1971年初版 矢川澄子/訳 矢吹申彦/ケース・イラスト
最初、ヒトがネコになるという急なファンタジーに違和感を感じたけれども
猫世界にどっぷり浸かって、自分の腕にも白い毛が生えた気になって没入した
これだけのボリュームでひとつの物語を描き切る作家の力量が凄い
私なら、最後、ピーターの家に着いて、ヒトに戻り
ジェニーと暮らすエンディングを思い描いていたが
さらに二転三転する肉づけに引き込まれた
まるで映画みたいな夢を見ても、目が覚めると
あっという間に現実に戻って忘れてしまう感じ、分かるなあ
きっと魂だけパラレルワールドを体験してるんだろうな
あとがきにファム・ファタールのような記述があり、なるほど
ジェニーが女性性の象徴ということか
舞台がロンドンで、戦後間もない頃というと
先日読んだ『焼けあとの雑草』と同じだが
家も、親もあり、食糧も全然困っていない感じが意外
この違いは何だろう?
【内容抜粋メモ】
登場人物
ピーター 8歳の少年
父 陸軍大佐
母
ばあや
デンプシー 大きな黄色いオス猫
ジェニー
ビル・グリムズ老人
交通事故に遭ったピーター
猫が好きで、ずっと飼いたいと思っていたが
軍人の父はほとんど家にいないし、若く美しい母もいつも出かけていて
一人息子のピーターをばあやに任せきり
そのばあやは大の猫嫌い
ばあやが郵便屋を喋っている間に、小さな虎猫を追って道路を横切り、クルマに轢かれた
気づくと、ピーターは猫になっていて、ばあやに家からつまみ出されてしまう
*
自動車や馬車の車輪、人の足、大きな音、どしゃぶりの雨に怯えて
気づくと倉庫にたどり着き、大きな黄色いオス猫デンプシーのテリトリーに入って
猛烈なパンチを喰らって意識を失う
オス猫:今度こそきっと殺してやるからな!
*
意識が戻ると、ナポレオンのベッドの上で、メスの虎猫ジェニーに体中なめられると
母の腕に抱きしめられた時のような心地になる
すっかり元気になり、ジェニーが持ってきたネズミに戸惑いながら
ひと口食べてみると美味しいと思う
ここは公共の家具置き場で、ジェニーに事情を話すと
最初は信じないが、猫らしくない態度に納得する
ジェニー:ほんとに猫になる気なら、猫になるお稽古から始めなければ
「こまったらなめろ」
まずは体中のなめ方から丁寧に教えてくれるジェニー
背中の後ろも、しっぽも、体をよじればどこでも届くことが分かる
*
ジェニーの先祖はエジプトで神とあがめられていたと話す
小さな女の子バフにとても可愛がられていたが
2年前、一家が引っ越す時に置いていかれた身の上を話して涙を流す
ピーターは猫を愛する者はそんなことしない、きっと誤解しているんだと主張するが
ジェニーはもう二度と人間を信じまいと誓ったと話す
「飛び出す前に止まれ 止まらず、知らずに飛び出した子猫で、天国は満員」
ピーターはミルクが飲みたくなり、桟橋そばの掘っ立て小屋に住む
猫好きのビル・グリムズ老人を訪ねると早速ミルクとレバーを分けてくれる
グリムズ老人は2人に一緒に住まないかと誘うが
ドアが開いた隙にすり抜けて逃げるジェニー
ジェニー:私たちを買収しようとしたのよ 分からないの?
ジェニーはピーターが人の言葉を理解し、文字が読めることに驚き
生まれたグラスゴーの町が見たいから、船に乗って行こうと誘う
ジェニー:船に猫を乗せると縁起がいいそうだし、船乗りは縁起をかつぐものなのよ
グラスゴー行きのグリーノック伯爵夫人号に乗り
ジェニーはピーターにネズミの捕り方も教える
船賃代わりにネズミをたくさん捕って見せると感心する船員たち
農家になりたくて海が大嫌いな船長は、機嫌を損ねると皿を割るクセがある
一等航海士ストレイチャンはフェンシングが趣味
コックのミーリーは2人に毎日ごちそうを作ってくれる
二等航海士カールークは物語を書く
水夫長アンガスは大男だが刺繍が上手くて1つ3ポンドの収入にしている
*
大ネズミに咬まれたら病気が感染るから気をつけねばならない
ピーターは空中にジャンプして背中の急所を噛んで
テリアほど大きいネズミをしとめた
船員が沸いて、欄干で寝ていたジェニーはピーターがヤラれたのかと驚いたため海に落ちてしまう!
それを見たピーターはジェニーを助けるために海に飛び込む
意識を失ったジェニーと波間を漂っていると、船員たちが救命ボートで助けてくれる
サワリーズ船長は猫ごときで船を停めた罰にストレイチャンをクビにする
ジェニーは死んでしまったかに見えたが、ピーターがなめてあげると意識が戻る
珍しい事件に機嫌が直った船長はクビを撤回する
*
ストレイチャンは船が陸に着くと、2人を居酒屋に連れて行き
世にも珍しい事件を話すと、ウソつき呼ばわりされてケンカになる
警官が来て、ようやくケンカ騒ぎが止まり、2人はドアから逃げだす
*
ジェニーはふさぎこむことが増える
グラスゴーではゴミ箱を漁ったり、工業都市の煙ですっかり真っ黒になる2人
急に3匹の犬に噛みつかれそうになり、夢中でのぼり続けて
気づいたら、2人とも高い塔の上にいて、降りれなくなる
ジェニー:猫って時々、自分で高い所にのぼって降りられなくなるの
だが、ピーターが思った通り、消防車などが駆けつけて救出してくれる
取材が終わると、群衆はあっという間に散って、2人だけあとに残される
ジェニー:
私、グリムズさんの所で暮らしたい
もう二度とこんな目に遭いたくない
2人は再びグリーノック伯爵夫人号に乗って、ロンドンに帰る
だが、グリムズ老人は1人ベッドで安らかに亡くなっていた
*
ピーターは後悔や自責の念、悲しみに沈むジェニーの気をそらせるために
ミューズの自宅に戻りたいから助けて欲しいと頼む
ジェニーは犬についての知識や、体をふくらませて威嚇する方法も伝授する
知っている町に着いて、まず顔役の大きな黒いオス猫に挨拶する
彼は爆弾でやられた家が野良猫屋敷になってると教える
ピーターの家に着くと、「この家貸します」と張り紙がしてある
泣いて悲しむピーターをなぐさめていると、バフが出て来て、ジェニーとの再会を喜ぶ
ピーターが思った通り、バフはジェニーを捨てたのではなく
急病になって、回復した時にはもうジェニーがいなかったと話す
ジェニーは家に入れてもらえるが、ピーターは外に出されてしまう
ジェニー:爆撃あとの家に私も行くから待ってて
野良猫屋敷に行くと、ジェニーが家を抜け出している
ジェニー:帰る気はなくてよ ご迷惑でなければ一緒にいてもいい?
*
翌朝、ジェニーになにか食べ物をとってきてあげようと思ったが
ルルという子猫のワガママな様子に夢中になり、一緒に出かけるピーター
遊園地ではお腹いっぱいアイスクリームを食べさせる
ルル:昨日と今日は違うわ 明日はもっとよくなると思わない?
3日ほど経って、ルルは気まぐれに家へ帰ってしまう
*
ピーターは我に返って、野良猫屋敷に行くとジェニーはいない
バフの家、グリムズ老人のいた小屋
グリーノック伯爵夫人号も見に行くがいない
呆然として、ふらりと立ち寄った倉庫でようやく2人は再会する
ジェニーはもうすっかりピーターを許していたが心ここにあらずの様子
ジェニー:
デンプシーに命令されたから行かなきゃならない
あなたがあいつを殺すか、あいつがあなたを殺すしか解決の道はない
ピーターは軍人の息子として、デンプシーに挑む決心をすると
ジェニーは体を張ってピーターに猫の戦い方を猛特訓する
*
ピーターは不意打ちはせず、デンプシーに決闘を申し込むが
百戦錬磨のデンプシーはピーターを壁に追いつめて攻撃する
めちゃくちゃにヤラれたピーターは大ネズミを仕留めた時を思い出し
ジャンプして背中に乗って急所を噛んでデンプシーに勝つ
母の呼ぶ声に目を覚ますと、再び少年に戻って病院に寝ている
ばあやはピーターを喜ばせるため、子猫を飼ってもいいともっている
ピーター:ぼく、ジェニーが欲しい!
少し冷静になると、野良猫の孤独が伝わり、すっかり気に入る
母:なんて名前にする?
たしか名前があったはずだ、と思うが浮かばない
ピーター:スマッジー(汚れた顔)て呼んでやろう
■あとがき
ポール・ギャリコ
名作『白い鴈』などで知られる世界的大作家の1人 NY生まれ
本書は53歳の時の傑作
最初、ヒトがネコになるという急なファンタジーに違和感を感じたけれども
猫世界にどっぷり浸かって、自分の腕にも白い毛が生えた気になって没入した
これだけのボリュームでひとつの物語を描き切る作家の力量が凄い
私なら、最後、ピーターの家に着いて、ヒトに戻り
ジェニーと暮らすエンディングを思い描いていたが
さらに二転三転する肉づけに引き込まれた
まるで映画みたいな夢を見ても、目が覚めると
あっという間に現実に戻って忘れてしまう感じ、分かるなあ
きっと魂だけパラレルワールドを体験してるんだろうな
あとがきにファム・ファタールのような記述があり、なるほど
ジェニーが女性性の象徴ということか
舞台がロンドンで、戦後間もない頃というと
先日読んだ『焼けあとの雑草』と同じだが
家も、親もあり、食糧も全然困っていない感じが意外
この違いは何だろう?
【内容抜粋メモ】
登場人物
ピーター 8歳の少年
父 陸軍大佐
母
ばあや
デンプシー 大きな黄色いオス猫
ジェニー
ビル・グリムズ老人
交通事故に遭ったピーター
猫が好きで、ずっと飼いたいと思っていたが
軍人の父はほとんど家にいないし、若く美しい母もいつも出かけていて
一人息子のピーターをばあやに任せきり
そのばあやは大の猫嫌い
ばあやが郵便屋を喋っている間に、小さな虎猫を追って道路を横切り、クルマに轢かれた
気づくと、ピーターは猫になっていて、ばあやに家からつまみ出されてしまう
*
自動車や馬車の車輪、人の足、大きな音、どしゃぶりの雨に怯えて
気づくと倉庫にたどり着き、大きな黄色いオス猫デンプシーのテリトリーに入って
猛烈なパンチを喰らって意識を失う
オス猫:今度こそきっと殺してやるからな!
*
意識が戻ると、ナポレオンのベッドの上で、メスの虎猫ジェニーに体中なめられると
母の腕に抱きしめられた時のような心地になる
すっかり元気になり、ジェニーが持ってきたネズミに戸惑いながら
ひと口食べてみると美味しいと思う
ここは公共の家具置き場で、ジェニーに事情を話すと
最初は信じないが、猫らしくない態度に納得する
ジェニー:ほんとに猫になる気なら、猫になるお稽古から始めなければ
「こまったらなめろ」
まずは体中のなめ方から丁寧に教えてくれるジェニー
背中の後ろも、しっぽも、体をよじればどこでも届くことが分かる
*
ジェニーの先祖はエジプトで神とあがめられていたと話す
小さな女の子バフにとても可愛がられていたが
2年前、一家が引っ越す時に置いていかれた身の上を話して涙を流す
ピーターは猫を愛する者はそんなことしない、きっと誤解しているんだと主張するが
ジェニーはもう二度と人間を信じまいと誓ったと話す
「飛び出す前に止まれ 止まらず、知らずに飛び出した子猫で、天国は満員」
ピーターはミルクが飲みたくなり、桟橋そばの掘っ立て小屋に住む
猫好きのビル・グリムズ老人を訪ねると早速ミルクとレバーを分けてくれる
グリムズ老人は2人に一緒に住まないかと誘うが
ドアが開いた隙にすり抜けて逃げるジェニー
ジェニー:私たちを買収しようとしたのよ 分からないの?
ジェニーはピーターが人の言葉を理解し、文字が読めることに驚き
生まれたグラスゴーの町が見たいから、船に乗って行こうと誘う
ジェニー:船に猫を乗せると縁起がいいそうだし、船乗りは縁起をかつぐものなのよ
グラスゴー行きのグリーノック伯爵夫人号に乗り
ジェニーはピーターにネズミの捕り方も教える
船賃代わりにネズミをたくさん捕って見せると感心する船員たち
農家になりたくて海が大嫌いな船長は、機嫌を損ねると皿を割るクセがある
一等航海士ストレイチャンはフェンシングが趣味
コックのミーリーは2人に毎日ごちそうを作ってくれる
二等航海士カールークは物語を書く
水夫長アンガスは大男だが刺繍が上手くて1つ3ポンドの収入にしている
*
大ネズミに咬まれたら病気が感染るから気をつけねばならない
ピーターは空中にジャンプして背中の急所を噛んで
テリアほど大きいネズミをしとめた
船員が沸いて、欄干で寝ていたジェニーはピーターがヤラれたのかと驚いたため海に落ちてしまう!
それを見たピーターはジェニーを助けるために海に飛び込む
意識を失ったジェニーと波間を漂っていると、船員たちが救命ボートで助けてくれる
サワリーズ船長は猫ごときで船を停めた罰にストレイチャンをクビにする
ジェニーは死んでしまったかに見えたが、ピーターがなめてあげると意識が戻る
珍しい事件に機嫌が直った船長はクビを撤回する
*
ストレイチャンは船が陸に着くと、2人を居酒屋に連れて行き
世にも珍しい事件を話すと、ウソつき呼ばわりされてケンカになる
警官が来て、ようやくケンカ騒ぎが止まり、2人はドアから逃げだす
*
ジェニーはふさぎこむことが増える
グラスゴーではゴミ箱を漁ったり、工業都市の煙ですっかり真っ黒になる2人
急に3匹の犬に噛みつかれそうになり、夢中でのぼり続けて
気づいたら、2人とも高い塔の上にいて、降りれなくなる
ジェニー:猫って時々、自分で高い所にのぼって降りられなくなるの
だが、ピーターが思った通り、消防車などが駆けつけて救出してくれる
取材が終わると、群衆はあっという間に散って、2人だけあとに残される
ジェニー:
私、グリムズさんの所で暮らしたい
もう二度とこんな目に遭いたくない
2人は再びグリーノック伯爵夫人号に乗って、ロンドンに帰る
だが、グリムズ老人は1人ベッドで安らかに亡くなっていた
*
ピーターは後悔や自責の念、悲しみに沈むジェニーの気をそらせるために
ミューズの自宅に戻りたいから助けて欲しいと頼む
ジェニーは犬についての知識や、体をふくらませて威嚇する方法も伝授する
知っている町に着いて、まず顔役の大きな黒いオス猫に挨拶する
彼は爆弾でやられた家が野良猫屋敷になってると教える
ピーターの家に着くと、「この家貸します」と張り紙がしてある
泣いて悲しむピーターをなぐさめていると、バフが出て来て、ジェニーとの再会を喜ぶ
ピーターが思った通り、バフはジェニーを捨てたのではなく
急病になって、回復した時にはもうジェニーがいなかったと話す
ジェニーは家に入れてもらえるが、ピーターは外に出されてしまう
ジェニー:爆撃あとの家に私も行くから待ってて
野良猫屋敷に行くと、ジェニーが家を抜け出している
ジェニー:帰る気はなくてよ ご迷惑でなければ一緒にいてもいい?
*
翌朝、ジェニーになにか食べ物をとってきてあげようと思ったが
ルルという子猫のワガママな様子に夢中になり、一緒に出かけるピーター
遊園地ではお腹いっぱいアイスクリームを食べさせる
ルル:昨日と今日は違うわ 明日はもっとよくなると思わない?
3日ほど経って、ルルは気まぐれに家へ帰ってしまう
*
ピーターは我に返って、野良猫屋敷に行くとジェニーはいない
バフの家、グリムズ老人のいた小屋
グリーノック伯爵夫人号も見に行くがいない
呆然として、ふらりと立ち寄った倉庫でようやく2人は再会する
ジェニーはもうすっかりピーターを許していたが心ここにあらずの様子
ジェニー:
デンプシーに命令されたから行かなきゃならない
あなたがあいつを殺すか、あいつがあなたを殺すしか解決の道はない
ピーターは軍人の息子として、デンプシーに挑む決心をすると
ジェニーは体を張ってピーターに猫の戦い方を猛特訓する
*
ピーターは不意打ちはせず、デンプシーに決闘を申し込むが
百戦錬磨のデンプシーはピーターを壁に追いつめて攻撃する
めちゃくちゃにヤラれたピーターは大ネズミを仕留めた時を思い出し
ジャンプして背中に乗って急所を噛んでデンプシーに勝つ
母の呼ぶ声に目を覚ますと、再び少年に戻って病院に寝ている
ばあやはピーターを喜ばせるため、子猫を飼ってもいいともっている
ピーター:ぼく、ジェニーが欲しい!
少し冷静になると、野良猫の孤独が伝わり、すっかり気に入る
母:なんて名前にする?
たしか名前があったはずだ、と思うが浮かばない
ピーター:スマッジー(汚れた顔)て呼んでやろう
■あとがき
ポール・ギャリコ
名作『白い鴈』などで知られる世界的大作家の1人 NY生まれ
本書は53歳の時の傑作