異なるものですが、「天皇史観」の徹底で日本史は大きく改竄されてしまいました。歴史を正しく民衆史として見ると(NHK大河ドラマなどは「英雄史観」を刷り込む歪んだ放送です)日本には500年以上前からの民主政治・自治政治の伝統があることが分かりますが、これについては、池上裕子(成蹊大学教授)さんらの優れた日本史研究家にお聞きになられるのがよいと思います。

話を戻しますが、「国民の主権は、特にその行使は、何らかの装置もしくは誰かの人格に象徴的、もしくは法制的に仮託・代理・代表させるというかたちを取らざるを得ない」というキムさんのご見解は、原理次元の話と現実具体次元の話を混ぜて語られているように思えます。民主主義とは、理念としては直接民主制―自由対話による自治のことです。もちろん現実においては不可能(とくに国単位)なので代議制をとるわけですが、それがよいのではなく、そうするしかないからです。あくまで理念次元に直接民主制を置かなければ、代議制もその正当性の根拠を失ってしまいます。また、市民社会の成熟・テクノロジーの進歩に応じて直接民主的な手法を多く取り入れていくことも重要で、現に地方政治からその方向に向かっていますが、これも理念次元に直接民主制を置いているから可能なわけです。

また、前回の書簡内容を繰り返しますが、「天皇に仮託された主権」というキムさんのご意見は、そこから市民・住民自治を進める上でのよき結論が導き出せないと思いますので、わたしはその見方をとりません。

次に公と公共の区別ですが、わたしは原理次元でこれを区別する思想は、国民(市民)主権の民主主義社会においては成立しないと見ます。国民(市民)的な公共性とは異なる公を担う「官」(行政機関)を認めることは、原理に反すると思うからです。
 以下にわたしが考える「民主制の原理」について簡潔に記してみます。
 まず、言葉の定義ですが、行政機関の機能・役割・仕事をひと言で「官」と呼ぶことにし、市民の共通利益になる考えや行為を「公共」と呼ぶことにします。この場合、「官」は、それ独自の組織を持ちますが、その組織の存在理由は、市民の「公共」を支え、実現するところにあります。
 明治憲法(欽定憲法)下の日本の場合には、「官」が市民的な公共とは別に「公」という国家的な公共をもちましたが、それは、主権者が天皇であり、国民は臣民と位置づけられ、天皇の赤子とされたからです。しかし、現・日本国憲法下の日本では、主権者は国民(市民)であり、国民(市民)に税金で雇われている行政マンは、主権者の公共的利益を実現するために働く義務を負う訳です。
 したがって、市民的な「公共」とは別に「官」独自の公共=公を置くことは、原理上許されないはずです。「官」とは、「公共」の中にあるのであり、官と公共が並立しているのではなく、「公共」を支えるためにのみ「官」は存在するのですから、公共⊃官なのです。

 わたしは、以上の「主権在民という民主制社会の統治原理」の深い自覚が何より大切で、それが曖昧だと全ては砂上の楼閣になってしまう、と考えています。
 キムさんの言にもありますように、民主制の社会を前に進めるためには何をどう考え、どうしたらよいのか?それが社会問題を考え、解決するための最良の立場・視点のはずです。「自由の相互承認」に基づき、主権者の共通利益を探っていく営みが民主制社会における広い意味での政治であり、そのために何より必要なのが「自由対話」です。民主主義という思想を深めてゆくこと=民主主義を哲学することが「公共」を実現するための基盤であり、自由対話は民主主義による統治=自治の実践であって、それにより「公共」は現実のものとなるのでしょう。

 以上は原理上の話ですが、翻って現実を見ると、市民的公共は、官の独裁的とも思える強権によって押さえ込まれ、国民は、自分たちが税金で雇ったはずの官僚に逆に支配されているようです。官僚は威張り、実際上大臣さえ更迭できるほどの「公」をもち、その権力は天を突くほどです。外国の学者が日本を「官僚独裁国家」と規定するのも頷けます。
 ほんらいは、市民の公共を実現する機関・組織である「官」が、市民的な公共性とは異なる(上回る?)独自の公共性=「公」を持っているかのように振舞っています。厚生労働省が製薬会社の利益を「公」と考えて市民の命を犠牲にしたり、文部科学省が独自の「公」の思想によって教科書検定という思想統制を行ったり、警察や検察の「公」を建前とした人権軽視は後を絶たず、冤罪天国になるほどで、例を上げたらきりがないわけですが、このような彼ら「エリート官僚」の言動を支えているのが、市民的公共とは分立した国家的「公」という想念ではないでしょうか。
ひろく市民の英知につくこと以上の価値=国家の「公」があるという妄想を官僚が持つのは、彼らが歪んだ受験知の勝者で、国家公務員上級職という特別な地位にあるからでしょう。試験秀才は、思考力や想像力や創造力などの人間の最も人間的な能力においてはかえって劣っていることが多く、いわゆる正解が決まっている問題を早く解くだけの「パターン人間」です。わたしが「東大病」と呼ぶこのステレオタイプの頭脳の官僚は、前例に従って仕事をこなすに過ぎないのですが、「テスト秀才」であるが為に、自分を優秀だと思い込み、市民的公共以上の価値=「公」を持てるという反・民主主義的な倒錯した世界に生きるのです。
このイマジネーションに乏しい試験知=規格知=官知に基づく「お上意識」の横行が、日本社会からエロースを奪っているのですが、この有害な「公」という想念を生む「知」のありように現代の人間・社会問題の深因があることを指摘したのが、キムさんが「深い感動と熱い共感」をもたれた「白樺フィロソフィーと民知の理念」であったわけです。

わたしは、民主主義社会の原理につくならば、「公」とは幻想に過ぎず、原理上は、市民的公共以外に「公共」はなく、「官」の仕事は、国民からの委託で「公共」を支え、実現するものであり、官僚は国民のサービスマンである、と考えているのです。官僚は、「公」なる幻想上の花を愛でるのではなく、「公共」実現のための国民のサービスマンたれ!!
以上がわたしの見方ですが、それは、「公」と「私」を媒介する「公共」というキムさんのお考えとは、残念ながら整合しません。現実論、運動論としての理論を考えるキムさんと、原理を踏まえることに重きを置くわたしの立場が「違い」を生んでいるようです。わたしは、原理を繰り返し捉え返す営みによって現状に対する根底的な批判をしてくことが、遅いように見えても最も有効で早い現実変革への道だと考え、実践してきた者です。なぜなら、原理的思考の内実を豊饒化することが、不退転の意思を生むだけではなく、臨機応変・当意即妙の自由でしなやかな現実対応をも可能にすると思ってきたからです。

また、「私」の捉え方の違いも大きいのではないか?と思うのですが、長くなりましたので、今日のところはここまでにして、次回に書きたいと思います。キムさんとの認識及び基本視座の違いは違いとして尊重しつつ、お互いに更なる協力を進められたら幸いだと思う次第です。キムさんはいかがお考えでしょうか?

武田康弘









コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする