「袴垂、保昌に会ふこと」(『宇治拾遺物語』)では、捕まった盗賊が過去を振り返って、ある人物について「あさましくむくつけく恐ろしかりしか」といった言葉を吐くのであるが、――人を評するときにこういう言葉を使うことそのものに興味をひかれる。神仏に使うなら分かるのであるが……。いや、神仏に対しても同じことか……。保昌はここで鬼神のようなものとされているわけだから……
袴垂という優れた盗賊が、偶然、藤原保昌を付け狙ってしまう。冬が近く、盗賊も焦ったのか、狙いを間違えた。保昌の方は、笛を吹きながらゆっくり歩いていた。盗賊は何かを感じて近づけなかったが、思い切って近づくと、「お前
衣の用あらん時は、参りて申せ。心も知らざらん人にとりかかりて、汝あやまちすな
この「心も知らざらん」というのをどういう風に訳せばよいかわからないが、話の内容からして、とにかく、盗賊のすごいレベルとは比べものにならないレベルというものがあるのだということは分かる。本当かどうかは知らない。何しろ、こいつは道長の家司である。またこいつの弟は盗賊としても有名で、――まあ、要するに、道長も含めてみんな盗賊みたいなもんだったのだ。だから階級をつけたがるのである。
保昌は和泉式部の再婚相手であった。とにかくすごい人物の周囲もすごくなるもので、――半分以上は幻想である。