★さちゅりこん――渡邊史郎と縦塗横抹

世界が矛盾的自己同一的形成として、現在において過去と未来とが一となるという時、我々は反省的である。(西田幾多郎)

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2024-11-29 23:05:35 | 思想


花田 昔、『週刊文春』の合併号の時に「こいつだけは許せない」という特集をよく組んでたんだけれど、読者の反応は良かったよ。もちろん、誰を取り上げるかは編集部のみんなといろいろ相談したりはするんだけどね。他の雑誌も真似して、似たような企画をやっていたけれど、つまんないんだよ(笑)。作家の大石静さんから、「花田さんは人気絶頂期から少し落ちてきたころの、叩きがいがある人やタイミングを見極めるのが絶妙」と言われたことがあるけれど、そういうことなのかもしれない。

――「なんか最近、鼻につくよな」というのがわかる嗅覚がある、と。2010年代に『週刊文春』が部数を伸ばしたときに編集長だった新谷学さんは「文春砲」と呼ばれていましたが、花田さんはその元祖ですか。

花田 ぼくは「文春砲」って好きじゃないんですよ。


――梶原麻衣子『「”右翼”雑誌」の舞台裏』


花田と言うてもキヨテルの方ではなく、紀凱の方である。キヨテルのほうは、どこかで、戦時中はマルクス主義の本が古本屋で安く大量にでてから買ったまでだ、ファシストの本が安かったらファシストになってたかも、と言っていた。月刊Hanadaが安いか高いかしらないが、よのなかのプロレタリアートがいかに本を買うかということを、ブルジョア学者と同じように考えてはならぬ。

昭和初期とかの円本は安かったので大衆にも買われたんだという言い方が屡々されるけれども、田舎のプロレタリアートの家では一生懸命働いて買ったものだし家宝なので、例えば子供が嫁に行くとき、第一巻をわたすので形見にせよ、みたいな扱いであったとも聞いたことがある。本は床の間に置いておく家宝であった。そもそも食べ物以外のものを「買う」ことに、それを家宝にする的な感覚が残っていた気がする。

戦後、西田幾多郎全集の発売に殺到したひとがいたという都市傳説があるが、それ自体、ファクトとは違う希望的ななにかである。まだその頃は、哲学に対するよりも、本そのものが善であるみたいな感覚が広く共有されて居たに違いない。おそらく、戦中にでてた転向左翼の本とか京都学派、国粋的なものすべてがごっちゃに購入されていた家庭がかなりあったのかもしれない。そのなかで発酵する何かは、左翼の転向とは違う。インテリの転向は思想の転向かもしれないが、とにかくいろいろエライもんだとおもって摂取してた、みたいなあり方を考えてとかないといけない。そうかんがえると、インテリもそうかもしれない。

それはともかく、いまだったら東京に集まってしまうような頭脳が田舎に残って知的な爪痕を残そうと教育に携わったりしていて、その影響はどこかしらあった。それが今は難しい。日本は鰯の頭よりはやく地方の手足から腐っていっている。よくいわれるけど、ちょっとぐらい勉強が出来ただけで、東京に人が吸い取られる、ほんとの中央集権の恐ろしさを、さいきん我々は知り始めたばかりなのである。

地方創生とか地方を大事に、みたいなのは戦争中も行われてた中央の翼賛統制策にすぎず、大事なのは中央集権制の打破だと思う。これは明らかに思想問題であって、そう考えたほうが解決ははやいのだ。地方への愛、郷土愛を醸成しようとしても、地方の特色こそ全国的に大差ないのだからほんとにやっても認識の実質がついてこない。いまよくいわれている教師不足の問題も根本的な原因はそれで、教師をやれるような頭脳がついに田舎に残らなくなってしまい、方便としてコミュニケーション能力でもやれますみたいなことを言っていたが、ついにその嘘もばれているだけだ。

むろん、地方のインテリの爪痕残そう現象は、よいことばかりではなかった。間違いの多いものも残してしまった。例えば民話の保存とかでも、決定的にまずい改変とかが残ってしまっている。あと、中央インテリに対するコンプレックスが、単に知的なものに対する憎悪になり、それを田舎のこどもに説得的に注入してしまうみたいなことも実際に起こっていた。

こういう問題は地方という空間的外部に起こるだけではない。あらゆるところで、親や先祖やたまたま知った文人の顕彰を勝手に買って出る人間が微妙な仕事をしてやっかいなことになっている場合も多い。地方の学者の役割は、そういうもののオーソライズや検証を外注されて奴隷となることではない。ある意味、上の花田氏のような素直な狷介さが地方の学者には必要であろう。花田氏は、ただ共感してもらいたくて雑誌をつくっているという。顕彰などどうでもよく、ただ共感を求めている。撃たれた安倍氏にもそんなところがあって、――ある種の右派にしかこういう素朴さが残っていないところがこの国の腐り具合を示している。


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