先日、外国人観光客が雷門のまえで騒いでたから……
「……熱いわ――この乳も酔っている……」
と、いって寂しく微笑んだ。
「人目があります。これでは巡礼して、肌を曝しては、あるかれませんね。ぽっちり薄紅を引きましょうか、……まあ、それだと、乳首に見えようも知れません。」
浅葱の絵の具を取って、線を入れた。白雪の乳房に青い静脈は畝らないで、うすく輪取って、双の大輪の朝顔が、面影を、ぱっと咲いた。
蔓を引いて、葉を添えた。
「うまいなあ、大野木夫人。」
「知らない。――このくらいな絵は学校で習います。同行二人――あとは、あなた書いて下さいな。」
「御意のままです、畏まった。」
――泉鏡花「白花の朝顔」