ポール・ルイスは、既存の枠組みをブチ壊して進む。常識?なんだそれ、常識はわたしがつくるのだ。
わたしは、こう感じ、こう思い、こう考え、こう弾く。誰がどうしようと、巨匠の解釈がどうであろうと、そんなものは、全然関係ない。
打鍵は、強く深く落ち、揺るぎない自信に満ちている。
変わったこと、恣意的なことはしない。堂々と自己の信じる道を進み、外連味(けれんみ)がない。ためらわずに、少しも歪まずに、天空を駆け巡り、大地をグングン進む。
なんと気持ちがよいのだろう。 この晴れやかさは、同時に、人間的な優しさと愛に満ちている。
ルイスのCDは、日本盤がない。この断固たる自己への忠実は、「ああでもない、こうでもない」のウジウジの人には分からないのかな? 日本のクラシック専門家には「音楽音痴」が多い?(笑・失礼)。
いま、ルイスのCD=ムソルグスキー「展覧会の絵」をかけていたら、妻が清瀬保二?と言った。なるほど、孤高で揺るぎない自然態は同じ。高音の輝きと打鍵の確固たる強さも。ああ、そうだ!清瀬保二はムソルグスキーが好き、とお弟子の故・松橋桂子さんが話していた。みな、観念優先ではなく、足が地についている。
そして、その強さには、優しさと愛の強い支えがある。だから、温もりがあり、ファンタジーの世界が広がる。二曲目のシューマンの幻想曲は、しっかりとした芯をもつ美しさだ。透明感のある音で、かつ豊かな身体性をもつ。
大好きなピアニスト、ポール・ルイスに、乾杯!! 今年11月の来日公演、とても楽しみだ。
武田康弘