思索の日記 (クリックで全体が表示されます)

武田康弘の思索の日記です。「恋知」の生を提唱し、実践しています。白樺教育館ホームと共に

健全な力と美に満ちたケンペの名演集(10枚組)が出ました。

2015-06-12 | 芸術

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ルドルフ・ケンペの音楽は、十分にエネルギッシュだが、激するというところがない。
強奏しても美しさを失わない。
グラマラスではなく、筋肉質であり、響きは引き締まり適度な緊張感をもつ。
落ち着きと悦びが一つで、健全な精神を現わす。
内側から内発的に湧き出てくる音楽で、外面的効果を狙うのとは対照的。機械的なものや競争主義とはまったく無縁。愛とよろこびと自然。
言葉の最良の意味でクラシック。

生前は大変な人気だったが、現代の刺激に満ちた社会では少し忘れられがち。

慢性肝炎悪化のため、1976年5月にわずか65才11か月で亡くなってしまったが、彼の晩年の録音を集めた10枚組のボックスが出た。名演と讃えられた有名な録音だが、入手が難しかった。

グルダとのモーツァルトピアノ協奏曲もある。白鳥の歌の27番で大変な名演だ。
ラストレコーディングの一枚となったブルックナー4番と5番は、鬼気迫るような力に圧倒される。8番も同曲屈指の名演で、ピュアなエネルギーに溢れた名演。痺れ、震える。
得意のドボルザーク8番9番は、もうこれ以上はないほどの感動。新世界は別テイクの60年代のものもある。
代表作のブラームス交響曲全集も。

とにかく一等賞、一番、とか、突き詰めて精緻の限り、とか、現代のどこかヒステリックな精神とは無縁。ほんとうの強さ=自然性をもつ健康な音楽だ。

そう言えば、彼は、英国女王にもタクシードライバーにも態度を変えないナイスガイとしても有名で、その点は、巨人クレンペラーと同じ。クレンペラーも二階のボックス席(特別席)に娼婦たちを招待し、新聞等で非難轟々!で、彼は「なに?どこが問題なのか?同じ人間だ!」とやり返し、平然。

 

以下は、HMVのレビューです。とてもよく書けているので、貼り付けます。

ルドルフ・ケンペの芸術(10CD)
スクリベンダムのアルバムがお買得ボックス化!

ミュンヘン・フィルとのブラームス交響曲全集、ブルックナー交響曲第4番&第5番、ドヴォルザーク交響曲第8番、グルダとのモーツァルトのピアノ協奏曲第27番、トーンハレ管とのブルックナー交響曲第8番、『運命』&『新世界より』、ロイヤル・フィルとの『新世界より』『ローマの松』『ドン・ファン』などを収録しています。
 それぞれのディスクはスクリベンダムで発売された際のデザインによる紙ジャケットに封入され、スクリベンダムで発売されていなかったブルックナーの8番については、ex librisとTudorのオリジナル・デザインを使用しています。
 ちなみに、そのブルックナーの8番は、今回のスクリベンダムからの発売に際して新たなリマスターをおこない、以前のCDよりさらに解像度が上がり分厚くリッチなサウンドに仕上がっているのが朗報です。
 なお、このセットにはブックレットは付属しません。

【ケンペ】
ルドルフ・ケンペは、1910年ドレスデン近郊ニーダーポイリッツに生まれ、1976年チューリヒで死去したドイツの指揮者。1949-52年ドレスデン国立歌劇場の音楽総監督、1952-54年バイエルン国立歌劇場の音楽総監督のほか、ウィーン国立歌劇場、ロイヤル・オペラ、メトロポリタン・オペラ、バイロイト音楽祭などの指揮台に数多く登場したほか、1961-63年と1966-75年にかけてロイヤル・フィルハーモニーの首席指揮者、1965-72年にチューリヒ・トーンハレ管、1967-76年にはミュンヘン・フィルハーモニーの首席指揮者を歴任しました。

【収録情報】

 

Disc1
● ベートーヴェン:交響曲第5番ハ短調 op.67『運命』
● ドヴォルザーク:交響曲第9番ホ短調 op.95『新世界より』
 チューリッヒ・トーンハレ管弦楽団
 録音:1971年(ステレオ/セッション)

LP時代に人気のあったチューリヒ・トーンハレ管弦楽団を指揮したアルバムを復刻したもので、オリジナル・マスターから適切にリマスターした結果、見事な音質に蘇っています。
 豊かなホール・トーンを交えてオケの弾力的なサウンドが快適に響く美しく迫力に富む演奏で、自然な感興の盛り上がりとはこういうものかと思わせる推移の様子、真情のこもった白熱ぶりがたまりません。

 

Disc2-4
● ブラームス:交響曲第1番ハ短調 op.68
● ブラームス:交響曲第2番ニ長調 op.73
● ブラームス:交響曲第3番ヘ長調 op.90
● ブラームス:交響曲第4番ホ短調 op.98
 ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団
 録音:1975年(ステレオ/セッション)

ケンペ最晩年のレコーディングで、この指揮者の代表作のひとつと言われる全集。無用な気負いから解放され、作品の隅々にまで目を行き届かせた濃やかなアプローチが、ブラームスにふさわしい親密な音楽を作りあげることに成功しており、飾り気のないオケの響きも、昔のミュンヘン・フィルならではの自然体の良さが滲み出ています。指揮者の解釈との相性も抜群です。
 率直で飾らぬ芸風の中に重厚な雰囲気を漂わせたスタイルが身上のケンペとはいえ、ここまで恣意性とは無縁でありながら、作品が本来そなえている自然な感興にナチュラルに寄り添った表現は、やはりこの時期だからこそ達成されたもの。楽器配置も正統的なヴァイオリン両翼型を採用しています。

 

Disc5-6
● ブルックナー:交響曲第4番変ホ長調『ロマンティック』
● ブルックナー:交響曲第5番変ロ長調
 ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団
 録音:1975,1976年(ステレオ/セッション)

ケンペの数あるレコーディングの中でもきわめて人気が高いのがブルックナー作品で、堅牢な構築美、いかにもドイツ的なオーケストラのシブい音が作品にピタリとはまっています。
 造形感覚もあくまで雄大、しかもその芯には強い力がみなぎっており、ケンペ絶好調時ならではの逞しい音楽づくりが実に快適。ヴァイオリン両翼の楽器配置も効果的で、4番第1楽章の第2主題部などでも立体的なフレーズの受け渡しが強く印象に残ります。名高い第5番も素晴らしい出来栄えで、終楽章コーダの晴れ晴れとした雄大なスケールの音楽は感動的です。
 リマスタリングも両曲ともに成功と言える水準にあり、ブルックナーに不可欠の引き締まった弦楽と、壮麗な金管セクションの見事な融和が良好な音質で味わえるのが嬉しいところ。ノヴァーク版を使用しています。

 

Disc7-8
● ブルックナー:交響曲第8番ハ短調
 チューリッヒ・トーンハレ管弦楽団
 録音:1971年(ステレオ/セッション)
 新リマスタリング

この録音が登場した1970年代は、各社から方式乱立の状態で4チャンネル・レコードが発売されていた時期にあたり、2チャンネル収録の音源でも、残響付加などして擬似的に方式転換のうえ4チャンネル・リリースされていたという、今にして思えばなんとも大らかな時代でもありました。
 ケンペの録音もご多分に漏れず、EMI(Electrola)のシュトラウスにしても、このex librisのブルックナーにしても、4チャンネル仕様に変換して発売され、通常の2チャンネル装置で聴く人間にとっては少々多すぎる残響の海の中から、何とか細部情報を聴きとっていたことを思い出します(4チャンネルの装置でも細部情報は駄目でしたが)。
 今回のスクリベンダムからの発売に際しては、2000年にSOMMレーベルからリリースされたCDと同じく、そうしたエフェクト・マスターは使用せず、2チャンネルのオリジナル・テープからCD化をおこなっていますが、新たなリマスターにより、さらに解像度があがり分厚くリッチなサウンドに仕上がっているのが朗報です。

 

Disc9
グルダ&ケンペ/ライヴ1972 イン・デュッセルドルフ
● ワーグナー:『ニュルンベルクのマイスタージンガー』第1幕への前奏曲
● モーツァルト:ピアノ協奏曲第27番K.595
● ドヴォルザーク:交響曲第8番ト長調 op.88
 フリードリヒ・グルダ(ピアノ)
 ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団
 録音:1972年(ステレオ/ライヴ)

1972年11月29日、ドイツ正統派の守護神として黄金期を迎えつつあったケンペ&ミュンヘン・フィルはデュッセルドルフで障害者の福祉を目的とした慈善演奏会に出演しました。そしてこのコンサートの収益及び実況を収めたレコードの売上は、時の大統領夫人ヒルダ・ハイネマンの名を冠した基金に寄贈されることになっていたのです。
 大統領夫妻が臨席した当日のコンサートは、晴れやかな雰囲気の中、ワーグナーの『ニュルンベルクのマイスタージンガー』前奏曲により堂々と開始されます。ケンペの微妙にテンポを揺らした柔軟なアプローチとミュンヘン・フィルの明るく充実した響きが快適です。
 2曲目は当日の呼び物となっていた人気ピアニスト、フリードリヒ・グルダによるモーツァルトのピアノ協奏曲第27番。グルダは持ち前の美音を駆使し、控えめで端正な表現ながらも力強さと軽やかさを併せ持った表情豊かな演奏を聞かせます。第2楽章や第3楽章で頻出するグルダならではの自由な装飾音も自然な感興に溢れており魅力的です。
 そしてプログラムの最後を飾ったのがドヴォルザークの交響曲第8番。ケンペの特質である自然で流麗なフレージング、透明な音色感、生気に満ちたエネルギーの解放が際立った演奏です。第1楽章冒頭から美しく歌うチェロに心奪われ、コーダでは見事なアッチェレランドが白熱したクライマックスを演出します。有名な第3楽章は特に聴き物で、ケンペの繊細なリリシズムを反映し、時にポルタメントをかけたノスタルジックで甘美な弦の旋律が印象的です。オリジナルLPは2枚組でしたがCDは1枚に収録しています。

 

Disc10
● R.シュトラウス:交響詩『ドン・ファン』op.20
● レスピーギ:交響詩『ローマの松』
● ドヴォルザーク:交響曲第9番ホ短調,op.95『新世界より』
 ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽楽団

 

 録音:1964年、1962年[新世界](ステレオ/セッション)

アメリカの会員制の通信販売会社(出版社)であったリーダーズ・ダイジェスト社は、ステレオ初期に自社企画のクラシックLPも取り扱っており、数々の名盤を世に送り出したのは有名な話。コンサート・ホール・レーベルと似ていますが、最も異なるのはその音質。クラシックのLPを、高いステイタスを持つアイテムとして捉え、サウンド・クオリティを重視したリーダーズ・ダイジェスト社は、その制作を高音質で知られた米RCAに依頼したのです。さらに、RCAは当時、英DECCAと提携関係にあったため、この録音のように、プロデューサーがRCAのチャールズ・ゲルハルト(ガーハート)、エンジニアがDECCAのケネス・E・ウィルキンスンというような夢の組み合わせが実現できたわけですが、実際、このコンビが達成したサウンド・クオリティには素晴らしいものがありました。
 ここでもケンペ得意の『新世界』に、同じく好んでいた『ドン・ファン』、そしてやはり何度も指揮していたという『ローマの松』を、技量のすぐれたオケ&優秀な録音により細部まで味わうことができます。(HMV) 

 

 

 

 

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