雛衣が、はや握り持つつかの間に、晃かしたる刄の電光、刀尖深く乳の下へ、ぐさと衝き立て引き遶らせば、颯と濆る鮮血と共に、顕れ出づる一箇の霊玉、勢いさながら鳥銃の、火蓋を切って放せし如く、前面に坐したる一角が、鳩尾骨はたと打ち砕けば、
「苦」
と一声叫びも果てず、手足を張ってぞ仆れける。
実は現八は戸棚に隠れているのであるが、――隠れたところから手裏剣が、みたいな場面が大好きな八犬伝なのである。上の如く、腹を掻っ捌いてしまったのは、角太郎の妻。実は角太郎の父はもう死んでいるのであるが、一角(実は化け猫)を父親と思っている。前の場面で片目をやられた贋父実は化け猫が、雛衣の血と胎児の肝が必要だとか言う。勿論、角太郎は断るが、雛ちゃんはお馬鹿だったのか(実は以前、「礼」の玉を誤って飲んだ実績あり)、「躊躇いません」といい(←おいっ)上の次第となったのである。「ぐさ」とかいう擬態語が「コロコロコミックか」という感じであり、一気に現実から小学生低学年的世界に移行し――誤飲の玉が鉄砲(鳥銃)の玉のように暴発、一角(実は化け猫)の胸板を粉砕!
実はの連鎖が、結局、霊玉で悪玉を瞬殺するとは、まるで洒落である。
実は好奇心のゆえに、しかれども予は予が画師たるを利器として、ともかくも口実を設けつつ、予と兄弟もただならざる医学士高峰をしいて、某の日東京府下の一病院において、渠が刀を下すべき、貴船伯爵夫人の手術をば予をして見せしむることを余儀なくしたり。
――泉鏡花「外科室」(太字は渡邊)
この医者も実は惚れられた相手の手術を麻酔なしでしてしまう恐ろしい御仁。人は「実は」と言い出したときには、何か酷いことをしかねないのである。
To tell the truth, I don’t like my job.
こんな態度も実は危ない。ホントに嫌いなものは別にあったりするものである。周囲はだいたい気づかない。――それはともかく、角太郎は錯乱状態。そこで現八がでてきて、髑髏をさっと出す。角太郎の血が、その髑髏に吸い込まれる。
「慓り給うな犬村ぬし、打ち仆されし一角は、御辺の真の親ならず、この髑髏こそ真の亡父、赤岩一角武遠大人の、白骨なるをしらざるや。今面りに骨と血と、ひとつに凝りしは親子の証据。告ぐべき事の多かるに、怒りを刄と倶に斂めて、よく聞かれよ」
血を吸い込む髑髏とはどういうことでしょう。実は掃除機か何かではないでしょうか。